総合診療医を増やし、秋田県の医療を支えたい
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◆原点はおばあちゃん小児科医
―医師を目指した当初から家庭医を志していたのですか?
振り返ってみると、私の小児喘息を診てくれていたおばあちゃん小児科医の姿が原点かもしれません。
自分も人を助ける医師という職業に就きたいと思うようになり、地元の秋田大学に進学した当初は、小児科医を目指していました。そもそも家庭医療や総合診療というものの存在すら知りませんでしたね。大学4年生になった頃に、大学近くの病院に家庭医療専門研修プログラムが開設され、たまに開催される勉強会には参加していましたが、小児科医の夢は揺らぐことがありませんでした。
―小児科医から一転、家庭医療に進もうと決めたのはいつだったのですか?
大学5年生になる前の春休みです。友人に誘われて見学に行った、新潟県の湯沢町保健医療センターで初めて家庭医療を見た時でした。衝撃でしたね。小児科医に進もうと思っていたものの、子どもの頃通っていたおばあちゃん先生は、子どもだけでなく大人の診療もしていたので、大人も診られる医師になれたらと考えていました。当時センターにいた家庭医の先生方は、まさに子どもから大人まで分け隔てなく診ていて、私が思い描いていた医師像そのものでした。そこで、家庭医を目指すことにしたのです。
◆専攻医として秋田に残るか否か
―大学卒業後も秋田県に残られていますね。
そうですね。秋田県からの奨学金を頂いていて、義務年限が存在していることもありますが、私が大学6年生になった頃に秋田大学アカデミック家庭医療・総合診療医育成プログラムが開設されたので、後期研修は大学で受けようと思い、初期研修も秋田大学医学部附属病院で受けました。プログラムが開設されてから数年が経っていましたが、当時の学生・初期研修医の家庭医への認知度が低かったこともあり、私が専攻医第一号でした。
専攻医1年目は大学病院でさまざまな診療科を回らせていただきました。その過程で家庭医療や総合診療の存在を各診療科の先生方にアピールできたのではないかと思っています。専攻医2年目は横手市という内陸の豪雪地帯にある市立大森病院で研修しました。
大森病院を選んだ理由は3つ。1つは院長先生が総合診療に理解を示してくださっていた点。2点目は、医師不足も要因ではありますが、外来から入院、在宅医療まで一貫して全てを同じ医師が診ることができる環境にも魅力を感じました。3点目は、秋田県内唯一の家庭医療専門医の先生が大森病院に勤務していたからです。
―初期研修、後期研修を受けている過程で、海外での研修も受けていますよね。
そうですね。初期研修2年目の時に、ハワイ大学シミュレーションセンターへ研修に行ったんです。英語が得意ではなかったので、それまでは海外に行きたいとは思っていなかったのですが、いざハワイ大学の研修に行ってみたら、考え方が日本とは全く違い、そこから学べることが多くあることを知りました。それから海外に目が向くようになり、2017年には日本プライマリ・ケア連合学会の制度を利用し、2週間の日程でイギリスのGP(General Practitioner)のもとへ研修に行くことができました。
イギリスのGP制度をそっくりそのまま真似することはできませんが、患者さんのマネジメントやコミュニケーションスキルは非常に学ぶところが多かったです。また、GPの先生方が自分たちの仕事に誇りを持っていることが印象的でした。ホストの先生が友人の先生との飲み会に1回だけ連れて行ってくれたのですが、2人がとても熱くGPについて語り合っていました。その情熱は印象的でしたね。
―これまでのキャリアの中で悩んだことはありますか?
初期研修2年目の時、3年目以降どうするかは考えましたね。もちろん義務年限がありますし、秋田県で総合診療医としてやっていきたいと思っていましたが、やはり総合診療や家庭医療の歴史があるところで学んで、秋田県に持ち帰るほうがいいのではないか、と悩んだこともありました。
しかし、昔から秋田県で仕事をしたいと思っていましたし、秋田出身で、秋田県内で総合診療や家庭医療に携わりたいと考えている後輩たちもいます。そんな彼らのロールモデルとまではいかないまでも、少しでも先輩として道を示せたら――という思いもあったので、秋田県に残ることを決めました。
幸い、今在籍しているプログラムの先生方が、亀田ファミリークリニック館山との連携をとってくださるなど尽力してくださったので、秋田県内に残ってよかったなと思っています。
医師プロフィール
渡部 健 家庭医療専攻医
秋田県出身。2015年秋田大学医学部卒業、同大学附属病院にて初期研修修了。秋田大学アカデミック家庭医療・総合診療医育成プログラム専攻医第一号として研修中。2019年4月から2年間、連携施設となった亀田ファミリークリニック館山にて研鑽を積む。