病床稼働率を上げるためのベッドコントロール術
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◆病床稼働率が上がらない理由
精神病床における稼働率の全国平均は87.3%(平成26年厚生労働省病床の種類別にみた病床利用率)です。稼働率は年々下がってきていて(平成23年89.1%、平成24年88.7%、平成25年88.1%)、経営の観点からみるとあまり好ましい状態ではない病院が増えてきているということになります。
稼働率が上がらない原因として、ベッドコントロールがうまくいっていないことがあげられます。その理由の一つには、病棟間の連携がうまくいっていない実態があります。また、ベッドコントロールを誰の責任のもとに行うかという、責任の所在も明らかでない病院が多いのではないでしょうか。責任者がいない中では、病棟間での患者の譲り合いが起き「入院患者を受け入れられたら良かったけど(・・・受け入れられなかったのは仕方がないよね)」と、結局患者を入院させられずに終わってしまうのです。
◆ベッドコントロールがうまくいっていなかった山容病院
当院の場合も新築移転前は、病棟間の連携、さらには外来との連携が取れていませんでした。移転前の昨年9月までの病棟構成は、男子閉鎖病棟、女子閉鎖病棟、男女混合開放病棟(2棟)、身体合併症病棟の計5棟でした。身体合併症病棟は、ほぼ寝たきりの長期入院患者で占められていて、開放病棟は症状が落ち着いている人しか受け入れられませんでしたので、積極的治療のための入院は、閉鎖病棟2棟で対応していました。
ところが、実にさまざまな理由から、病棟側が入院患者の受け入れを断っていました。例えば当時は畳の病室がありましたから「畳部屋しか空いていないが、もし今夜暴れたら畳の部屋では身体拘束ができないので受けられません」と断ることがありました。外来では入院を視野に入れて時間をかけて診察していたのに、仕方なく紹介状を書いて受け入れ先を探すということがしばしばあったのです。
また、入院患者を取るために閉鎖病棟に入院中の患者で症状が落ち着いている方を、開放病棟に移そうとしても「もし今夜暴れたら対応できないので、移せません」と断られることもありました。ハード面の構造的な問題として病棟が開放処遇と性別で分けられており、またソフト面では長年異動が乏しかったこともあって病棟間や外来との連携が悪く、思うように入院患者を受け入れられませんでした。
◆病床稼働率90%超へ
新築移転後、病棟の構成は全て男女混合で急性期・亜急性期・身体合併症・認知症の4棟にしました。そして看護部長を責任者として、各病棟師長4名、外来師長1名、外来担当の精神保健福祉士1名の計7名で毎朝、入退院調整のミーティングを行ってもらうようにしました。多くの病院で課題となっている責任の所在は、看護部長が担っています。そして、電子カルテの導入により各病棟のベッド状況がリアルタイムで把握できているので、朝のミーティングで効率的な患者移動の話し合いができています。
ベッドコントロールの基本的な考え方は「急性期を空ける」です。急性期病棟には、その日に予約がなくても来るものと思って動いています。場合によっては「入院が来たらこの人を動かそう」ということもありますが、入院が来ることを想定して、先に動かして構えていることが多いです。
その結果、ストレスケアユニット(差額ベッド)の6病床がなかなか埋まらない点が課題ではありますが、稼働率は92~94%で推移しています。
◆各病棟の明確な機能分化
責任の所在を明確にすることと、ミーティングにより急性期病床を空けておく状況を作り出せている他にもう一つ、高い稼働率を維持できている要因があります。
それは、病棟の明確な機能分化です。建築設計図の段階で、各病棟にはどのような患者さんを入れるか、どのような状態になったら病棟を移すかなど、細かく何度もシミュレーションをして、各病棟の機能を明確に決めました。こうしたことで患者の状態によっておのずと入院病棟が決まり、病棟間の譲り合いも完全に回避できました。以前は「閉鎖病棟が大変で開放病棟は楽」という感情が職員の中にあったと思いますが、今は機能を分けたために各病棟それぞれに大変さがあり、そのような労働の不公平感もなくなってきていると思います。
このようにベッドコントロールをしていく中で、各病棟の機能を明確にして日々進化していき、職員のやりがいの形も少しずつ変わっていく。これがベッドコントロールの神髄だと思っています。
医師プロフィール
小林 和人 精神科
医療法人山容会理事長
東京大学医学部卒業。同大学付属病院にて研修後、福島県郡山市の針生ヶ丘病院に就職。平成20年に山容病院に就職。平成23年同病院院長に就任、平成26年より現職