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全国にコミュニティホスピタルをつくり、質の高い総合診療の教育拠点にしたい

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同善病院(東京都台東区)コミュニティホスピタル化の中核として奮闘する医師7年目の梅沢義貴先生は、専攻医の時から在宅医療センターの立ち上げに携わっていました。その後は病棟部門長として、組織マネジメントや人事、教育など多方面を引っ張っていく存在となっています。専攻医の時期から組織立ち上げを行う葛藤はなかったのでしょうか?多彩な日々の業務や今後の夢についてもお話いただきました。

◆コミュニティホスピタル化の中核を担う

―現在の取り組みを教えてください。

私は今、東京都台東区にある同善病院を最高で最幸のコミュニティホスピタルに変革すべく、日々奮闘しています。2022年4月、当院に赴任し在宅医療センターの立ち上げに携わり、総合診療医として病棟、外来、在宅の3部門で診療しています。また2022年10月からは病棟部門長として、多職種の人事や教育、経営などにも携わっています。

—コミュニティホスピタルとはどのような病院ですか?

私たちはコミュニティホスピタルを「総合診療を軸として、在宅医療や多職種連携を活かしながら、(超急性期を除いた)すべての医療とケアをワンストップで提供して地域から真に愛される病院」と定義しています。

日々の通院はここ、入院するならここ、リハビリするならここ、往診をお願いするならここ……と、専門が細分化されたが故に医療機関をまたがっての受診がとても増えています。それでは良質な多職種/院内外連携を結ぶのは難しく、質の高い医療やケアを提供するのもまた先の夢となってしまいます。

現在同善病院では、予防や慢性疾患の治療を外来で行い、有事の際の超急性期治療は高次医療機関に依頼しつつ、その後の亜急性期治療やリハビリテーションは当院で、退院後も必要に応じて当院が訪問診療/訪問リハビリテーションを行います。自宅でのお看取りを含めた終末期にも携わり、療養場所にかかわらずその人の「人生」に最期まで寄り添うことができる病院となっています。

また、外来~入院~在宅と場所を変えても同じ医師が診療に携わることができるのは、患者家族や医療者双方にとって安心感がありメリットと考えます。このような医療は、その昔はもしかすると当たり前だったのかもしれませんが、現代ではなかなか実践するのが難しいと痛感しています。

—地域とはどのように関わっていますか?

地域医療に取り組むには地域課題を知ることがとても重要です。赴任当初は地域の病院や訪問看護師、地域包括支援センターの方など、地域の医療介護福祉職の皆さんに話を聞いたり、自分の足でまちを歩いて情報を集めました。ときには商店街の会合にお邪魔したり地域のお祭りに参加することでまちの一員として認めていただき、どのような課題があるかをまちの皆さんと一緒に考えていました。

当院のある台東区は東京23区でありながら高齢独居の方が全国の約3倍にも上る地域。連絡を取れる家族もおらず、ひとりで過ごす高齢者が多いのです。昨今のデータで孤独は、高血圧症や1日1箱の喫煙よりも死亡リスクを高めると言われており、大きな社会課題です。

そんな社会課題を解決すべく、医療機関内に「みのるーむ(三ノ輪×実る×ルーム)」というコミュニティルームをつくりました。フィンランドのゲームをベースにした老若男女問わず楽しめるスポーツ「モルック」や健康体操、将棋や野球歓談などのイベントを毎週開催。最初こそガラガラでしたが今や満員御礼イベントも多く、患者だけでなく通院歴のない地域の方もふらっと足を運んでくれるようになりました。「病院」というと足を運ぶのにハードルが高いイメージがあると思いますが、少しでも地域の方が気軽に立ち寄れるような場所にしていきたいですね。

◆医師5年目で新しい世界へ飛び込んだ

—同善病院へ勤務するまでの経緯を教えてください。

人生に寄り添える総合診療科へ進みたいと考えるようになったのは、順天堂大学医学部附属練馬病院での初期研修中の出来事がきっかけです。地域研修として約1カ月間180床ほどの病院に勤務し、1名の患者さんに対して外来診療から入退院、その後の訪問診療という一連の流れを経験しました。患者さんの人生を全体的に診ることができることに魅力を感じ、地域医療に携わりたいと思ったのです。

そして地域医療や在宅医療に力を入れている藤田医科大学総合診療プログラムで後期研修を受けることに。急性期医療や在宅医療、救急科や小児科、また新型コロナ専門病院などでの研修を積む中で医師5年目のとき、東京にある同善病院での在宅医療センター立ち上げにお声がけいただきました。

—在宅医療センターの新規立ち上げに関わることへの不安や葛藤はありましたか?

実際かなりありました。臨床についてより深く学びたいけれど、新しい組織の立ち上げに携わることで学ぶ時間や量が減ってしまうのではと心配していました。さらに組織立ち上げとなるとマネジメントなどさまざまな能力が必要ですが、当時そのような知識は全くありません。自分で大丈夫なのか……と大きな不安を抱えていました。

立ち上げは4つ上の上司と同期と3人で携わりましたが、超優秀な上司やとても仲の良い同期のおかげもあって、大変ながらも楽しく充実した日々を送ることができ「ゼロからのスタートってこんな感じなんだ」と肌で感じられました。私は縁に恵まれているのか、出会う人出会う人に助けられながら今に至っていると実感しています。

同善病院に来て2年以上が経ちましたが、学びが浅くなってしまったとは感じていません。それどころか多方面で得るものが多く、充実した日々を送っています。

—実際に在宅医療センターの新規立ち上げに携わってみていかがでしたか?

若手のうちから立ち上げを経験できるのは非常に貴重な経験でした。診療に必要な物品を揃えるところからはじまり、診療手順やスタッフリクルート、集患のための営業活動、診療報酬とコストのバランスなど全てをゼロから勉強しシステム化していきました。

そしてスタッフや患者が増えて徐々に収益が上がり、地域からの信頼を重ねて組織が成長していく姿を見られることに、大きなやりがいを感じます。前の職場でもお看取りは幾度となく経験していますが、自分で立ち上げた組織で初めてお看取りした経験は、とても思い出深いですね。

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医師プロフィール

梅沢 義貴 総合診療専門医

同善病院 病棟部門長/一般社団法人コミュニティ&コミュニティホスピタル協会所属
2018年順天堂大学医学部卒業後、同大学医学部附属練馬病院にて初期研修修了。2020年から藤田医科大学総合診療プログラムで総合診療専門研修開始。2022年同善病院に赴任し、在宅医療センターの立ち上げに参画する。現在は病棟部門長として病棟や同善会の運営に携わる。また一般社団法人コミュニティ&コミュニティホスピタル協会に所属し、全国で奮闘する仲間とつながりサポートする活動も行っている。

梅沢 義貴
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