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肺移植後の慢性拒絶をなくす

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自らの研究のために、クラウドファンディングを用いて研究費を集めている医師がいます。もともと大阪大学で助教を務められていた中桐伴行先生。中桐先生は、ドイツのハノーファーで、肺移植の慢性拒絶を解明するための実験に用いるマウスを、安定的に作り出すための研究を進めようとしています。なぜその研究が必要なのか?課題をお話しくださいました。

◆肺移植、5年生存率は50%程度

肺移植は、日本でも行われています。しかし症例数が少なく、日本では年間約40件ほどですので、一般の方からは「肺移植って出来るんですか」という声をよく聞くのが現状です。また、肺に疾患を抱えた方の最後の砦とも言える肺移植ですが、世界的に見ても移植後の5年生存率は50%程度です。他の臓器に比べて拒絶の可能性が高いのです。

参照:Adult Lung Transplantation Statistics
https://www.ishlt.org/registries/slides.asp?slides=heartLungRegistry 

生存率を下げている原因は、「慢性拒絶」と言われるものです。肺移植後の慢性拒絶は、主に病理学的には「閉塞性細気管支炎」と言われています。肺は、外界と接している臓器(鼻から空気が入ってくる)なので、臓器自体の免疫機能が発達しています。そのため、移植をすると拒絶が起きやすいのです。例えば心臓移植と比較すると、1.5~2倍の免疫抑制剤が必要になります。

こう書くと、5年生存率を押し下げている慢性拒絶は、免疫機構によるものと考えてしまいますが―私たちもそう考えて研究しているのですが―、実際には、慢性拒絶が起きる機構が分かっていません。

肺移植後、長期的に機能不全になる人たちの肺を調べてみたら、たしかに閉塞性細気管支炎が起こっていました。そして実際、閉塞性細気管支炎になった人は、移植臓器が機能不全を起こしているという事実があり、「閉塞性細気管支炎」という病理像を持った状態を「慢性拒絶」と名付けたのが現状です。

現在では、肺移植後機能不全になる理由として「拘束型慢性移植肺障害」というタイプもあることが分かってきています。東大の佐藤雅昭先生が京大におられたころ、トロントの留学中に発見されています。しかし現在のところ、機能不全は理由が分かっていません。あるのは臨床像と病理像だけです。

なぜ、慢性拒絶の原因は分かっていないのか?

臨床研究では、その現象や治療効果などを確認することはできるのですが、原因追求のためには動物実験が必要です。ところが、原因追求するためのモデルを、安定的に作ることができていないのです。

現在まで、肺移植後の慢性拒絶は「マウス気管異所性移植」というモデルが用いられていました。人の細気管支の大きさに近いマウスの気管を、皮下や腹腔内に移植し、1カ月ほどして取り出すと閉塞している像がみられるというものです。しかしこれでは移植したマウスの気管支には、空気も通っていませんし、血液も周りから供給されているだけで血管を通ってきているわけではありません。空気を通すという意味で肺の中に移植する方法もありますが、血液は変わらず通っていません。つまり、実際の肺でないことに変わりないので、慢性拒絶モデルとしては不十分なのです。

◆日本の臨床研究の限界

ところが最近、マウス同所性肺移植モデルが開発されたことで、それを応用した慢性拒絶モデルが発表されています。しかし残念ながら、慢性拒絶を起こすマウスが実験中40%しか認められませんでした。

実際に私もやってみたところ、ほとんど急性拒絶が起こって慢性拒絶は得られませんでした。これは、同じ系統の中でも全く表現型が同じであるというわけではないので、なかなか同じ条件に合わせることが難しいことが要因です。

これでは慢性拒絶のモデルとして一般的に使えるとは言えないので、私は、慢性拒絶モデルを作る研究を突き詰めていきたいと考えました。

大阪大学の助教をさせてもらっていた当時、そこでマウス肺移植の研究を続けようと思っていました。しかし、診療、手術、生徒の教育や病院運営に関わる仕事と、日々の業務が忙しくなかなか研究に手が回りませんでした。そんな中でも研究を続けている先生がおられるので、私も頑張ってマウスの肺を取り出し移植できるように処理を続けていましたが、その処理をしようとすると、4時間程かかって他の業務が滞る、逆に4時間も時間を取れる時はそうそうないため、全く技術が上がらないという状態でした。

そして先ほども書きましたが、日本で臨床の肺移植は、日本全体で年間40例程です。つまり、まだまだ稀な手術で大仕事です。しかもガンや感染症の研究は基礎医学教室でも行われていますが、移植の研究は臨床の教室でしかされていません。それは「移植という治療の結果起こってくること」を研究している分野だからです。

まとまった時間をとり研究に没頭するために

ところが、大学院生時代に留学していたドイツ・ハノーファーでは、当時でも一施設で年間100例以上の肺移植が行われていました。手術自体も3~4時間程で終わってしまうし、患者さんも3週間で退院。ごく一般的な手術として、当たり前のように行われていました。これには驚きました。そして、これを目標にするべきだと思いました。

そう思い8年間、ハノーファーでもう一度雇ってほしいとアプライを続け、昨年の7月、ようやくOKが出ました。その時には大学の助教ではなく、ガンを専門にした大阪成人病センターに移動していました。移動後間もなかったので、かなり迷ったのですが、上司の先生に「そんなチャンスがあるなら行ってこい!」と背中を押していただき、ハノーファーに来ることになりました。

日本で臨床をしながら研究を進めるのは、私でなくても無理だと思います。ある程度経験を積んだ外科医のつもりでしたが、こちらに来てマウスの肺移植を毎日練習し、半年ほどかかってやっと安定して出来るようになった状態です。研究には、技術の習得のためというだけでも、一定期間研究没頭時間が必要だと考えています。

肺移植後の慢性拒絶反応をなくしたい!:https://academist-cf.com/projects/?id=26

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医師プロフィール

中桐 伴行 呼吸器外科

Hannover医科大学胸部心臓血管移植外科研究員
大阪大学呼吸器外科招聘教員
大阪府立成人病センター病院特別研究員
1998年近畿大学医学部卒業。大阪大学旧第一外科・小児外科にて研修を行い、大阪府立母子医療センター、宝塚市立病院、呉医療センターなどで勤務。2005年~2014年まで大阪大学呼吸器外科で勤務。2006年から約1年間、Hannover医科大学に留学し、肺移植に触れる。以後、研究は肺移植を中心に従事。2014年、大阪府立成人病センター呼吸器外科副部長。2015年7月より現職。

中桐 伴行
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