INTERVIEW
日本に「小児総合診療」を根付かせたい
ある医師との出会いがきっかけで、国立成育医療研究センターの後期研修医となり、小児総合診療の重要性を知った利根川尚也先生。2016年には沖縄県立南部医療センターの小児総合診療医として、他の専門医と連携したトータルケアや、研修医の教育に積極的に取り組み、院内外から高い評価を得ています。利根川先生が考える小児総合診療科の役割とは――? そして、今後目指したい小児医療や、自身の夢について伺いました。
2016年4月から沖縄県立南部医療センター・こども医療センターの小児総合診療科に勤務し、さまざまな業務に関わる中で、日本の小児医療における小児総合診療医(General Pediatrics)の役割の強化や有用性の向上を目指すべく、日々模索しています。
小児総合診療医は、子どもの幸せな未来を見据えて全人的医療を提供する医師だと考えています。つまり疾患に関わらず、総合的な視野で患者と関わるため、患者とのファーストコンタクトを担うことが多く、一般的な疾患で来院した子どもから、疾患が多臓器にわたり管理が複雑な子どもまで、一人ひとりの状態や背景に合わせて対応し、必要に応じて、各専門科や関連職種と連携する役割が求められます。この役割は、専門性が多様化する日本の小児医療にとって、とても有用なのではないかと考えています。
実際、私の勤める沖縄県立南部医療センター・こども医療センターの小児総合診療医は、複雑な疾患のある子どもの場合は、各専門科と連携しながら院内での治療を進めたり、退院後の在宅医療のサポートを個々の患者に適応する形で提供したり、一般的な疾患の場合も、患者の特性や家族背景などを考慮したトータルケアをしています。
また、小児総合診療医の大きな役割の1つに、後進の医師たちへの小児科学の教育があると考えています。この点に関しても当院では、小児総合診療医が積極的に携わっています。当院は、子ども病院としては珍しく、大人の総合病院が併設されていて、初期研修医も受け入れています。そのため、小児科専攻医の教育だけでなく、初期研修医に対しても、小児科学の教育をしっかりと行うことができるのです。これは、小児総合診療科の役割を教育の側面から強化していく上で理想的な環境だと考えています。
はい。赴任した当時から、当院の小児総合診療科は日本でも有数の規模で、高い水準で機能していて、小児総合診療医として強化していきたいと考えていた分野、つまり、各科のハブとなる役割や、研修医への教育などに取り組みやすい、理想の環境でした。
しかし当時は、人員的な問題などもあり、小児総合診療の範疇の仕事も、各専門家の先生方に分担し、協力を得ながら運営している状況でした。例えば気管支喘息や肺炎などの一般的な疾患の入院管理や、救急外来からの小児科へコンサルトなどです。まずはそのような仕事を、大小問わず小児総合診療科で引き受けていきました。そのうち徐々に私が取り組みたかった各科のハブ的役割にまで、小児総合診療科の業務範囲を広げていくことができたような気がしています。各科の先生方から、「以前に比べて自分の専門領域の医療に集中出来るようになった」などの声掛けがあり、大変嬉しいですね。
また、地域との連携も小児総合診療の大事な役割です。欧米ではCommunity Pediatricsという1つの独立した分野が担っているそうです。日本語に訳すと地域小児総合診療科といった感じでしょうか。これに関しては現在、子どものケアに関わるすべて人で構成されるチームを、より効果的に機能させるために「仕組み化」することを心がけています。
具体的には、ご家族やソーシャルワーカー、保健師、教育機関の先生方、在宅医療の方々などとの話し合いを定期で行うようにしたり、入院がきっかけで患者家族の地域との関係性が薄れることのないように、かかりつけ医とのやりとりを医師だけでなく患者家族にも分かるようにしたりしています。最近では、子どもたちやそのご家族から嬉しいお声を頂くことが増え、徐々に成果が感じられるようになってきていて、院内外の先生方や地域の方々が本当に温かくご協力くださるおかげだなと、感謝もひとしおです。
教育面でもまた、多くの先生方のご協力を得ながら、体制を強化できていると感じています。教育は一筋縄ではいかない分野ではありますが、私が小児科研修をおこなった国立成育医療研究センターでの屋根瓦式の指導法や、沖縄米国海軍病院や海外研修で学んだ教育法などをベースに、私なりに指導法を工夫し、実践してきました。
具体的には、オフ・ザ・ジョブとオン・ザ・ジョブのトレーニングを組み合わせています。オフ・ザ・ジョブ・トレーニングは、レクチャーやグループディスカッションを中心に行います。初期研修医には、小児科学の面白さややりがいを伝え、小児科専攻医には、学んだプラスαのことを持ち帰ってもらえるように意識しています。
一方、オン・ザ・ジョブ・トレーニングは、小児総合診療科の入院病棟、救急外来、小児外来で実践しています。業務中その場ですぐにフィードバックしています。当院の救急外来は、子どもから大人まで、救命救急科が一手に引き受け診療しています。来院する半数以上の患者は子どもなので、初期研修医は、救急外来の当直業務や救命救急科の研修中に、ものすごい数の子どもと接しています。この得難い環境を活かすために、救命救急科の先生方に協力していただきながら、小児総合診療医が直接、初期研修医にフィードバックできるような体制を整えました。この体制により、研修医がいつでも気兼ねなく小児総合診療医に相談できるようになり、コミュニケーションも活発になったように感じています。
嬉しい反響としては、当院の初期研修医が小児科専攻医として残ってくれるようになったり、小児科専攻医が研修を終え小児総合診療科医として戻ってきてくれたり、また県外からも志を同じくする先生が来てくださり、小児総合診療科医の増員もありました。これは、小児総合診療科の有用性がより広い範囲で認知されてきていることの現れでもあると思っています。また、当院の初期研修医枠は、ありがたいことに満員御礼で、小児科に興味のある方が多く集まるようになってきています。さらに今の教育体制をより良いものにしたいですね。
PROFILE
沖縄県立南部医療センター・こども医療センター
利根川尚也
沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 小児総合診療科
埼玉県出身、2009年昭和大学医学部を卒業。太田綜合病院附属太田西ノ内病院(福島県郡山市)での初期研修を経て、国立成育医療研究センターにて後期研修修了。2015年4月から沖縄海軍病院に勤務。2016年4月から現職。