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人文学の知見を医学界に伝える媒介者になりたい

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東京大学大学院の科学史・科学哲学研究室で科学論の研究をされている太田充胤先生。内分泌代謝科の臨床医や看護学校での教鞭、さらには批評家としての執筆活動と、多方面で活躍されています。どのような思いや考えから、今のキャリアを選択してきたのでしょうか?

◆臨床経験を通して感じた学問の違和感に踏み込む

―現在の活動について教えてください。

東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系科学史・科学哲学研究室で科学論を研究しています。また内分泌代謝科医として勤務しながら、批評家としてWebメディアでの連載記事を執筆しています。

科学論は、科学史、科学哲学、科学技術社会論の3つの分野を合わせた学問。この学問では、科学が歴史的および社会的な文脈でどのように形成され、何のためにどういった形の知を生み出していくかを考えます。特に、科学という概念がどのように客観的で権威あるものとして認識されているか、その背後にある時代精神や科学の思想・概念についての議論に焦点を当てています。

この学問領域に触れたことで、臨床現場で漠然と感じていたことが理論化され、より明確な形で捉えられるようになりました。しかし臨床医としての経験からは、もう一歩踏み込んだ議論が必要だと感じる部分などもあります。そこにきちんと踏み込み、人文学と医学それぞれに貢献できることを目指しています。

―看護学校で教鞭もとられているそうですね。

2022年4月から城南国際大学看護学部で非常勤講師をしています。看護の教育者向けの雑誌に掲載された私の記事を見ていただいたことをきっかけに、お声がけいただきました。ちょうど大学院に入学し仕事を減らそうとしていた時期でしたし、今後のキャリアを考えた時に教職経験はあった方が良いと思い、講師を引き受けることにしました。

担当は大学3年生の医療倫理学、4年生の死生学です。医療倫理学は必修科目なので受講生にはこの分野に興味がない学生もいますが、私が現場で直面した問題や、今後学生たちが経験するであろう倫理的な問題に対して考察してもらうと、関心を持ってくれる学生が多いですね。学生たちの答えを聞く中で私自身が学ぶことも多々あり、楽しく取り組んでいます。

◆「人がどのように動いて、どのように考えるか」に興味がある

―内分泌代謝科を専門に選んだのはなぜですか?

高校生の時から「人がどのように動いて、どのように考えるか」に興味があり、ゆくゆくは精神科へ進みたいと考えるようになりました。

東京医科歯科大学病院で初期研修を受ける中で、私が興味を持っているのは世の中の大多数の人が何を考えどう動くのかであること、そしてそれに触れることができるのは精神科というよりも内分泌代謝科だと気付きました。

糖尿病など生活習慣病の治療は、人の生活に踏み込まなくてはなりません。病気がうまくコントロールできていない理由は人によってさまざまです。単に薬がうまく効いていないこと以外に、その人の生活や思想に根付く部分や社会経済的要因など、複雑な背景が病気という形で現れているからです。そこにアプローチしていくことにやりがいを感じ、内分泌代謝科を専門にすることを決めました。

―医療政策にも興味を持っているそうですね。

医療政策の分野に初めて触れたのは大学4年生の時です。約半年間、研究室に配属され研究実習するプロジェクトセメスタ―という制度があり、私は医療政策の研究室で医療資源の分布などを調査しました。そこで教授が「医療とはスケ―ルを広げて考えていくと、結局は政策と都市計画の話になってくる」と、よくお話しされていたんです。

臨床実習に出る前はピンと来ない部分もあったのですが、その後臨床実習に出てみると、臨床の先生方が現場で何に対してどのように頑張らなければならないかということは、政策や都市計画のレベルによって決まってくるということが、徐々に分かってきました。もちろん、現場で臨床医が働きながら考えることも大事なのですが、それとは別のスケ―ル感で臨床医を動かすものがある。それがまさに医療政策や都市計画であり、その観点から臨床現場を見ることに興味を持ったのです。

こうして医療政策に興味を持った私は、初期研修中に2カ月間、国立保健医療科学院のプログラムに参加し、厚労省や世界保健機関(WHO)アジア支部に行きながら公衆衛生や医療政策の現場を体験しました。

―初期研修の後、医療政策ではなく臨床へ進んだのはなぜですか?

初期研修後すぐに医療政策に携わらなかった理由はいくつかあります。1つ挙げるとすると、医療政策に携わるにしてももう少し臨床経験を積んでおいた方が良いと思ったこと。初期研修ではさまざまな科を回って勉強させてもらえますが、やはり自分で意思決定して責任を負うことはありません。ですから、もっと主体的に臨床に携わる経験をしておきたいと思ったんです。

その方が、医療政策に取り組むにしても、より広い視野を持ち、意味のあることができるのではと考えました。

―その後、大学院に進む決断をされています。

私は学生時代から文章を書くことが好きで、将来的に文章を書く活動もできればと考えていました。学生時代、医療系ベンチャー企業のWebメディアで記事を執筆したり、医師4年目で内分泌代謝医として働いていた時には、批評のスク―ルにも通ったりしていました。そこでの成果物が評価され、Webメディアでの連載を任せていただくなど、書く仕事が少しずつ増えていきました。

ところが医療について書くために考えようとする時、現場での経験だけでは不十分だと感じ始めたんです。医療についてより深く考察するには、どのような学問の枠組みでも良いけれど、一度腰を据えて学ぶ時間が必要だと思い、大学院へ入学することを決めたのです。

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医師プロフィール

太田 充胤 内分泌代謝科医

東京大学大学院 総合文化研究科 相関基礎科学系 科学史科学哲学研究室 修士課程
2014年東京医科歯科大学医学部卒業。同院にて初期研修・後期研修修了。2021年東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系科学史・科学哲学研究室修士課程入学。現在は研究活動、内分泌代謝科医勤務、勤務と城南国際大学看護学部非常勤講師、執筆活動をしている。

太田 充胤
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