INTERVIEW
キャリアの幅を広げるには「偶然」が入れる余地を残す
臨床医、基礎研究を経て製薬会社へ入社し、現在はベンチャーキャピタルに勤務されている玉田寛先生。さらに、社会変革と創造を推進できるリーダー輩出を目指す「ヘルスケアリーダーシップ研究会(IHL)」の理事長も務めています。投資家業とリーダーシップ開発という異なるキャリアは、どのような背景から選択してきたのでしょうか。またキャリアを考える上で大切にしていることを伺いました。
製薬会社で18年ほど勤務していましたが、2023年からは創薬特化型のベンチャーキャピタルであるレミジェス・ベンチャーズで、サイエンティフィック・アドバイザーとして働いています。多くのベンチャーキャピタルはファイナンスの専門家が多く働いているという印象を抱いていましたが、私の勤務先はファイナンス専門家と製薬企業出身者が密接にコラボし、社内にインキュベーション機能もあり、そこに面白さを感じてこの仕事に就きました。
私の役割は投資先の研究を評価して投資すべきかの判断をしたり、追加でこのような研究をしてはとアイデアを出し、時には投資先創薬ベンチャーをハンズオンで支援することです。意外にも製薬会社に勤めていた頃と共通点が多いです。一方でどのような戦略で投資するか、どのように資金を調達するのか、ファイナンスのスキルは日々学んでいます。自分のノウハウを活かせる部分と、新しく学ぶ部分があり、楽しみながら取り組んでいますね。
製薬会社に長く勤めるうちに、新しい治療薬の開発のさらに上流部分に携わりたいと考えるようになりました。製薬会社は独自の研究もしていますが、半分ほどは外部のベンチャー製薬会社が発見・開発した医薬品候補を導入し、臨床試験を経て製品として発売しています。どんなに優秀な研究者であっても、コンスタントに画期的な治療法・新薬を生み出すのは難しいことです。まだ治療法がない病気の原因を突き止め、治療法そして治療薬を開発する過程では偶然によるイノベーションが大きく影響しています。
私はベンチャー製薬会社で実際どのように新薬が生み出されているのか、また、その過程にはどのような偶然とイノベーションがあるのかに興味を持つとともに、まだ薬になるかも分からない段階の開発に携わりたいと思うようになったのです。
数年前に創薬ベンチャーへの投資活動を行っているベンチャーキャピタル業界の方々とお話しをする機会があり、非常に興味深い仕事だと感じ、いつかは創薬のイノベーションをファシリテートするような投資活動に携わってみたいと思っていたところ、それこそ偶然の巡り合わせで2023年から今の仕事に就きました。
日本の大学の研究レベルは高く、薬の研究開発能力は世界第2位であるにもかかわらず、大学の研究と新薬開発の間に隔たりがあることです。海外では盛んに製薬会社が大学とコラボし、大学の発明・発見をもとに画期的な新薬が多く開発されています。日本の大学の研究と新薬開発を結びつけるエコシステムが生まれたら、日本には大きなポテンシャルがあるはずです。
以前から日本政府もこのギャップをなんとか解決しようと努力しており、最近ではAMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)が3500億円の予算規模で創薬べンチャーエコシステム強化事業を推進しており、急速に環境整備が進んでいます。レミジェス・ベンチャーズは、大学の研究をもとに新薬開発する会社に投資しようとしており、それによってエコシステムの一部を担うことができればと思っています。
経営人材の少なさや、研究と開発の間に存在する、通称「死の谷」をどうやって乗り越えるのかなどの問題は依然として残っていますが、関係者の間では「頑張れば実現できるのでは」という感覚が最近徐々に醸成されてきたように感じています。日本アカデミア発の研究をベースに世界に通用するような画期的な新薬開発に携わる。それは日本の患者さんにも還元されますし、日本のアカデミアのプレゼンスも増すことになるでしょう。
PROFILE
レミジェス・ベンチャーズ/RDiscovery株式会社
玉田 寛
レミジェス・ベンチャーズ サイエンティフィック・アドバイザー/RDiscovery株式会社
1993年自治医科大学医学部卒業。僻地医療に従事した後、2002年より3年間ミネソタ大学幹細胞研究所に勤務。2005年製薬業界に転職し、事業開発、研究開発、マーケティングに従事。2009年ヘルスケアリーダーシップ研究会(IHL)の立ち上げに参画し、2021年10月理事長に就任。現在はアメリカに在住し、レミジェス・ベンチャーズで勤務している。