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着床前診断のいま

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体外受精による妊娠率の向上や、体外受精後の流産率を減らす流産予防、不妊治療のための着床前診断など、妊娠にまつわる技術が進んでいます。一方で、男女の産み分けや遺伝性疾患の回避など、命の選択と捉えることもできる倫理的・宗教的な問題も含んでいます。これらの議論に、どのように向き合っていくべきでしょうか?約25年前から不妊治療クリニックを運営されている原利夫先生はこう考えています。

日本では着床前診断は禁止されていますので私のクリニックでは行っていません。しかし男女の産み分けるための手法として精子分離は行っていて、成功率は80%程度です。

男女の産み分けができる技術は、もともと乳牛のメスとオスの産み分けの技術を応用したもので新しい手法ではないです。最近の傾向として産み分けを希望される方は、高齢出産で1人しか生まないことが多いですね。そして以前と比べると面白いことに、男を欲しがる人がいない。皆さん女の子を欲しがります。

産み分け自体にも反対の意見が多くあるのは分かりますが、本来であれば着床前診断と共に、もっと学会や政治の世界でも議論されるべきです。例えば、この男女を産み分ける精子分離法も日本産婦人科学会では議論されてきました。精子分離には、分離試薬 (パーコール液) に精子を重層し遠心分離する方法が使われてきましたが、これも平成6年に学会が「当分の間、パーコール液の使用はしない」 との見解を出しました。しかし、平成8年には「追試の結果、精子分離法が(男女の)選別できる科学的根拠がない」とし、また「使用を容認するものではない」という見解を明らかにしながらも、禁止令を撤回し黙認へと決めました。

着床前診断を望む患者さんは多いですが、精子分離法以上に100%の選別を行うことになり、倫理的な問題をはらみます。しかし全国的には(倫理委員会を通して)実際に着床前診断を行っているクリニックもあり、全国から患者さんが集まってきていると聞きます。ですので、着床前診断など新しい技術に関しては学会などが積極的にどのようにしていくのか議論して、指針を決めていくべきだと思っています。技術の進化は進むのですが、倫理や議論が追い付いていないのが現状です。

(聞き手・構成 / 田上佑輔)

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医師プロフィール

原 利夫 産婦人科

はらメディカルクリニック院長  
医学博士。1983年慶応義塾大学大学院医学研究科修了にて医学博士学位を取得する。同大産婦人科助手を経て、1987年東京歯科大学市川病院講師、1989年千葉衛生短大非常勤講師となる。この間、日本初の体外受精凍結受精卵ベビー誕生のスタッフとしても活躍する。1993年、不妊治療専門クリニックはらメディカルクリニックを開設。専門は生殖生理学、内分泌学、精子学

原 利夫
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