薬剤師がハンガリーで医師免許を取ったわけ
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◆医師がいない、もっと地域の役に立ちたい
―薬剤師として働かれていたと伺いました。
薬剤師としては4年弱程働いていました。最初は鹿児島県指宿市の調剤薬局に勤務していました。
指宿では救急搬送の場合、約40km離れた鹿児島市内まで搬送する必要があり、「ここで倒れたらどうなってしまうのだろう――。」と考えていました。また、同じく鹿児島県の薩摩川内市近くの町で町内唯一の小児科医院が院外処方を始めるとのことで異動すると、多いときには1日200人近くが受診していて、先生も「医者が全然いないんだよね」という話をされていて。私もその事実を目の当たりにしました。そしてもっと地域の役に立てないかと思うようになり、医師になることを考え始めたのです。
―なぜ、ハンガリーの医学部に行かれたのですか?
医師になろうと思ったものの、当時は薬剤師としても駆け出したばかり。もう少し薬剤師の経験を積んでからでも良いのではと思い、35歳で医学部を卒業できるように医学部入学を考えていました。
最初は働きながら勉強して受験できるだろうと考えていたのですが、思いの外、受験のハードルが高いことを知り――。仕事を辞めて医学部受験の予備校にでも通おうかと思っていた時に、ハンガリーの医学部募集を見つけたのです。私の代は日本人1期生だったのですが、こちらの方が入学のハードルは低いと思い、受験を決意。ハンガリーのセゲド大学医学部に進学しました。
―薬剤師からのキャリアチェンジで、かなり勇気が必要だったのではないでしょうか? それにロールモデルがいない不安もあったと思います。
日本を出るということ自体には不安はありませんでしたが、英語での授業で本当に卒業できるのか、また卒業できたとしても日本の医師免許が本当に取れるのか、という不安はありました。しかし、仮に難しくても日本に帰って薬剤師として働けばいいという思いもあったので、心の余裕はありましたね。
また、確かにロールモデルはいなかったので、その点も不安ではありましたが、新しいことや人がやったことがないことをするのが好きな性格なので、全く苦にならずむしろ楽しかったです。また、幼い頃バンコクに3年程住んでいて、いつかまた海外に行きたいと思っていたのです。その夢が思わぬ形で実現できたので、そういった意味でも楽しめました。
―2013年6月にハンガリーの大学を卒業され、2015年4月から日本での初期研修を始めたのですよね。
そうですね。ハンガリーの大学卒業半年後に日本の国家試験があります。初年度は落ちてしまい、翌年に再挑戦して合格でき、2015年から初期研修を始めることができました。
帰国後の半年程はまさに激動の時間でした。まず7月末までに厚生労働省へ書類を提出、同時にマッチングの登録も始めなければいけませんでした。9月頃に厚労省に提出した書類の回答が来て、書類が通ると今度は「日本語診療能力調査」を受けます。以前は単純な日本語能力試験だったようですが、今は日本の医学生と同じオスキーが導入され、しっかり準備していないと日本人でも落ちてしまいます。10月半ば頃にようやく国家試験を受けられるか分かり、一気に国家試験受験モードに。薬剤師のアルバイトもしていましたし、試験の後に結婚式をすることも決まっていてその準備も同時にしていたので、時間がありませんでした。
医師プロフィール
佐藤英之 家庭医療専攻医
埼玉県出身。昭和薬科大学を卒業し、薬剤師として4年程勤務。ハンガリーのセゲド大学を卒業し、静岡県立静岡病院にて初期研修修了。2017年より坂総合病院を中心としたみちのく総合診療医学センターにて後期研修中。