多様性を受け入れ、強くなる組織

―現在、坂総合病院の総合診療科はどのような体制で動いているのですか？

当科は常勤医師が、12年目の私と8年目の島直子先生の女性2名体制で、みちのく総合診療医学センター専攻医が4名在籍しています。

常勤医の2人がどちらも子育て中なので、救急科にかなりバックアップしてもらっています。例えば夜間対応については、電話対応は可能ですが、呼び出しには応えられないので、救急科の先生方にお願いしています。また休日や、平日も17時には子どものお迎えのために帰らなければならないので、17時以降から翌朝までの入院患者さんのことも、救急科にお任せしています。平日日中も、子どもの体調不良などで、突発的に救急科に患者さんの対応をお願いすることもあります。

このようにいつでも対応してもらえるよう、日々の回診は必ず救急科の医師と共に行っていて、誰が抜けてもどの患者さんにも対応できるような体制にしています。

逆に救急外来の対応で忙しくて、救急科の医師が病棟に上がればないときには、当科の医師が救急科病棟の回診や病棟看護師からの情報収集を行い、必要があれば処置等の対応することでサポートさせてもらっています。

―みちのく総合診療医学センターについても教えていただけますか？

坂総合病院を中心に、診療所や小規模病院と連携して、総合診療・家庭医療を担う医師を育成することを目的に設立されました。それこそ私が同センターの後期研修プログラム専攻医1期生だったのですが、毎年数名ずつ在籍していて、今年度は4名の専攻医が在籍しています。

もう少しプログラム専攻医が増えてほしいのと、プログラム修了後も坂総合病院に残ってくれる医師が出てくると嬉しいのですが、同センターは、当院の医師だけを育てるのではなく、東北全体の総合診療の底上げを使命としているので、東北各地で総合診療医として活躍したいと考えている医師を広く受け入れ、他の地域に移っても総合診療・家庭医療を担える実力をつけてもらおうとしています。

―専攻医は東北地方出身者や、東北地方の大学出身者が多いですか？

いえ、全国から来てくれています。特に初期研修医は北海道から九州までさまざまな県から来ています。そして後期研修医も、当院の初期研修を修了したからそのまま残っているという医師はほとんどいなくて、後期研修になって初めて当院に来る医師のほうが多いですね。

あとは、週1回だけの研修を希望する医師や、研修の一部だけ受けたいという医師も受け入れていて、専攻医が自分のライフステージを充実させながら研修を組めるようにしています。例えば一度臨床を離れていたけどもう一度学びたいと考えた人や、子育て中の人、事情があって100%の力を研修に注げない人など――。でも、そのような人が仕事を続けていくことをサポートすることは大切なことです。そして、救急科のサポートがあるからこそ実現できています。

―多様な専攻医を受け入れているのですね。

組織として多様性を受け入れることで、組織自体も強くなりますし、それがみちのく総合診療医学センターの特徴でもあると考えています。

以前、私が尊敬する医師に「子育てで仕事を辞めるのではなく、細々とでもいいから続けたほうがいい。特に女性は仕事を辞めがちだけど、絶対に辞めないほうがいい」と言われたことがありました。実際に私自身も常勤の島先生も、続けることができていますし、同じような状況にあったり、続けるかどうするか迷ったりしている医師のサポートをしていきたいと考えています。

また子育て中の医師以外にも、100%の力を仕事に注げなくても、週のうち半分でも働ける医師がいてくれれば、その分常勤医が休むことができますし、お互いに切磋琢磨できて、win-winの関係になります。ですから、「週の半分でも来てくれてありがとう！　おかげで常勤医が休むことができて、組織としてとても助かっているよ」という環境で、申し訳なさを感じることなく働いてもらっていて、組織としても負担感が減っています。

何科に進めばいいのか分からなかった

―本郷先生は、なぜ総合診療科に進まれたのですか？

母が当院の系列病院で事務や運動療法士をしていて、よく職場に連れて行ってもらっていたので病院が身近な存在でした。徐々に病院で働きたいと思うようになり、最初は看護師しか職業としてのイメージが持てていませんでしたが、だんだんと治療で人の役に立てる医師になりたいと思うようになったのです。

とは言え、漠然と患者さんが困っているときに何でも診られる医師をイメージしていましたが、具体的にどの診療科に進めばそのような医師になれるのかは、全く分かりませんでした。

坂総合病院の奨学生として医学部に進学していたので、初期研修は当院で受けていましたが、3年目以降に何をしたらいいのかずっと悩んでいました。2年目に突入し、とりあえず決めたことは、3年目は放射線科と麻酔科での研修、そして100床程度の病院で地域医療の経験を積むことのみ。診療科は決められていませんでした。

そんな私が総合診療科に進もうと決められたのは、当院救急科で働く夫が山梨県内の病院で総合診療科立ち上げに際して講演を依頼されていて、それに一緒に行ったことでした。

道中、夫から「お前は何をやりたいんだ」「私は何かをやりたいのではなく、人から求められていることに応えたい」というやりとりを延々続けていました。その時に「それは総合診療や家庭医療の領域ではないのか？」と言われたのです。それまで総合診療も家庭医療も、言葉としてすら聞いたことがない状況で、全く想像がついていませんでした。

しかし、山梨県の総合診療科の先生方に話を聞かせてもらうと、確かに総合診療という領域は、臓器別ではなく困っている人のニーズに応えられる領域だと感じ、この道に進みたいと決めました。

その後はトントン拍子に話が進みましたね。私のやりたいことを知った上司が当院に総合診療プログラムをつくることを提案してくださり、宮城県初の総合診療プログラムが立ち上がり、1期生としてプログラムに乗ることができました。

妊娠出産子育てを挟みながらもプログラムを修了し、内地留学で国内各地の総合診療科や地域の診療所での経験を積ませてもらい、さらにはカナダのトロント大学での研修にも参加し、総合診療医としてのキャリアを積んできました。

求めに応えることが生きがい

―現在、本郷先生が注力されていることは教育ですか？

初期研修医や総合医診療専攻医の臨床能力を上げることに力を入れています。すぐには成果が出ないので根気強く続けていく必要がありますし、自分自身もさらに成長しなければいけないと思っています。

―その原動力はどんなところにあるのですか？

何よりも、彼らの成長であり自分自身の成長ですね。そして、自分が彼らの臨床能力を上げることに注力していることで、さらに新たな仲間が入ってきてくれるのがとても嬉しく、原動力になっています。冒頭にもお話したように、全国からみちのく総合診療医学センターを知って来てくれているので、認知度は高まって来ているとは思いますが、さらに多くの仲間を増やしていきたいですね。

―では、今後も坂総合病院で教育に携わりながら働き続ける予定ですか？

当院の総合診療科は、外来から病棟、在宅診療、そして老人介護福祉施設の嘱託医まで幅広く関わることができるので、総合診療の幅広さを伝えるフィールドとしても適していると考えています。ですから、引き続き当院で総合診療医として勤務を続けたいですね。

ただ、多くの女性医師が同じような問題に直面していると思いますが、子育てをしながら仕事を続けることに関しては、母親歴5年以上ですが、今でもそのバランスには悩みっぱなしです。どうしても子どもたちにしわ寄せが来ていると思いますが、仕事も子育ても及第点を取れるよう、なんとかバランスを崩さないように意識しています。

それでも仕事を続けられているのは、周りに助けられていることと、人に求められることに応える仕事だから。人から求められていることに応えることが生きがいであり、原点なので、求められるうちは続けたいですね。

（インタビュー・文／北森 悦）