「clintal(クリンタル)」名医検索サイトが挑戦する課題
記事
-杉田先生が医療界で感じた課題はどのようなことでしょうか?
専門的な治療や、手術に高度な技術が必要な疾患を患った患者さんにとって、最適な医師がどこにいるのかということを探すのが大変だということです。
私自身の親が帯状疱疹や網膜剥離になった際に、その分野の名医を探すことに非常に苦労しました。その時に、医師である自分自身が名医探しにこんなに苦労したということは、一般の患者さんはさらに大変なのではないかと思いました。また時を同じくして、友人から「○○の治療をする良い先生知らない?」と聞かれることが多くなりました。30代になると親や子どもが病気をする世代になってきて、病院を受診する機会が増えてきます。そこで、より一層名医を探すことの大変さを実感しました。
-その原因はどのようなところにあるのでしょうか?
主な原因としては、医師・病院の情報公開が限定的であるということが挙げられます。最近になってようやく、DPC病院が増え、病院もホームページ上で手術数や経歴等を載せるなどして、情報公開の基盤ができてきています。
しかし医師個人レベルだと、保有している専門医資格などは探せば出てきますが、年間実際にどの程度臨床をしているのか、診療科の中でもどの疾患が専門なのかというような情報はあまり公開されていないのが現状です。また公開されていたとしても、例えば「年間100件胃がんの手術をやっている」というだけの情報では、患者さんにとってはそれをどう解釈すればよいか難しいと思い ます 。
-名医を探しづらい現状を解消するために、現在どのような活動をされているのですか?
2015年7月より「clintal(クリンタル)」という名医検索サイトを開始しました。このサービスは、一般の病院・クリニックの検索サイトとは異なり、確定診断がなされた患者さん向けであり、疾患ごとに医師を検索します。サイト上で診療科と疾患、治療法を選択すると、その分野における名医が一覧で見られます。また検索サイトとともに、患者さんへ直接、受診先として最適な医師を紹介するサービスも行っています。
セカンドオピニオンの医師を紹介するサイトは他にもいくつかありますが、紹介までに時間がかかり、医師の選考基準が明確でないことが問題としてありました。中には、紹介までに3カ月もかかるサイトもあります。数カ月も待つのは、進行性のがん患者さんですと精神的、肉体的にも負荷をかけることになります。そして、医師の選考基準がはっきりしていないと、「なぜこの医師を紹介されたのか分からない」と思われ納得感を持ってもらえません。
そのため「クリンタル」での案内サービスでは、必ず4営業日以内に紹介することと、「数多くの医師がいる中でなぜこの医師が適切なのか」という理由を必ず説明しています。また、紹介している医師の情報は全てサイト内に掲載されていますので、より納得感を持って利用してもらえるようにしています。
「クリンタル」https://clintal.com/
-「名医」の定義はどのように決められたのですか?
医学生の頃、講義で「医師とはかくあるべき」という3つの項目がありました。医師とは「技術・知識・人格」を兼ね備えるものだということでした。それをベースとして以下のような項目に分けて、5段階でスコア化しています。
評価視点 詳細項目(一例)
◆臨床・技術 専門患者数(手術数)
専門医資格
論文・学会発表数
◆学術・知識 最終論文・学会発表年
学術機関
論文・学会発表数
◆受診しやすさ 医師指定受診可否
外来待ち時間
情報公開の度合い
(「クリンタル」サイトより)
現在載っている先生方は、この基準に基づいて全員「名医」として選定された方です。スコアは5段階まであるものの、それで優劣をつけているということではありません。一般の方にとって、一覧に記載されている年間の手術数や論文数の数字だけを見ていても、それが多いのか少ないのかということは分かりにくいと思います。それを分かりやすくするために、スコア化という手段を取っているのです。
レストランの評価のように、点数が低くても「自分の口に合う」ということはありますし、それと同じでスコアはあくまでも目安なのです。そのため、「載っている医師は皆名医だ」ということを誰が見ても理解できるほど、サイトの認知度を追及していきます。
-モデルとなるサービスはあったのでしょうか?
アメリカの「グランド・ラウンズ」というサービスが似ています。そのサービスは患者さんにセカンドオピニオンの医師情報を紹介すると同時に、企業の抱える医療保険に対して同様のサービスを使ってもらうことで企業のコスト削減をします。患者さんにとっては良い医師に巡り合うことができ、それによってかかる医療費が必要最低限になります。一方、企業の医療保険にとっても、患者さんが良い医師に治療してもらえれば、それだけ治療費が下がり支払う給付金が少なくなります。この会社が今、アメリカで急成長しています。
日本の医療費の規模はアメリカに比べると1/5ほどですが、医療費は年々1兆円ずつ増え、健康保険組合などはコスト増大で苦慮しています。そのため、「グランド・ラウンズ」のモデルは日本でも応用できますし、患者さんが名医に診てもらうことで、日本でも医療費削減につなげることも可能だと考えています。
(聞き手 / 北森 悦)
医師プロフィール
杉田 玲夢 眼科
株式会社クリンタル代表取締役。2006年東京大学医学部卒業。NTT東日本関東病院、東京大学医学部附属病院での研修を経て、国内コンサルティング会社に転職。厚生労働省、経済産業省などと社会的課題に関するプロジェクトを経験、その後デューク大学ビジネススクールに留学。2015年5月に株式会社クリンタルを創業。