coFFee doctors – ドクターズドクターズ

INTERVIEW

福井大学医学部地域プライマリアリケア講座

教授

井階 友貴

「まちづくり系医師」として住民を健康にする

2024年、挑戦する医師につながるサイト「coFFee doctors」は10周年を迎えます。多くの先生方のご協力があったからこその10周年。そしてこの間、社会の変化とともに、医師を取り巻く環境も大きく変化してきました。そこでこれまでの感謝も込めて、過去にインタビューさせていただいた先生方が現在、どういったことを考え、どのような活動に注力しているのか伺う企画「coFFeedoctors 10years」を始めます。
第5弾は、井階友貴先生。2008年から福井県高浜町で住民主体の医療づくりに取り組んできました。現在は、地域主体の健康のまちづくりへと転換し、臨床の傍ら住民や行政と共にさまざまな実践を行っています。自らを「まちづくり系医師」と呼ぶ井階先生に、取り組みの内容や地域医療のあり方、総合診療医が果たす役割などを伺いました。

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◆住民主体の医療づくりから地域主体の健康のまちづくりへ

―地域医療に取り組む視点が、医療からまちづくりに変わったきっかけは何ですか?

「消滅可能性都市」のニュースを聞いたことです。少子化や人口流出によって、全国の市町村の約半分が将来存続できない可能性がある、と2014年に民間の有識者でつくる日本創成会議が発表しました。

私が2008年に福井県高浜町に赴任した当時、医師不足と医療に対する住民の関心の欠如から、町では地域医療の存続が危ぶまれていました。事態を打開するため、翌年に福井大学医学部寄附講座「地域プライマリケア講座」が設置され、私は地域医療教育と住民・行政・医療の協働システムづくりを軸に活動を始めました。地域の課題と向き合うことになりました。

これらの活動が実を結び、赴任当時、町内の常勤医は5名でしたが10名以上となり、住民主体で地域医療のためにできることを考え実行していく「たかはま地域医療サポーターの会」が立ち上がりました。「たかはま地域医療サポーターの会」ができたことで、活動当初、町内にかかりつけ医がいる住民は4割弱でしたが、6年後には6割弱にまで増えました。ほかにも、特に女性は毎年健診を受ける方が増えているなどの効果もありました。

危機的状況を回避したと思った矢先の消滅可能性都市の報道は、いろいろ考えさせられましたし、私の地域医療への取り組み方のフェーズが変わりましたね。

―当時、臨床の現場に限界を感じていたのですか?

医療サービスの限界みたいなものは感じていました。例えば高齢者の場合、薬を処方しても、一人暮らしであるために服薬を忘れたりすることがあります。見守ってくれる人がいれば飲み忘れは防げるのですが、臨床からのアプローチだけではうまくいかないことも多くありました。見守りや助け合いなどのインフォーマルなサービスが地域に期待されることも多くなり、このまま医療づくりだけを続けていいのか、と迷いも出てきて――。

―どのようにして地域主体のまちづくりが必要だと確信したのですか?

ソーシャルキャピタルの概念を知ったのが大きかったですね。健康格差に影響を与える「健康の社会的決定要因(SDH)」にも含まれるソーシャルキャピタルは、社会や地域における人々の結びつきを表す概念です。しかも健康面だけでなく、経済や治安、教育など多方面にわたって地域によい効果をもたらすことも証明されています。

人口が減っても、住民同士が交流や社会参加を通してつながり、地域が結束していれば地域の力は失われない。これからの社会には、町全体で健康づくりを行うことが必要なのだ、と確信したのです。そこで、SDHを学ぶため2014年にアメリカのハーバ―ド大学公衆衛生大学院へ。地域主体の健康のまちづくりにシフトしたのもこの時で、高浜町健康のまちづくりプロデューサーを兼務するようになりました。

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PROFILE

井階 友貴

福井大学医学部地域プライマリアリケア講座

井階 友貴

2005年に滋賀医科大学医学部医学科を卒業後、研修医として済生会滋賀県病院に勤務。兵庫県立柏原病院を経て、2008年に福井県の高浜町国民健康保険和田診療所へ。2009年~2012年福井大学学術研究院医学系部門助教。同講師を経て2018年から同教授。2014年~2015年ハーバード公衆衛生大学院社会行動科学学部客員研究員。2015年から高浜町健康のまちづくりプロデューサーを兼務。住民・行政・医療が一体となった地域医療と包括ケアシステムの構築に奮闘し、地域主体の健康のまちづくりモデルを展開。全国31の自治体と連携した「健康のまちづくり友好都市連盟」の事務局も担う。日本内科学会認定医、日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療専門医・指導医、日本在宅医学会認定在宅医療専門医・指導医。

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