ジャパンヘルスケアを起業した医師7年目の岡部大地先生。現在は美脚づくりをITサービスでサポートしようとしています。その背景にはどのような思いがあるのでしょうか?
◆ITサービスで美脚づくり
―どのようなことを目指して、ジャパンヘルスケアを運営しているのですか?
「痛まない」体づくりのサポートをすることで、誰もが体の痛みに悩むことなく豊かな暮らしができる社会にしていきたいと考えています。
そのために現在は「ビューティ・ヘルスケア」をコンセプトに、ITを活用して歩き方の改善、つまり、きれいな歩き方を身につけられるサービスづくりをしています。
人の行動は大きく3つに分類することができます。姿勢、歩行、そして運動です。この3要素の動きをきれいに行うことができれば、足の痛みや膝の痛みをはじめとして、さまざまな体の痛みを解消することができ、「痛まない」体をつくることができます。
さまざまな試行錯誤を経て、2018年4月に、まずは美脚づくりのための専門サイト「Mikara美脚」をリリースしました。
―医師が美脚づくりとは、面白いところに目をつけましたね。
健康のために歩き方を改善しようとしても、現実的にはなかなかうまくいきません。その要因は2つあります。1つは、自分の歩き方が見えず、自分がどのような歩き方をしているか分からないために、改善のしようがないこと。もう1つの要因は、予防医学の浸透が難しい理由としても挙げられますが、将来のために今からきれいに歩くことが大事なんだと言っても、現状困っていないために、面倒くさくてなかなか継続できないことです。
これらの阻害要因を克服するために、ITを使って自分の歩き方を可視化し、健康のためではなく、今「きれい」を手に入れる、つまり「美脚」のために歩き方を改善しようというコンセプトのサービスを展開することにしました。
―なぜ起業という形で挑戦しているのですか?
本来は「整形内科」という診療科が存在し、その専門医がカバーするべき領域だと思っています。ところが整形外科のカウンターパートはありません。
しかし整形でも内科的アプローチをして、外科的処置が必要になる前段階で、痛みの予防ができるはずです。そのようなアプローチは現在、理学療法士が主に行っていますが、医師に比べると理学療法士ではできることが限られてしまいます。だからこそ「こういうストレッチをしていくことが大事です」「このような症状にはインソールを入れておこう」「これは外科的アプローチが必要です」と、内科的なアプローチのできる医師がいたほうがいいと思うのです。
しかしながら1つの診療科をつくることは非常に難易度が高いです。そのため自分のできるところから始めようと思い、ITを活用したサービスづくりから始めることにしました。
◆痛みを放置する社会はおかしいと思った
―なぜ、「痛まない」体づくりをサポートしたいと思うようになったのですか?
そもそも、人が豊かな暮らしをし続けられるようにするために予防医学に取り組みたい、と医学生時代に考えました。そのように思ったのは大学の実習で、本当に多くの人工透析患者を目の当たりにしたからです。
糖尿病など生活習慣病に罹患したら、治療に時間やお金もかかりますし、行動が制限される場合もあります。それでは、自分の好きなことを楽しみながら豊かに暮らすことができません。そのことに大きな違和感を持ち、医師になるからには、人が豊かに暮らせるように予防医学に取り組もうと決意したのです。
2015年11月にジャパンヘルスケアという団体を立ち上げ、生活習慣病を予防するため、食事や運動、睡眠などさまざまな切り口から生活習慣を見直すきっかけづくりを広めていこうとしていました。当初から、痛まない体づくりや歩き方に着目していたわけではなかったんです。
しかし糖尿病予防や生活習慣改善のため活動は、すでに多くの人が取り組んでいるし、情報もたくさん出ている――。そこでもう一度、自分独自のアプローチ方法を考え直したのです。その結果たどり着いたのが、歩き方の改善でした。
振り返ってみると、私自身O脚や扁平足があり、歩き方も汚くてずっと立っていると足が痛くなることがありました。今は改善しつつありますが、30歳ではすでに骨組みは固まってしまいます。そのため根本的に治療することは困難なのです。その事実自体以上に、そのことを誰も教えてくれなかったことがショックでした。
その事実を知らなかったら、私も50歳くらいから足の痛みと付き合わなければ行けなかったと思いますし、現に痛みを抱えながら生活している高齢者はたくさんいます。高齢者の2人に1人は痛みを抱えているというデータがあります。
歳のせいと痛みを放置する前にもっとできることがあるはずなのに、痛みにアプローチしている人があまりにも少ない。それならば、人が豊かに暮らせる社会にするために、痛まない体づくりのサポートに人生をかける価値があるのではないかと思い、今の活動につながっていきました。
―最初は一般社団法人からスタートしましたが、企業に変更した理由はなんだったのですか?
痛まない体づくりのために歩き方に着目し、美脚をコンセプトにサービスを作っていこうとしたときに、スピード感を持ってサービスづくりができるのは企業だと考えました。例えば、スタートアップ企業としてベンチャーキャピタルから資金調達して、ある程度まとまった金額を投資しながらサービスをつくることができます。
私は大きな儲けを求めてサービスづくりをしているわけではないですが、ビジネスにすれば持続可能になり、普及させる力を持ちます。スピーディかつダイナミックな活動ができたほうが、自分の描く社会を早く実現できると考えて会社にしました。
―医師4年目に安定的な医師のキャリアを捨て、大きな挑戦を始めた岡部先生。その選択をする際に悩むことや、苦労はありませんでしたか?
あまり悩みはなかったです。大学の先輩や同期の影響が大きいですね。学生時代、何度も何度も自分の考えや将来実現したいことをお互いに語り合い意見しあっていました。その中で、既存の医師という職業で当たり前とされていることに固執する必要はないという考えが醸成されました。そのような考えが根底にあるので、一般的な医師とは違うキャリアでも、迷いなく進むことができていると思います。これからも試行錯誤の連続だと思いますが、果敢に挑戦していきたいと思います。
(インタビュー・文/北森 悦)