INTERVIEW
東京から鳥取へ。新たな「場」づくりの挑戦
2024年、挑戦する医師につながるサイト「coFFee doctors」は10周年を迎えます。多くの先生方のご協力があったからこその10周年。そしてこの間、社会の変化とともに、医師を取り巻く環境も大きく変化してきました。そこでこれまでの感謝も込めて、過去にインタビューさせていただいた先生方が現在、どういったことを考え、どのような活動に注力しているのか伺う企画「coFFeedoctors 10years」を始めます。
第3弾は、孫大輔先生。東京大学で教鞭をとる傍ら「みんくるカフェ」や「谷根千まちばの健康プロジェクト(まちけん)」といったユニークなコミュニティづくりの活動に取り組んできましたが、2020年、活動の場を鳥取に移しました。その決断の背景には、医師の枠にとらわれずに理想のウェルビーイングを追求し続けてきた孫先生ならではの思いがありました。
明確なストーリーがあって意思決定したというよりは、直感に従って決めたようなところがあります。それにしても、自分でも大きな決断だったなと思います(笑)。
ただ、後から振り返ってみると、大きな理由としては2つあります。1つは、自分のキャリアの幅を広げるために、思い切って働き方のスタイルや環境を変えたいと思うようになったからです。
東京では、大学での医学教育が中心だったので、もう少し地域にどっぷり浸かって診療や研究にも力を入れたい思いがありました。そのためには地方に移住した方が実現できるのではないか、と思ったのです。
もう1つは、もう少し自分のペースで、自分が本当にやりたいことに集中できる自然に囲まれた環境で、仕事や生活をしてみたいという思いがありました。
「みんくるカフェ」や「まちけん」といった地域活動の輪がだんだん広がっていく中で、大学の中、あるいは病院の中にとどまるより、地域に出て様々な人と関わる活動の方が自分には合っていると感じていましたし、それが自分の追求したいテーマでもありました。一方で、大学では、組織のミッションから外れた活動に対してはどうしても理解が得られず、組織で求められることと、自分がやりたいこととのギャップが生じていたのです。
「みんくるカフェ」や「まちけん」などコミュニティづくりの取り組みは、アウトカムが定量化しにくく、それゆえに周囲に理解されにくいところがあります。そういう“わかりにくい”活動についても認めてくれ、かつ自分の本業ともリンクさせながら実践できる環境を、どこかで求めていましたね。
現在の上司である鳥取大学の地域医療学講座教授 谷口晋一先生とは、以前に私が同大学で年1回の授業を担当していたこともあり、親交がありました。私が制作した映画の上映会を鳥取で行った際にも観に来てくださり、「すごく良かったです」と声をかけてくださいました。
大学教授の立場にあるような先生が、私が制作したものに対して評価してくれたことが嬉しかったですね。鳥取大学には他にも魅力的な先生が多く、自ら谷口先生に「先生のもとで働かせてください!」と頼み込んだのです。
PROFILE
鳥取大学医学部 地域医療学講座/日野病院 総合診療科
孫 大輔
2000年に東京大学医学部卒業後、腎臓内科医として東京大学医学部附属病院等に勤務。2008年に家庭医専門研修に入り、家庭医・総合診療医に転向(2011年に家庭医療専門医を取得)。2012年より東京大学医学系研究科医学教育国際研究センター講師。医学教育に軸足を置きながら、「みんくるカフェ」「谷根千まちばの健康プロジェクト(まちけん)」など地域コミュニティでのウェルビーイングの活動を展開。2019年には自ら監督を務めた映画「下街ろまん」を公開。2020年より、鳥取大学医学部地域医療学講座/日野病院総合診療科に赴任。