INTERVIEW
医療を共に創るための「ハブ」になる
2024年、挑戦する医師につながるサイト「coFFee doctors」は10周年を迎えます。多くの先生方のご協力があったからこその10周年。そしてこの間、社会の変化とともに、医師を取り巻く環境も大きく変化してきました。そこで、これまでの感謝も込めて、過去にインタビューさせていただいた先生方が現在、どういったことを考え、どのような活動に注力しているのか伺う企画「coFFeedoctors 10years」を始めます。
第4弾は沖山 翔先生。3年間に1万人の患者さんから90万枚の画像を収集しAI医療機器の開発を進めるアイリスを率いています。日本初となる「治験を経た」AI医療器機の開発は大詰めを迎えています。アイリスのミッションにある「ひらかれた医療」とは何か。「患者も医療における大事な役割の1つ」と位置づける沖山先生が描く未来とは――。
前回のインタビューでお話していた、人工知能(AI)技術を応用したインフルエンザを診断するAI医療機器の開発については、治験が終わって目標としていた精度と安全性を達成し、現在、医療機器製造販売承認申請をしています。また、これに続く機器の開発にも着手しています。
AIを使った医療機器はすでに複数のものが出ています。私たちのものが少し特殊なのは、生身の患者さんでの治験を経ている点です。AI医療機器の場合、これまではデータベースでの精度検証が一般的でした。PubMedやclinicaltrial.govなどのサイトによると、世界で300以上の品目が出ているAI医療機器のうち、治験を経たものは4機器でした。治験を経たAI医療機器の申請として、アイリスのAI医療機器は世界でおそらく5番目、日本では第1号です。
AI学習に必要となるデータ作りから行っているので、質の高い咽頭画像を多く集めることは欠かせませんでした。ありがたいことに、全国73施設の先生方にご協力いただき、1万人を超える患者さんから90万枚の咽頭画像を提供いただきました。お声がけさせていただいたほとんどの先生方にご賛同いただき、どこも忙しい施設ばかりのはずのところ、断られることはほとんどありませんでした。
うまくいった理由は、私たちを理解してもらうのではなく、先生方を理解するように心がけていたからだと思います。
多くの先生方にとって、患者さんに説明して喉の画像を撮らせてもらうメリットは、その時点においては特にありません。でも、新しい医療をつくることやAI技術、研究など、医療の担い手として、私たちの事業のどこかしらには関心を持ってくださいます。
その先生が、事業のどこに興味を持ってくれそうか――。それは、それぞれの先生のバックグランドからも何となく伝わってきます。反対に先生方も、私のバックグラウンドから想いの方向性を理解してくださる。だからこそ意気投合でき、一緒に新しい医療をつくる仲間になってくださっているのだと思います。
この3年でアイリスに社員として在籍する医師は、私を含めた2名から6名に増えました。よく「なぜ、医師を増やすのですか?」「沖山先生だけで良いのでは?」と質問を受けます。しかし今お話したように、外部の医療者とも医師同士だからこそ分かり合えて、仲間になってくださっている部分がある。ですから医師が6名も在籍していることは、私たちアイリスの財産です。
PROFILE
アイリス株式会社
沖山 翔
アイリス株式会社 代表取締役CEO
2010年東京大学医学部を卒業、日本赤十字社医療センターにて初期研修修了、救急医として離島や船医として活躍。2015年に株式会社メドレーに入社、執行役員として新規事業開発に関わる。2017年11月アイリス株式会社を創業、AI医療機器開発を行う。