小児外科医として日々患者さんと接する傍ら「山根塾」を主宰し、医学生や研修医の手術手技のコーチングに力を注ぐ山根裕介先生。YouTubeでの手術手技の動画解説や、自らも一緒になって連続100日間基本手技のトレーニングを行う「100日チャレンジ」の実践などを行っています。その原動力や教育にかける思いについて伺いました。
◆LINEやYouTubeも使って熱血指導
―医学生や研修医、若手医師の教育に精力的に取り組んでいると伺いました。具体的にはどのような活動をされているのですか?
毎週水曜日に「山根塾」として、医学生や研修医を対象にオンラインで手術手技のトレーニングを行っていて、「こんなふうにやったらいいよ」と話しながら、手を動かし続けて指導しています。塾の参加が難しい人のために、YouTubeでも解説動画をアップしています。
連続100日間、糸結びや運針手技などの基本手技トレーニングを行う「100日チャレンジ」も実施していますね。LINE上でグループを作っていて、参加者は毎朝、時間を計りながらトレーニングを行い、自撮りした動画をアップします。参加者の動画をチェックするとともに、毎朝、私自身も練習し動画を共有しています。
右手運針チャレンジ;https://youtu.be/blch-aSaDDo
糸結びチャレンジ;https://youtu.be/EaYqi_Ls3W0
もう1つ、長崎県内の小児外科志望の若手医師たちとも手技の勉強会を行っています。こちらもオンラインで、参加者たちの手術ビデオを見ながら「上手になったね、左手の使い方があと一歩だね」など、具体的に指導しています。若手医師にとっては自分の手術ビデオを見直せるメリットがあるほか、プレゼンテーション技術も身に付きます。また、これから欠かせないであろうオンラインの場に慣れてほしいという思いもあります。
私にとっても、成人手術の最新トレンドを学べる場になっていますね。成人の手術から良いと思うものを小児外科に取り入れる、そういった情報収集としても貴重です。
―勉強会を始めようと思われたきっかけは何だったのでしょうか?
手術における共通言語を浸透させたいと考えたことがきっかけです。手術はチームでなければできません。かつ手術の際、手は手術の操作に使っているので、言葉で伝え合わなければなりません。ですから、共通認識を言語化する必要があるのです。共通言語が浸透すればするほど、高いレベルでの手術が可能になります。
勉強会はもともと図書館の視聴覚室などに集まって、2015年から始めたのですが、コロナ禍でオフラインでの集まりが難しくなり、2020年の3月ごろからオンラインに切り替えました。勉強会を始めた頃は、正直、忙しい日常業務の合間を縫って参加してもらうこと自体が難しかったのですが、オンラインになってからは忙しくて今まで現地に来れなかった若手医師も参加しやすくなりました。以前よりも活気が出てきましたね。
◆キャリアの中心は手術手技を極めること
―どのようなきっかけで小児外科医を目指したのですか?
実はあまり真面目な学生ではなかったのですが、5年生で病棟実習が始まり、患者さんと接するようになってスイッチが入りました。1番影響を受けたのが小児科。もともと子どもが好きで、小児科は肌が合っていると感じたんです。ただ内科の長いカンファレンスが苦手だったので、小児外科がいいかもしれないと、漠然と考え始めました。
初期研修医時代には、救急医療に興味を持った時期もありました。しかし救急は初期対応が中心で、最後まで患者さんを診ていくことができません。一方の小児外科なら、生まれてすぐに手術をした赤ちゃんの経過をずっと診ていくことができる。そこに魅力を感じ、小児外科の道に進もうと決心しました。
実は研修を終えて長崎大学病院に入局したその日、先天性食道閉鎖症の赤ちゃんの手術がありました。その赤ちゃんが退院した後、外来で再会した時に、つかまり立ちをしていて、次に会ったら歩いていました。成長するので当然なのですが、この時には本当に驚き、嬉しかったです。
今、そのお子さんは高校1年生になっていて、私が外来主治医として診ています。子どもたちの成長を見られるのは小児領域ならでは。未来ある子どもたちの治療に携われるのはやはり非常にやりがいがある、と常々感じています。
―小児外科医としてどのようにキャリアを積まれていったのですか?
