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プライマリケア医の不安を解消~整形外科医から簡単な肩関節穿刺法を伝授する~

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記事

プライマリケアの現場では、治療の一つとして関節穿刺で薬剤を入れる場面があるかと思います。しかし関節穿刺に漠然とした不安を持ちながら行っているプライマリケア医もいることと思います。そんなプライマリケア医向けに、整形外科医が簡単な関節穿刺法を教えるイベントが行われました。今回は「肩関節」への穿刺法。コツが分かりやすく簡単な方法をお伝えします。

プライマリケア医のなかには、肩関節の痛みに対して、注射で薬剤を入れることで緩和させることもあるかと思います。しかし「果たしてこれで本当にあっているのだろうか?」と自信を持てないで治療している医師もいるのではないでしょうか。そんなプライマリケア医の不安を解消するイベントがありました。

家庭医療後期研修医の渋谷純輝先生、整形外科医の藤井達也先生、中山俊先生が運営する「メディカルマッチョメンズ」が主催する「プライマリケア×整形」シリーズのイベントです。第一回目のテーマは「膝関節穿刺」、そして今回が「肩関節穿刺」でした。整形外科医6年目の藤井達也先生が講師となって、肩関節の解説と関節穿刺のレクチャーを行い、参加者は繰り返し練習することで、自信を持って「肩関節穿刺」ができるようになることが目的です。今回はイベントで得られた知識をレポートします。

◆体表解剖学で「肩」を知る

まずは体の外側からどこにどのような筋肉、骨、血管、神経があるのか確認することから始まりました。体表図を見て、目印となる部分をおさえながら自分の肩を触ることで、肩鎖関節・烏口突起・肩峰・大結節・小結節の位置を把握していきました。大結節・小結節は、腕を外旋しながら触ると分かりやすいというアドバイスももらいました。ここでのポイントは、「肩鎖関節と烏口突起は思ったより近い」ということでした。

1-前面 骨 鎖骨・烏口突起・肩甲骨・上腕骨
(前面)
2-背面 肩鎖関節・肩峰・肩甲骨・上腕骨・烏口突起
(背面)

 

続いては、筋肉です。背面で触れる筋肉は、僧帽筋・広背筋・三角筋・そして腕の上腕三頭筋ということを確認。背面の体表から触れない筋肉として、棘上筋・棘下筋・大円筋・前鋸筋・棘下筋のさらに下にある小円筋の位置を確認しました。前面の触れる筋肉は三角筋・大胸筋・上腕二頭筋、触れない筋肉として小胸筋がある位置を確認しました。

 

3-背面 僧帽筋~上腕三頭筋
(背面)

4-背面 僧帽筋・棘上棘下筋・大円筋・前鋸筋
(背面)

5-前面 三角筋・大胸筋・上腕二頭筋
(前面) 

6-前面 三角筋・大胸筋・小胸筋・上腕二頭筋
(前面)

 

また、肩甲骨と胸郭の間にある肩甲下筋・棘上筋・棘下筋・小円筋は回旋腱板です。体表から位置を確認するコツは、鎖骨が終わる地点が肩鎖関節で、そのさらに遠位が肩峰、そこより内側に入ったところと教わりました。回旋腱板は上腕骨頭を抱え込むような形で肩関節の動きを安定的なものにしています。三角筋が発達している若年男性の場合は、触診で確認することは少し難しいようでした。

 

7-前面 肩甲下筋

(前面)

8-背面 棘上筋・棘下筋・小円筋
(背面)

 

ここで骨と筋肉の接続点の確認です。回旋腱板のうち肩甲下筋は小結節に、その他3つの筋肉は大結節にくっついています。烏口突起についている筋肉は、大胸筋・小胸筋・上腕二頭筋の短頭です。上腕二頭筋は二つに分かれていて短頭が烏口突起に付着、長頭は大結節・小結節を通って中に入っているということがポイントになっていました。

体表解剖学の最後は、脈管の確認です。上腕二頭筋の外側を走っている橈側皮静脈を確認します。腕を外旋して、少し大胸筋を持ち上げると分かりやすいとのことでした。この静脈は三角筋と大胸筋の間を入り込んで鎖骨下静脈につながっています。三角筋は鎖骨の遠位1/3、それより近位が大胸筋なので、橈側皮静脈は、鎖骨の近位2/3のあたりを抜けているということが分かります。つまり血管やその付近にある腕神経叢は、烏口突起と離れてさらに内側にあるため、後方や側方からの穿刺であれば、動脈や神経の場所を気にして怖がる必要はないと教わりました。

9-前面 腕神経叢・腋窩動脈

ちなみに腕の動きは、屈曲進展・外転内転・外旋内旋の3つに分類されます。これらをカルテに記載する際、整形外科医は屈曲進展=前方挙上(AE)、外転内転=側方挙上(LE)と書くことがあるという豆知識も教えてもらいました。

