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INTERVIEW

インターナショナルSOSジャパン株式会社

麻酔科・救急科

葵 佳宏

外国から日本へ、国境を越えて命をつなぐ

近年、海外へ拠点を移したり、拠点を増やしたりする企業が増加しています。しかし海外では医療環境や医療保険制度が異なるため、在外邦人が病気や怪我をした場合、適切な治療を受けられないケースや、高額な医療費を請求されることも…。そんな万一に備え、在外邦人の医療相談に乗り、必要な場合は国際医療搬送をコーディネートしているのが葵 佳宏先生です。緊急の場合であっても一筋縄ではいかないという国際搬送の難しさとやりがい、そして葵先生が体制構築に向けて尽力する帰国患者の受け入れなどについて、詳しく伺いました。

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◆不安な状況から、安心できる場所へ迅速に

―現在の活動について教えてください。

日系・外資系にかかわらず海外に展開するグローバル企業の従業員の方に、安心と健康を担保する企業「インターナショナルSOS」に勤務していて、2014年から約2年間はシンガポールに、現在は日本のアシスタンスセンタに所属しています。私の仕事は、Medical Directorとしてアシスタンスセンターに入る医療案件全般を監督しています。

日本の医療チームには合計9名の医師と看護師がおり、平日は3交代、土日祝日は2交代制で、全日日本人の医療チームと連絡がつく体制を敷いています。電話のフロントラインに立つ彼らは「コーディネイティングドクター・ナース」と呼ばれ、「適切なタイミングで適切な場所に、適切な医療者につなげるために」、医学知識のみならず、外国の医療事情から病院の水準、許容できる検査や治療の上限はどれくらいなのか、診断の信頼性の高さについても熟知しておく必要があるため、日々難しい舵取りを行っています。

「インターナショナルSOS」は医療相談に乗り、海外で医療が適切に行われているかを医療モニタリングしつつ医療見解を提出しています。その最終手段として医療後進国から中等症~重症例の国際搬送を行なっています。なぜ私たちのような存在が必要かというと、海外で病気になると言葉もあまり通じませんし、非常に心細いですよね。必ずしも医療先進国にいるわけではありませんし、医療保険制度も日本と異なり、医療費がかなり高額の国もあります。誰もが不安を感じるそんな時に、私達が的確に病状を判断し、必要とあれば、独自のノウハウを活かして国際医療搬送を手配しています。

とはいっても国が違えば法律も医療制度も異なるため、国際搬送実現のハードルは非常に高いです。例えば、救急車でのラオスとタイの国境超えは、距離はたいしたことがなくても、国境は24時間開いているわけではありません。パスポートは当然ながら、つい最近まではCOVID-19 PCR陰性証明書まで提出しないと入国できませんでした。ですから、ロジ調整にかなり時間がかかってしまうケースがあり、この仕事を始めた当初はそれがストレスでしたね。

―国際医療搬送の流れを教えてください。

当社は会員制のシステムなので、まずは会員様から専用ダイヤルにご連絡いただき、詳しく病状を聞きます。その上で現地の医療機関を紹介して検査や診察を受けていただき、結果次第で必要とあれば、医療搬送の手配をするのが基本の流れです。搬送手段はさまざまで、医療専用機を使うこともあれば、医師や看護師が医療バッグを持ち込み、一般旅客機に同乗することもあります。

―どのような時にやりがいを感じられますか?

患者様を心細いところから、より安心できるところに迅速に移動させてあげられた時です。また、きちんと治療を受けられて、社会復帰できるところまで快復されると、非常にやりがいを感じますね。医療後進国では助からなかったかもしれない命を医療先進国、または日本へとつなげられることに、大きな意義を感じています。

時には、私自身が直接搬送に携わります。患者様にとっては、そこからが日本の医療のスタート。現地の病院で「自分はどうなってしまうんだろう」「手術をすすめられたけど受けてしまっていいのだろうか」「日本に帰れるのか」などの不安を一人で抱えています。日本チームが現地に赴くことで「やっと迎えに来てくれた」と安心されます。堰を切ったように症状や回復の見込み、入院期間の目途など、たくさんの質問をされることも。1つ1つにお答えして安心していただけるのは嬉しいですし、フライト中も治療を継続し、日本に到着した途端、緊張の糸が解けて涙される方を見て、安心を提供できたと、やりがいを強く感じます。

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PROFILE

葵 佳宏

インターナショナルSOSジャパン株式会社

葵 佳宏

インターナショナルSOS ジャパン株式会社
メディカル・ディレクター/フライトドクター
2002年琉球大学医学部卒業。武蔵野赤十字病院で初期研修修了後、横浜市立大学で麻酔・救急の専門研修。2011年から浦添総合病院でドクターヘリの業務含む救急・総合診療に従事する。2014年より東南アジア屈指の医療ハブであるシンガポールでインターナショナルSOS本社に勤務し、メディカルアドバイザーおよび、医療搬送業務に携わる。2016年より現職。
麻酔科専門医/救急科専門医/日本航空医療学会認定指導者/日本渡航医学会認定医療職/日本医師会認定産業医

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