驚くほど集中力が上がる!ビジネスパーソン必見の姿勢講座
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若手医師が代表を務める「ジャパンヘルスケア」はビジネスパーソンを対象に、日常の動作を見直すことから将来の病気予防につなげるイベントを開催しています。第2回目のテーマは「座る」。指揮者・トランペット奏者であり、さまざまなボディワークを習得されている香西克章氏を講師に迎え、レクチャーとワークショップが2時間かけて行われました。
受付を済ませると、スタッフ手作りの温かいスープとサンドウィッチが一人ひとりに提供され、それを食べながらイベントスタートです。最初にジャパンヘルスケア代表の岡部大地先生より、良い姿勢についてのレクチャーがありました。
◆20、30代からの正しい姿勢が病気を防ぐ
まず、肩こりや腰痛、膝痛と言った関節症、脊椎疾患に関するデータが紹介されました。関節症と脊椎疾患はどちらも全外来受診率のトップ5に入ります。岡部先生は「膝が痛くなるのは大体40、50代。しかし、その年齢になって急に悪くなるのではなく、20、30代の時に悪い姿勢だったから病気になるのです。将来の痛みを防ぐためには、今から良い姿勢を意識する必要があります」と話されました。
「良い姿勢で座っていると、筋肉に余計な負担がかからないために疲れにくく、集中力が持続します。また、視線の高さが気持ち良いですし、見た目もかっこよく見えるので周囲からの信頼度も増します」
◆姿勢を正すための3つの「A」とは?
姿勢を正すために大切な事、それは「3つのA」だと岡部先生は言います。「3つのA」とは①Anatomy(アナトミー/解剖学、身体の仕組み)、②Alignment(アライメント/並びや位置関係、骨・関節の並べ方)、③Awareness(アウェアネス/気づく事、よい姿勢を選ぶ感覚)です。
「健康情報が溢れるなか、『この姿勢がいい』と言われても何が正しいのか分かりません。そのためにベースになる考えとしてまずは身体の仕組みを理解し、骨や関節の正しい位置関係を知ることが大事です」と岡部先生からAnatomy、Alignmentについての講義がありました。
そして3つ目のAであるAwareness(気づく事、よい姿勢を選ぶ感覚)、このAwarenessが先生によると最も重要になるそうです。実際に自分の体でその感覚をつかむことが良い姿勢への第一歩になります。その体験をしましょうと次の香西先生のお話に続きました。
香西克章先生はまず今回行う「アレクサンダー・テクニーク」とは何か、生まれた背景も含めお話くださいました。
「『アレクサンダー・テクニーク』とはイギリス発祥の『自分の使い方を見直す方法』です。不調を改善するメソッドの多くは何かを行うことが主になりますが、この手法では『何を行わないか』に着目して自分の使い方を意識的に行います」
◆アレクサンダー・テクニークの基本概念
今回はアレクサンダー・テクニークの考え方の中から、良い姿勢に重要な要素を3つ教えていただきました。それは、頭を前に上にもっていく意識をすること(primary controlプライマリーコントロール)、身体のパーツの方向性を考えること(direction ディレクション)、そして自分の無意識の行動を抑制すること(inhibitionインヒビション)です。
アレクサンダー・テクニークの考える「良い姿勢」とは呼吸のしやすい姿勢だそうです。呼吸をしやすくするためには、頭が首の真上に乗っていることが重要になります。つねに頭が「前に上に」伸びているということと、手足が、その起点である鎖骨や股関節から離れていくという意識を持つことが重要と話されました。
私たちは日常の多くの動作を無意識のうちに行っています。例えば、ふいに声をかけられるとそちらに振り向くといった動作をしがちですが、実はこの無意識の動作は過度に体を動かすのでどうしても悪い姿勢になりやすいのです。良い姿勢を保つためには、一旦動きを意識的に抑制して、考えてから動くことが重要だそうです。
「良い姿勢をとったり、かっこよく歩きたかったり、疲れにくく健康にいたいと思えば、一つ一つの動きの過程を大事にしながら目的に近づいていくというのが重要です。目的にぱっと目を取られないことです」と香西先生は話されました。
先生の講義が終わると、参加者全員でアレクサンダー・テクニークのメソッドの1つである「ライダウン」を実践しました。これは身体を正しい位置に戻すためのメソッドです。
2人1組になり、一人が横になります。頭には2〜3冊の本などを置いて少し高さを出します。高さを出すことで首の力が抜け背筋が伸びて楽に呼吸ができるようになります。足は左右に軽く開いた状態で膝を立て、腕をくの字に曲げてお腹の上に置きます。ペアになった人は、その状態でうまく伸びているか、体勢を確認します。その状態で身体の方向性を頭は上に、腕は手先に、足は膝を頂点に向かうように意識します。香西先生も各ペアを回りながら姿勢と方向性の意識のレクチャーを行いました。
3分ほど横になって、呼吸を続けてから静かに起き上がります。参加者からは「体が緩んだ感覚がある」「体の軸がしっかり整っている感じがする」という感想があがり、香西先生からも「みなさん目が開いている」とコメントがありました。
「ライダウンの利点は、身体を重力にゆだねる事で、自ら筋肉や関節を弛緩できる事です。脊椎へのプレッシャーがなくなると、横隔膜が緩み、自然と呼吸が深くなります。そうすることで集中力が高まるほか、よい姿勢をとりやすくなるのです。また、首から眼球周辺の筋肉、顎関節も柔らかくなるので、全身のリラックスにつながります」
休憩をはさんで、対談形式で岡部先生、香西先生への質疑応答です。
Q:ライダウンを行っている時にどのような意識をしたらいいか?
A:意識としては、常に頭を上に、前に持っていくという事、そして腕や足は、起点となる鎖骨や股関節からどんどん離すという事を考え、行い続けることが大切です。アレクサンダー・テクニークでは感覚をあてにしません。自分でできているかどうかを評価すると、そこで終わってしまいます。できたかどうかではなく、常に考え、行い続けることです。(香西先生)
Q:今実際に行ってみると痛みが出てきたが、続けていいのか?
A:いい姿勢に変えるにあたって、今まで使っていなかった筋肉を使うために一時的に筋肉痛が出ることがあります。筋肉がついてくると痛まなくなるので、一時的な痛みであれば問題ありません。(岡部先生)
A:アレクサンダー・テクニークでは、『よくなる前に悪くなる』という言葉があります。今までの姿勢を乗り越えて違った姿勢をすることでバランスが一時的に崩れるものの、それを乗り越えないと新しいところにいけません。いい姿勢について教えると、多くの人が無理と言います。でもそこを怖がらないという気持ちは必要かもしれません(香西先生)
あっという間に時間が過ぎて、参加者のみなさんはすっきりとした顔つきでイベントは終了しました。
ジャパンヘルスケアの次回イベントは2月7日(日)です。今回学んだ「自分の身体に意識を持つ」という観点から、ヨガとストレッチをテーマにしたイベントが行われます。
医師プロフィール
岡部 大地 総合診療医
2011年三重大学医学部卒業、2013年東京女子医科大学 東医療センターで初期研修修了し、現在東京北医療センター総合診療科で後期研修中。内科認定医取得。具合が悪くなってから受診する患者さんたちを多く診療する中で、根本治療は若いうちから身体をケアすることだと感じ、2015年11月「ジャパンヘルスケア」を設立。ビジネスパーソンの健康づくり、職場環境づくりを行う。