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「clintal(クリンタル)」名医検索サイトで地域医療も変わる

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「クリンタル」を作る前は、コンサルティング会社で病院経営のコンサルティングを行っていた杉田玲夢先生。そこで知ったことは、多くの総合病院が、その地域の住民が患う疾患を全て自らの病院で解決しようとしていて、結果的に患者不足、医師不足、赤字経営という悪循環に陥っているということでした。その問題を解決するために杉田先生が始めたことは、「名医の居場所の見える化」です。

-病院経営のコンサルティングをされている中で、どのようなことを課題と感じたのでしょうか?

総合病院の密度の高さは課題だと思っています。 都市部では、一つの医療圏の中にいくつもの総合病院があり、それぞれが同様に20~30診療科程度を標榜しています 。その背景として、それぞれの病院長が「地域住民の健康は自分たちが守るのだ」という熱い意気込みをもっていらっしゃることが多く、それ自体は素晴らしいことだと思います。

ただ、どの病院も同じような診療科・機能を持っているので、限られた数の患者さんや医師の奪い合いが起こり、結果的にどの病院も患者不足、医師不足、赤字経営という悪循環に陥っています。病院は公共性が高いので、今は補助金等で経営をなんとか続けていますが、もし赤字が進み経営が立ち行かなくなってしまうと、その病院に通う患者さんに多大な影響が出ます。そういった状態になってはいけないと常々思っていました。

-その状態を解決するためには何が必要と考えていらっしゃるのですか?

やはり常々言われているように、一つの病院で患者さんの問題を全て解決しようとするのではなく、地域にある医療機関全ての力を集結した形で地域住民の医療に取り組むという考えに変える必要があると思います。例えば、「心臓外科の患者はうちの病院ではなく、隣の病院に名医がいるからそちらで手術してもらおう 」というように医療圏の中で協力体制が取れると、患者さんにとっては、確かに一つの病院で全て完結はしなくなりますが、より良い質の医療が受けられるというメリットがあります。

そのような状態なるためには、それぞれの病院が「自分の病院はこの診療科が周りよりも圧倒的に強い」という得意分野を持つ必要があります。病院ごとに違う強みを持っていれば、医療圏の中でお互いに補完し合うことができますし、医師の奪い合いも避けられます。また、患者さんは基本的には経験豊富な医師が多い病院に集まりますので、強い診療科があれば、患者さんも自然と集まり、さらにその診療科の質が向上します。

-そのようなシステムにするため、先生は実際にどのようなことをしようと考えていらっしゃいますか?

まず1つは、各病院の強い診療科の見える化です。強い診療科を作るためには、その科に名医が必要です。しかし現在、どの病院の何科に名医がいるかというのはすぐには分かりません。そのために2015年7月から初めている名医検索サイト「clintal(クリンタル)」を使って名医の見える化を進めています。 特定の領域の患者が名医のいる病院に集まることで、総合病院の中から、がんセンターや循環器センターなどのように、一部の疾患に集中して質と効率を高めた医療機関が出てきてもいいと思います。

そして2つ目は名医の偏在の見える化です。例えば心臓外科専門医の人口当たりの密度を見ると鳥取県は岩手県より3倍密度が高いなど、地域間で差が大きいです。単純に考えると、鳥取県の専門医は岩手県に行った方が手術経験を積めることになりますし、岩手県としても医師不足なので専門医に来てもらえると嬉しく、病院としても新たな強みになるので経営的にもいいはずです。

名医偏在の見える化ができたら、最終的には偏りを解消できるように先生方、病院側双方に「行ってみる」提案、「受け入れる」提案をしていくところまで発展させていければと考えています。将来的にどの地域も、一つの病院だけで全ての患者さんの問題を解決しようとするのではなく、地域の病院全体で患者さんを支えるシステムづくりができれば、地域医療の質の均一化につながるのではないかと考えています。

名医検索サイト「clintal(クリンタル)」とは?

>>「clintal(クリンタル)」名医検索サイトが挑戦する課題

 

(聞き手/ 北森 悦)

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医師プロフィール

杉田 玲夢 眼科

株式会社クリンタル代表取締役。2006年東京大学医学部卒業。NTT東日本関東病院、東京大学医学部附属病院での研修を経て、国内コンサルティング会社に転職。厚生労働省、経済産業省などと社会的課題に関するプロジェクトを経験、その後デューク大学ビジネススクールに留学。2015年5月に株式会社クリンタルを創業。

杉田 玲夢
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