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研究活動を通じ、医療資源が少ない地域の現地スタッフを支援したい

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世界的な健康課題であり、WHOが「顧みられない熱帯病」と警鐘を鳴らしている蛇咬傷。青木義紘先生は、長崎市内で救急医として勤務しながら、長崎大学大学院の博士課程でフィリピンをフィールドに毒蛇咬傷の研究を進めています。「蛇咬傷は非常に興味深い分野で、今後もライフワークとして取り組み続けたい」と語る青木先生は、小児科が専門。どのようなキャリアパスを歩み、蛇咬傷という研究テーマにたどり着いたのでしょうか?

◆長崎を拠点にフィリピンの毒蛇咬傷を研究

—現在はどのような活動をされているのですか?

長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科博士後期課程に在籍し、フィリピンをフィールドに蛇咬傷をテーマに研究を進めています。同時に、長崎大学病院高度救命救急センター救急・国際医療支援室に所属し、長崎みなとメディカルセンター救命救急センターで救急医として働いています。

救急・国際医療支援室は長崎市と連携し、市内の救急医療を担う医師の教育・派遣とともに、海外での医療活動に従事したい医師の受け皿となっています。市内の救命救急センターに勤務しながら、年に3カ月間は国際支援や海外での研究活動に従事する機会をいただいています。

—研究テーマについてもう少し詳しく教えてください。

現在進めている研究は、特定の毒蛇による咬傷に関するものです。日本では、毒蛇による死亡例は年間数例程度ですが、世界的には年間約10万人が毒蛇に咬まれて亡くなっているとされています。WHOも「顧みられない熱帯病」として、重大な健康課題と警鐘を鳴らしているのです。

蛇咬傷は、分かりやすい検査方法があるわけではありません。咬まれた患者さんの症状や、患者さんが話す蛇の特徴、どういった場所で咬まれたのかといった内容から推定するのが基本です。そのため誤診が多いのが実情です。そして、実際に何人くらいの患者さんがどの蛇に咬まれたのか、どの蛇に咬まれるとどのような症状が出るのかといったことがデータとして不足しているため、あまり研究も進んでいないんです。

フィリピンでは、ある固有の毒蛇に噛まれた方の多くが亡くなっているのですが、あまり報告されていないために研究も進んでいませんでした。そこで、その毒蛇咬傷を大学院での研究テーマとして選び、修士課程の時から研究を進めています。その毒蛇に咬まれた患者さんを観察しながら研究を行っていて、将来的にはその毒蛇による咬傷をもう少し明確に診断できる方法を確立したいと考えていて、今検討しているところです。

◆「途上国で何に取り組みたいのか?」

—ところで青木先生は、小児科を専門としています。そこからどのようなキャリアパスを経て、現在に至っているのですか?

もともと大学5年生頃には「途上国で働きたい」と、漠然と思うようになっていて、長崎大学熱帯医学研究所へも見学に行っていました。ところが、実際に見学してみて「何をしたいのか?」と問われても、実際に途上国でどんなことに取り組みたいのか全く明確ではないことが分かって——まずは国内で自分の専門性を磨くことを優先しようと思いました。

内科と小児科で迷っていたのですが、実習で小児科を回ってみて、将来ある子どもたちの医療に貢献することに魅力を感じ、小児科を専門とすることを決めました。そこで、大学病院のように各診療科をバランス良くローテーションでき、医師3年目から小児科に進める旭中央病院の小児科プログラムで初期研修、小児科後期研修を受けました。

研修中は日々目の前の業務に精一杯で、途上国への思いが少し薄れていました。しかし、小児科の後期研修中に参加した学会で、アジアやアフリカの活動報告を見て、やはり途上国での活動に参加したいとの思いが再燃し、結果的に国境なき医師団に参加しました。

—その時には、途上国で取り組みたいことが明確になっていたのですか?

具体的にこれというものが見つかっていたわけではありませんでしたが、小児科後期研修3年間での経験から、途上国で研究活動に取り組みたいと考えるようになりましたね。後期研修中は上司に恵まれ、症例報告や論文執筆の機会を多くいただいていたんです。

そこから途上国でも研究活動をしたいと思うようになったのですが、まずは途上国で実際に何が問題になっているのか自分の目で見に行かなければ始まらないと思い、一番現地の患者さんの近いところに行ける団体だと聞いていた国境なき医師団にアプライしました。

—国境なき医師団ではどのような活動に参加されたのですか?

シリアでサラセミアという遺伝性貧血の治療プロジェクトに参加しました。重症型の患者さんは毎月輸血が必要なのですが、輸血によって体内に鉄分が溜まりすぎると中毒を起こすので、余分な鉄分を除去する薬の投与が必要です。その薬の導入プロジェクトの責任者を任せてもらいました。

現地での活動を通じて学んだのは、医療資源の不足している地域では研究の概念自体が欠如しているということ。国境なき医師団に参加するまでは、研究は自分のやる気さえあれば臨床と並行してできると思っていました。ところが、人や物資などあらゆる医療資源が不足し、ギリギリの状態で臨床活動が行われている地域では、研究活動に取り組むこと自体が非常に難しいと知ったのです。

しかし同時に、そのような医療資源の少ない地域で、研究という立場から役に立ちたいとも思うようになりました。まずは正しい研究方法を学ぶためにペルーの熱帯医学を勉強するコースに参加し、その後長崎大学大学院に進学。長崎大学病院高度救命救急センター救急・国際医療支援室からお声がけいただき、救急医として勤務しながら、フィリピンでの研究を進めています。

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医師プロフィール

青木 義紘 小児科医

東京都出身。2012年に弘前大学医学部を卒業し、総合病院国保旭中央病院で初期研修、小児科後期研修を修了。大阪母子医療センター集中治療科レジデント、国境なき医師団(シリア・小児科医)、慈泉会相澤病院救命救急センター救急科医を経て、2021年10月より長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科博士課程。2022年10月より長崎大学病院高度救命救急センター救急・国際医療支援室助手。

青木 義紘
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