原因不明で苦しむ患者さんを救いたい
記事
◆AIではできない、丁寧な診断を
―なぜ、総合診療科に進もうと思ったのですか?
総合診療科に進もうと思ったのは、大学4年生の時。リサーチクラークシップという研究期間のうち、半年間を母校である横浜市立大学附属市民総合医療センターで総合診療を学びました。研究をする中で、治療のスタートラインに立てず長年苦しんでいる患者さんが多くいる現場を見て、大学病院では診断に対するニーズが大きいと実感しました。
その後、大学の実習で千葉大学医学部附属病院総合診療科の生坂教授の診察を拝見したことがありました。症状を細かなところまで聴取し、患者さんの日常生活を映像化することで、長年苦しんでいる患者さんに問診で診断に迫っていく衝撃的な診察を目の当たりにしました。これがきっかけで学生時代の前半まで内科系に進みたいと考えていましたが、総合診療科を目指すことを決意しました。
―現在の取り組みを教えていただけますか?
千葉大学総合診療科に所属し、現在は1回44,000円かかる公立病院としては稀なセカンドオピニオン外来に携わっています。大学病院の総合診療科はいわば「最後の砦」なので、原因不明の患者さんの診断を突きとめることが大きな役割です。ここでは信頼関係を築きながら、診断に決着をつけることが求められているので、患者さんに対して頂いているお金に見合った丁寧な説明をすることを日々上級医の先生から指導頂きながら学んでいます。
また、現在は大学病院だけではなく、横浜市の保土ヶ谷区にある市中病院や地元の千葉県茂原市にある1次救急外来で外勤をしています。大学病院では、患者さん1人ひとりに時間をかけて正確に診断をすることを学んでいます。市中病院では、地域のゲートキーパーとして大学で日々学んでいることも活かしつつ、急性期疾患のコモンディジーズを素早く対処することや、生活習慣病を含めた慢性疾患の管理、地域や生活背景を考慮したマネジメントを意識しながら日々トレーニングをしています。最後の砦の役割と地域のゲートキーパーとしての2つの役割を日々経験しています。
長期的かつ横断的な見方でないと診断がつかない場合や、各専門科の隙間に落ち込んだ病気、複合的な原因で診断の難しい病気の患者さんに対して、治療の介入ができることにやりがいを感じています。
―大学院ではどのようなことを学んでいるのですか?
大学院の博士課程に進み、症候学について研究手法も含めて学ぶ傍ら、授業では、メンタルサポートケアのコースを受講しています。当科では、精神疾患の患者さんも多く、1つ1つの症状は軽症でも、総合的に見ると重症な患者さんがいるのです。
例えば、腰痛のある患者さんが、整形外科の医師に診てもらうと軽症と判断される。また精神科の先生からも、この人は気分の落ち込みは弱いと判断された。それでも、患者さんにとってはとても重い症状なのです。
整形外科や精神科では軽度だと判断されても、2つが合わさることで、結果的に患者さんはとても苦しい。そういった患者さんにどうアプローチしていくかを学んでいます。
そのような複数の領域にまたがる問題をもつ患者さんを、臓器別専門科の先生が診療しやすいように、診断推論を含めた適切なマネジメントを行うことも大きな役割であり、やりがいだと感じています。
単に原因不明といっても複数の病気にまたがっていたり、器質的なものと社会的な要因が組み合わさっていたりする患者さんが多くいます。中にはすごく稀な器質疾患であったり、よくある病気で稀な症状が出てきたり――。そういったパターンを総合診療科では多く見かけます。
また、現代のストレス社会では心理社会的な背景をもつ患者さんも多くいます。現場では、心理社会的問題と器質的な問題の両方が関与していたり、一見心理社会的問題からくる症状にみえるものの、実際は器質的な問題が隠れていたり、その逆である場合も多くあります。その点に関しては、コンピューターやAIでのアプローチが難しい分野だと考えています。これからもそういった患者さんに対して、日々指導医の先生から教えて頂いている学びや大学院での学びを活かし、人の手だからこそできる診療で患者さんがより良くなっていく手助けをしていきたいです。
医師プロフィール
石塚 晃介 専攻医
千葉県茂原市出身。2010年千葉県立長生高等学校卒業後、2016年横浜市立大学医学部卒業。練馬光が丘病院にて初期研修の後、現在は千葉大学大学院医学研究院診断推論学博士課程に在学しながら千葉大学医学部附属病院総合診療科にて総合診療専門医研修中。