10-関節の可動域の図

先程確認した筋肉のうち、回旋腱板と言われる肩甲下筋・棘上筋・棘下筋・小円筋の4つのうち、肩甲下筋は内旋、棘下筋と小円筋は外旋、棘上筋は腕を前に少し出して60~120°に上げる際にそれぞれ使います。

ここで、肩関節に関連する疾患の主なものを教えてもらいました。肩関節周囲炎(五十肩)、上腕二頭筋腱炎、回旋腱板断裂、石灰化腱炎の5つが肩関節周辺の病気の上位9割ほどを占めるとのことでした。

◆すごく簡単な穿刺法

約1時間のレクチャーを終え、いよいよ実践です。関節穿刺は、後方法と側方法が主流だそうです。まずは、どのあたりに刺すのかを確認。

肩峰と肩鎖関節、三角筋の間に肩峰下滑液包(SAD)があります。これはイメージ的には2つで、肩峰の下と三角筋の下なのですが、ほとんど一緒のものとして教科書等には書かれているそうです。また、烏口下滑液包という烏口突起の下にあるものとはつながっていません。

関節穿刺は関節包に行うことが目的ですが、多くの場合は肩峰下滑液包(SAD)に刺します。というのも、棘上筋と関節包はつながっていて、それに加えて60代を過ぎると50%以上の方は、棘上筋のどこかは切れていると言われているので、SADに刺せば大体関節包に薬液が入るとのことでした。このような原理で整形外科医も、きちんと関節包に刺すとバックフローがありますし薬液は関節包に浸透するので、抵抗がなくできるSADへの穿刺を行っているそうです。

後方法の刺し方は肩峰から2センチ外部を、2センチ下から烏口突起目指して刺しましょうとのことでした。肩峰の真下に添わせるように刺していけばSADに刺せます。 また、肩峰に手を当て少し力を入れると肩峰の下が開くのでそこに向かって刺すこともポイントです。脈管は前にあるので、後方法はそんなに怖がることはないことが分かりました。

側方法は、肩峰の下に添わせることを意識することがポイントでした。こちらも烏口突起を目指して肩峰を触りながら行います。

針は23Gを使うことが多いです。この長さであれば、後ろからアプローチすることで脈管を傷つけることがなく安全とのことでした。仮に当たるとしたら上腕骨頭だそうです。これは最初刺した時の針の振り上げが足りなかった結果なので、その場合は少しだけ抜いてもう少し振り上げて刺しなおせば問題ありません。上腕骨頭に当たってしまったら焦らず、むしろ目的としているところに当たっている証拠になるので「上腕骨頭に当たってラッキー」という気持ちで少し刺しなおせばSADに入っていきます。

ちなみに薬液を入れることに関しては、ガイドライン上は何も推奨されていません。ただ、慣習的には海外でも日本でもリドカイン(キシロカイン®)、副腎皮質ホルモン製剤(ケナコルト®など)を10㏄くらい入れていることが多いそうです。そして、藤井先生や中山先生は後方法を使うことが多いとのことでした。

1時間のレクチャーの後、約30分程度、2人1組でお互いの肩で穿刺の練習を行いました。参加者は最初こそ、講師である藤井先生や中山先生を呼んで刺す位置などを細かく確認しながら行っていましたが、2回3回と練習を重ねるとすぐにコツをつかんで穿刺を行っていました。

関節穿刺に慣れていない医師の「どの位置に刺すのが正しいのか」「変なところに刺してしまったらどうしよう?」といった漠然とした不安を体表解剖学を通して解消し、整形外科医がポイントにしていることを踏まえて練習を繰り返すことで、たった2時間で参加者が自信を持ってできるようになっていました。

次回のテーマは「腰」です。「肩」同様に体表解剖学の観点から腰を理解し、整形外科医が日頃行っている診察手技、ブロック注射法を学べます。

 

日程:4月10日(日) 14時30分~16時30分 14:15から受付予定

場所:四谷三丁目レンタルスペースサロンド萩

    東京都新宿区大京町2-4 サウンドビル3F

対象:研修医、医学生、医師、医療関係者なら誰でもOK   

http://peatix.com/event/157358

※画像資料:プロメテウス解剖学アトラス医学書院より引用

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医師プロフィール

渋谷 純輝 

2011年富山大学医学部卒業。2013年東京北社会保険病院(現・東京北医療センター)で初期研修を修了し、現在は東京で家庭医療の後期研修中。2015年10月「メディカルマッチョメンズ」を立ち上げた。明日の臨床に役立つワークショップを開催するほかに、医療界隈の人たちを繋ぐ“ハブ”を目指してさまざまなイベントを企んでいる。

渋谷 純輝
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