社会的卵子凍結をやめた理由
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私のクリニックでは社会的卵子凍結を行っていましたが止めました。時には本人ではなく、実の母親が娘を心配して連れてくることも多々ありました。体外受精は50歳まで可能ですが、問題はパートナーなんです。
37歳で卵子を凍結しても、パートナーがいないために凍結した卵子を使うことがない。むしろ凍結したという安心感から、婚期が遅れてしまうんじゃないかという考えが徐々に湧いてきました。そのようなことが続いたので、結局今は社会的卵子凍結を止めました。
経済的にも凍結する卵子を取るのに40~50万円、凍結費用は1個1年間2万円なので、決して安くない金額です。5年前と比較すると体外受精の成功率が上がっているので、42,3歳まで普通にパートナーを作ってクリニックに来る場合は、卵子凍結ではなくて直接体外受精を試した方がいいです。卵子自体は40歳までは正常似働きますので、若い卵子の方がいいというわけではありません。
今、年齢の話をしましたが、私のクリニックでは採卵は45歳まで、体内に戻すのは50歳までと年齢制限を設けています。今までの最高年齢は46歳で、妊娠された方は数名いました。ただし46歳の患者さんが妊娠しても、8割の方は流産しています。そして流産しても逆に、患者さんは諦めきれなくなる。「もう1回、あと半年頑張ればどうにかなるのではないか」、「奇跡がもう1回起きるのではないか」と考えてしまう。
ですので、不妊治療は患者さんに治療と共に、精神的なサポートをしていくことが必要なんです。数回に分けて1年前からのデータを見せて説明して、少しずつ納得してもらう。その過程で自分でも生活習慣を改善するなど出来る限りのことをやってもらい、納得できる治療を受けてもらうことが大切です。
ちなみに妊娠年齢の上限を50歳と決めたのは、小児科、産科の医師と話していて肉体的限界だろうとの考えからです。少し高過ぎるのではという話もありますが、学会の発表では「妊娠可能な年齢を見極めなさい」と出しているので、私は50歳と定めました。
(参考資料)
*東京都の女性の初産年齢は30.5歳、初産年齢は32.2歳、生涯未婚率17%
*千葉県浦安市は、35歳未満の卵子の凍結を希望する女性に対し、社会的卵子凍結に対する公的な助成を開始
社会的卵子凍結についての見解の記事
http://wol.nikkeibp.co.jp/article/column/20141023/193288/?P=1
(聞き手・構成 / 田上佑輔)
医師プロフィール
原 利夫 産婦人科
はらメディカルクリニック院長
医学博士。1983年慶応義塾大学大学院医学研究科修了にて医学博士学位を取得する。同大産婦人科助手を経て、1987年東京歯科大学市川病院講師、1989年千葉衛生短大非常勤講師となる。この間、日本初の体外受精凍結受精卵ベビー誕生のスタッフとしても活躍する。1993年、不妊治療専門クリニックはらメディカルクリニックを開設。専門は生殖生理学、内分泌学、精子学