佐世保市立総合病院はじめ長崎県内で研鑽を積んでいましたが、小児外科のさらなるスキルアップのため、2009年から2年間、国立成育医療センター(現・国立成育医療研究センター)で研修させていただきました。ここでの経験が、自分のキャリアに大きな影響を与えましたね。
同センターには、医局に所属せず自分の生き方を自分で決めているレジデント仲間に出会い、「そのような生き方があるのか」と感銘を受けました。ただ私の場合は「まず、小児外科を極めなければ、そういった生き方を選択できるのかどうかも分からない」とも思ったのです。
また当時、小児外科での腹腔鏡手術の必要性を感じ、まずは成人の腹腔鏡手術の経験も積む必要があると考えました。そこで成人・小児どちらの手術にも携わることのできる病院はどこかと考え、佐世保市立総合病院(現・佐世保市総合医療センター)へ戻ることにしたのです。手術手技を極めることが、私のキャリアの中心になっていきました。
同院では2年間で約500件、成人と小児の執刀を担当しました。その頃医師7年目で、若手への指導も始めていました。後輩が執刀し私が前立ちをした手術も500件程行い、2年間で約1000件の手術に携わりました。
かなりハードでしたがストレス耐性は強い方なので、あまり苦にはなりませんでしたね。ただ、自分の子どもが私のことを親だと認識していなくて、「また来てね」とよく言われていました(笑)。それも今ではいい思い出です。
2013年に現在所属する長崎大学病院腫瘍外科に移り、現在まで手術や県内の他の病院での外来応援・手術応援に携わっています。
◆誰もやらないことに挑戦し続けたい
―今後の展望を教えてください。
現在、私が小児外科の指導医であることによって、研修施設定が維持できています。次に続くすぐ下の後輩と10年離れているので、彼が指導医になるまであと10年ほどかかるでしょう。それを考えると、少なくとも10年〜15年は現在の大学病院での勤務を続けながら、外科教育者としてどのようにしていくかを模索していきたいと考えています。
あと私は、人がやらないことをやりたくなる、あまのじゃくな体質です(笑)。オンラインで学生に指導することはまだ積極的に行っている人が多くないので、挑戦し続けいきたいですね。
「山根塾」は、自分たちの医局に入局してほしいから取り組んでいるわけではありません。あくまでも、腕の良い医師を育てたい。スポーツと同じように手術手技は早期から練習を始めるほど上手くなると思っています。だからこそ、学生をメインターゲットに指導しています。彼・彼女らが腕の良い外科医になってくれて、今度はまた違う誰かを教えてくれれば、良い技術・指導がどんどん広がっていく。こういった広がり・つながりを目指していきたいですね。
―医学生や若手医師へのメッセージをお願いします。
医学生や若い医師たちを相手に教えていると、エネルギーのある彼らに負けないようにしようという思いが湧いてきます。これが私の原動力になっています。また休みの日には、子どもたちとテニスをするのですが、それもまだまだ子どもに負けたくないという思いが原動力になっています。テニスは初心者ですが(笑)。今はかろうじて私が勝てているのですが、子どもにとっては、悔しがることがモチベーションに繋がっているようです。
糸結びなどの「100日チャレンジ」も一緒で、私自身は若い人たちの目標であり続けたいと思い頑張っていますし、参加者にとっては「私を超える」ことがモチベーションになっていると思います。
若い人たちに伝えたいのは、何事にもチャレンジ精神を持って取り組んでほしいということ。失敗したっていい。失敗したら、それを振り返って、少しずつ打たれ強くなりながら成長していけますから。そういった思いを持ちながら、果敢に前進していってほしいですね。
(インタビュー・文/coFFeedoctors編集部)※掲載日:2021年9月28日