自分の得意を活かして、人の楽しい・幸せをつくる
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◆医療とゲームの融合で人々の健康を支える「Dr.GAMES」
―一般社団法人「Dr.GAMES」では、どのような活動をされているのですか?
Dr.GAMESでは「医療×ゲーム」をベースに人々の健康をサポートすることを目指しています。現在は主に、3つの柱に基づいた活動を行っています。
1つ目は、ゲームプレイヤーへの健康介入。具体的には、eスポーツ大会の医療監修や現場での医療サポートです。過去には、高校生向けの大規模eスポーツ大会「STAGE:0(ステージゼロ)」で医療面のサポートを行いました。
またゲームによって、疲労感など身体的影響がどのように現れるのかという研究も進めています。今後、オリンピック競技に採用されるかもしれないと言われるくらい、eスポーツはスポーツとしての認知が高まってきています。そうなると、スポーツ医学の観点からも捉える必要があり、医療の介入は避けられなくなります。このような流れに対して、私たちも何らかの形で関わっていければと考えています。
2つ目はゲーム障害への介入です。これは、ゲームが引き起こす問題に対する啓発やサポート活動で、学校での出張授業や、保護者向けの「ゲーマーお悩み相談室」を行っています。
また「ゲームの終わらせ方ガイド」も作成しました。ゲームによっては、時間で区切りにくいものもあるんです。そのため、ゲームの特性を知らないままに、親御さんが時間で区切って子どものゲームを終わらせようとすると、親子関係を悪くしてしまう可能性があります。そこで、各ゲームに応じた区切り方をガイド内で解説し、ホームページ上に公開しています。
3つ目は、ゲームを用いた医療介入。これまで、謎解きゲームを用いたHPVワクチンの啓発などを行ってきました。
―Dr.GAMESを始めたきっかけや背景を教えてください。
私自身はもともと、ゲームをプレイするよりも作る側に興味があり、学生時代には謎解きイベントの制作に力を入れていました。亀田ファミリークリニック館山で後期研修を受けていた時、そのようなバックグラウンドから、地域住民や小中学校の先生向けにゲーム障害をテーマにしたレクチャーを担当することになって——久里浜医療センター主催のゲーム依存症治療指導者養成研修に参加したり、本や論文で自分なりに勉強したりしながら、毎年レクチャーを引き受けているうちに、さまざまなところから講義依頼が来るようになったのです。
一方、自分が好きな謎解きを活用して医療問題を解決できないか、と長年考えていました。例えば、病院に置いてある疾患啓発のパンフレット。読みたいと思う方はあまり多くないと思います。しかし、それにゲーム要素を盛り込んだら、楽しく医療知識を身につけられるのではないかと思っていたのです。
そんな時に亀田ファミリークリニック館山へ短期研修で来ていた、Dr.GAMES理事の阿部智史と出会いました。彼と意気投合し、「日本でこれほどゲームに情熱を注ぐ医師は他にいない。2人が組めば医療×ゲームで実現できないことはないだろう」との思いから、Dr.GAMESを立ち上げました。
―2021年にDr.GAMESを設立。これまでの活動を通じて、どのような手応えを感じていますか?
私自身はまだ道半ばだと感じていて、大きな成果を挙げたとは思っていません。ただ幸いにも、メディアで取り上げられる機会も増え、少しずつ認知されてきていることは実感しています。
ただ、ゲームが万人受けするツールだとは思っていません。もちろん好きな方は、ゲーム要素を取り入れたツールで楽しく医療知識を身につけてくれればいいですが、あまりハマらない方には、また別のアプローチが必要だと思っています。大事なのは、さまざまな人たちがさまざまなアプローチで啓発していくこと。ゲームは、あくまでも多種多様な方法がある中での選択肢の1つです。本当に小さな潮流の1つではありますが、今後も医療×ゲームのアプローチ方法は続けていきたいですね。
また、楽しく学べるツールとしてゲームを活用することで、医学教育の分野においても可能性を感じています。「楽しい方がいい」という思いを大切に、少しずつ活動を積み重ねていきたいと考えています。
医師プロフィール
近藤 慶太 家庭医療
埼玉県出身。2016年、慶應義塾大学医学部を卒業。JA長野厚生連佐久総合病院・佐久医療センターで初期研修修了。2018年4月より、亀田ファミリークリニック館山で後期研修。同院にて家庭医診療科で後期研修、プライマリ・ケアスポーツ医学フェローを経て、2024年4月より順天堂大学総合診療科に所属。家庭医としての総合診療科、スポーツ内科での診療の傍ら、一般社団法人Dr.GAMES代表理事も務める。