coFFee doctors – ドクターズドクターズ

INTERVIEW

医療法人社団 悠翔会

理事長

佐々木 淳

在宅医療の先駆者は、都心から地域、世界へ

2024年、挑戦する医師につながるサイト「coFFee doctors」は10周年を迎えます。多くの先生方のご協力があったからこその10周年。そしてこの間、社会の変化とともに、医師を取り巻く環境も大きく変化してきました。そこでこれまでの感謝も込めて、過去にインタビューさせていただいた先生方が現在、どういったことを考え、どのような活動に注力しているのか伺う企画「coFFeedoctors 10years」を始めます。第6弾は、医療法人社団悠翔会を率いる佐々木淳先生。2014年のインタビュー当時は、23名の常勤医師によるチームを作ることで、365日24時間体制での在宅医療体制を整え、注目されていました。あれから7年。在宅医療を取り巻く環境や法人の変化、成長と課題について伺いました。

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◆収益が見込めない医療過疎地に診療所を新設

―前回取材した2014年から、在宅医療はどのように変化していると感じていますか?

ニーズ自体が進化しています。当時は訪問診療に行けば満足されていました。しかしその後、介護職の方も「在宅医療にどこまで要求していいのか」を理解してこられて。患者さんやご家族も「最期をどう過ごすかを自分で決めたい」「どういう選択がいいのか一緒に考えてほしい」と言われる方が増えてきました。

死生観も変わってきています。以前は「どこでどう死ぬか」を話すこと自体のハードルが高く、ご家族に怒られることもありました。ですが近年は、最期も視野に入れて在宅医療を利用される方が増えています。自宅で最期まで過ごすことに対して、社会的な抵抗がかなり減っているのではないでしょうか。

―当時は都心を中心に診療所が9カ所、常勤医師が23名、患者数が約2000名とお聞きしました。現在は埼玉、千葉、神奈川、沖縄など18カ所に拠点があり、常勤医師が43名、総患者数が6600名と発展されています。悠翔会の方向性も変わってきているのでしょうか?

当時とは違い、都心のような人口が多いエリアには複数の在宅療養支援診療所ができました。人口当たりの医師数はまだ潤沢とは言えませんが、望めば在宅医療を受けられる環境が整ってきています。24時間対応やお看取りも当たり前になってきています。いま悠翔会として考えているのは、「私たちでなければできない場所に診療所を出していこう」ということです。収益が見込めず、競合が開院しないエリアにこそ開院しようと考えているのです。

昨年5月に開院した沖縄南部の診療所もその1つです。沖縄は、これから急速に高齢化、医療過疎化が進行すると言われています。那覇や宜野湾など人口の多い地域には在宅療養支援診療所が林立していますが、南部や北部は非常に少なく、16km圏内に診療所がない地域もあります。だからこそ、住民が5000人しかいなくとも、開院することの意義は大きいですよね。以前は公立病院がその役割を担っていたのですが、予算の関係で手が回らなくなってきています。そこを担うことが民間の医療機関として可能か、ケーススタディとして挑戦しています。

―沖縄での在宅医療はどのように進めているのでしょうか?

現在までで、のべ患者数が約150名。うち半分くらいの方をすでに看取りました。これまでは、在宅医療が行われていなかったため、入院せざるを得なかった。でも自宅に訪問してくれる医師がいれば「家で最期まで過ごしたい」というのが人の本音ですし、それだけのニーズがあったということです。

沖縄南部よりも医療過疎が進んでいる愛知県の知多半島の先端にも、2022年5月に開院予定です。半島全域をカバーできる診療所となる予定です。また鹿児島県の与論島でも地域からの要請を受けて、自治体と相談しながら準備を進めています。

このような「高齢者はいるけれどいずれ人口が減っていく」地域が日本の大部分です。こういった地域に若い医師は新しい診療所を作れませんし、作ったとしても承継者がいません。

しかし私たちは都心の診療所に多くの医師を抱えています。だからこそ、24時間対応の在宅医療は無理でも、都心からの巡回診療をはじめ、休日・夜間のオンライン対応など選択肢は複数あります。母体が大きいからこそ、各地域のニーズに合わせて持続可能な形を模索できます。そして、これは同時に、医師の新しい働き方にもつながるのではないかと考えています。

例えば子供が幼稚園までは自然豊かな場所で仕事をして、教育が重要になる小学校以降は都会で働く。月の半分は都会、半分は山間部など。さまざまな形で医師がを循環できる環境を整えていきたいとも考えています。

医師にとってもキャリア形成になりますし、家族も多様なフィールドでの生活を体験できます。今は2拠点生活という考え方が出てきていますし、「過疎地に行くのは大変」ではなく、新しい暮らし方と連動し、楽しみ、学びながら働ける環境が作れたらと思っています。

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PROFILE

佐々木 淳

医療法人社団 悠翔会

佐々木 淳

医療法人社団悠翔会理事長・診療部長

1998年筑波大学医学専門学群卒業。社会福祉法人三井記念病院内科/消化器内科、東京大学医学部附属病院消化器内科等を経て、2006年に最初の在宅療養支援診療所(MRCビルクリニック)を開設。2008年 医療法人社団悠翔会に法人化、理事長就任。2021年 内閣府・規制改革推進会議・専門委員。
首都圏ならびに沖縄県(南風原町)に全18クリニックを展開。約6,600名の在宅患者さんへ24時間対応の在宅総合診療を行っている。

【出版】
『これからの医療と介護のカタチ 超高齢社会を明るい未来にする10の提言』(日本医療企画、2016)、『在宅医療 多職種連携ハンドブック』(法研、2016)、『在宅医療カレッジー地域共生社会を支える多職種の学び21講』(医学書院、2018)等。

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