医師10年目の森川暢先生は、小規模病院における病院総合医の役割を模索、実践してきました。日本版ホスピタリストの確立を目指す森川先生の次なるステップは――。
◆小規模病院の病院総合医の役割を明確に
―現在取り組んでいることはどのようなことですか?
東京城東病院総合診療科で、私たち病院総合医を中心に、コミュニティ・ホスピタルづくりをしています。病院自体が急性期だけではなく地域包括ケアシステムのハブとして機能するよう体制づくりです。特に東京のような大都市における小規模病院の病院総合医の役割は、そこにあると考えています。
―城東病院総合診療科は、2015年に立ち上がりました。当初から地域包括ケアシステムのハブ的な役割を目指していたのですか?
志水太郎先生が中心となって立ち上げた当初は、内科の急性期を中心とした診療スタイルにしていました。。約130床ある病棟も急性期病棟として機能させようとしていました。しかし志水先生が他の病院での総合診療科を立ち上げるために城東病院を離れたことや、新専門医制度での内科基幹施設の認定が下りず、総合診療専門医研修プログラムの基幹施設になったこと、働き方改革で、当初予定していたより救急車を取ることができなくなってしまいました。このような外的要因もあり、方向転換を迫られました。
一方で地域包括ケア病棟が注目されてきていて、今後病院を存続させていくためにも、地域包括ケア病棟を活用し、回復期の患者や社会的入院を必要とする患者の受け入れ、地域の在宅診療所との連携などを強化し、高齢者医療に密接に関わっていく総合診療科にする必要があると考え、地域包括ケアシステムのハブになるような診療科へ方向転換しました。実際に周囲からの反響も良く、自分たち病院総合医の役割はここにあると実感しています。
―具体的にどのような反響があったのですか?
総合診療科が立ち上がってから2年で病院の経営が黒字に転じました。また院内の整形外科入院患者の内科的管理は総合診療科が担っていることもあり、院内からも総合診療科が頼りにされていると感じます。当院の総合診療科は立ち上がってからまだ数年しかたっていませんが、週1回訪問診療をしている外勤先の診療所の先生から「城東の総合診療科がなくなったら困る」と言われたことがありました。私たち病院総合医が地域包括ケアシステムのハブの役割を果たしつつあると感じています。
◆総合診療医を志したわけ
―病院総合医を志した経緯を教えていただけますか?
親族に医師が多く、父も内科医として開業していました。そのため、自然と将来は内科医になるだろうと考えていました。大学に進学してからは神経内科領域に興味を持ち、神経内科医になろうと思っていました。総合診療科を考えるようになったのは、初期研修の時に感染症が全く分からなかったことがきっかけでした。
初期研修医なので分からないことが多いのは当たり前ですが、頻繁に診る感染症による発熱すら何をどうしたらいいのか分からず、きちんと教わっていなかったことにも衝撃を受けました。そこで感染症内科に進むことを考えた時期もありましたね。
しかし感染症内科に進むことも決めきれず、後期研修先を探している時に洛和会丸太町病院救急・総合診療科が、神経内科領域も感染症も含めて幅広く内科系疾患を診ていることを知りました。丸太町病院の上田剛士先生の姿にも憧れて、まずは救急・総合診療科で幅広い疾患の治療経験を積むことを決めました。
総合診療科医になろうと思うようになったのは、医師3年目に総合診療領域を中心とした若手医師向け勉強会「関西若手フェデレーション」に参加したことです。4年目には運営代表を務めて、総合診療や家庭医療を志す同世代の医師と接するうちに、いつの間にか総合診療医になろうと思っていました。
医師5年目に志水先生から「城東病院総合診療科立ち上げるから一緒に来ないか」と誘われました。志水先生は関西若手フェデレーション発起人でもあり、憧れの医師の1人で、その志水先生から声をかけていただけたことが純粋に嬉しく、また、診療科立ち上げにも興味があったので、総合診療科立ち上げのタイミングで城東病院に赴任しました。
◆日本版ホスピタリストの確立
―今後のキャリアはどのように思い描いていますか?
実は2019年4月に故郷の奈良県に戻り、市立奈良病院の総合診療科に赴任します。ここで取り組むことは明確です。
これまで私は丸太町病院、東京城東病院と病床が100床前後の小規模病院で、病院総合医として勤務してきました。小規模病院での病院総合医の役割は、丸太町病院のように内科急性期に特化するか、東京城東病院のように地域包括ケアシステムの要として、家庭医療やリハビリ、高齢者ケアなどの役割を果たしていくかの、二択だと分かってきました。
一方、市立奈良病院は病床数350床の中規模病院。そして救急医療に強い病院です。次の私のやるべきことは、中規模病院での病院総合医の役割を見出すことです。主に病棟を診ていくことになると思いますが、どのような活躍方法があるかを模索していたいと考えています。
アメリカでは、内科入院管理を全て病院総合医=ホスピタリストが診ています。日本ではこのような体制に馴染みがありませんが、今後ますます増えていく高齢者の入院管理を病院総合医が中心になって診ていく必要があると考えています。どこまでできるか分かりませんが、日本版ホスピタリストを確立し、どのようにシステムとして普及させられるかに挑戦していこうと思っています。あとは、市立奈良病院を総合診療医の聖地として、日本有数の研修病院にしていきたいですね。
(インタビュー・文/北森 悦)