医師5年目の吉永和貴先生は、医学生時代に自らプログラミングを始めたことをきっかけに、株式会社Flixyを立ち上げました。サービスを開発し軌道に乗せるまでには、何度も失敗と資金繰りに悩まされました。そんな中でも事業を通して実現したいこととは――?
◆医療用語に変換して、全ての電子カルテに連携するWEB問診
―株式会社Flixy創業までの経緯を押してください。
私は医学生時代にプログラミングにはまり、学生のビジネスコンテストで、お薬管理IoTサービスをハードウェアで開発しました。しかし、原体験からではなく、コンテストで優勝することを念頭に置いて開発したサービスだったので、本気度が足りませんでした。しかしコンテストで優勝した時に、審査員や周りの人からチヤホヤされ、このままうまくいくのではないかと思ってしまい、初期研修で忙しくなってからもダラダラと続けて中途半端な状態が続いていました。この状況を打開するためには、誰かがフルコミットしなければならない――当時はそう考えて、私が医師3年目の2016年9月にこちらを本業にするべく、法人化しました。
しかし今言ったように、時間をどれだけ割くかが問題ではなく、そもそもの熱量が足りませんでした。自分でも薄々気づいてはいたのですが、すでに3年も続けてしまい、メンバーも増えて、サンクコストが積み上がっていたため、辞める決心もできずにいました。
そんな折に、投資家へのプレゼンをしたところ、初期コストがかかる上にビジネスモデルが厳しいと、8名全員からダメ出しされました。これがきっかけでようやく踏ん切りがつき、2016年12月、法人化から3カ月でサービスを打ち切りました。副業で関わっていたメンバーが10名程いましたが、私と現CTO以外のメンバーは解散し、新たに眼科医が一人入り3人で仕切り直すことにしました。それからWEB問診サービスに取り組んでいます。
―サービスの構想はどのように練っていったのですか?
当時、私は開業したばかりの夜間クリニックで非常勤医として働いていました。そこでは、患者さんが記入した紙問診は、まず事務スタッフがスキャンし、PDFデータとして電子カルテの該当フォルダに取り込みます。医師はそのPDFを見ながら電子カルテに打ち込む作業をしていました。さらに記入済みの問診票は、診察が終わるとシュレッダーにかけます。開業間もない時期で人手不足だったので、医師もシュレッダーで破棄することがしばしばありました。これらの作業を効率化したいと思ったのがきっかけです。
―2017年にもなると、電子化した問診票を提供している企業は多数あったのではないですか?
確かにその通りで、タブレット問診サービスを提供している企業は、すでに10社程度ありました。しかし、私は既存サービスに2つの課題があると考えていました。1つ目は、取得する問診内容が浅いということ。タブレット問診の多くは、患者さんの基本情報と主訴と症状経過のみを聞いていました。ただ、症状別に医師が聞く質問は大体決まっているので、そこまでWEB問診でサポートすることが付加価値になるのではと考えました。
2つ目は、電子カルテへの連携です。タブレット問診は、連携していない電子カルテが多く、その場合、タブレットの管理画面で問診内容を見て、電子カルテに転記しなければなりません。それでは紙問診がタブレットに変わっただけで、スタッフや医師の労力は変わりません。ですので、いかに連携できる電子カルテを増やすのかも重要だと考えていました。
◆サービスの失敗と資金繰りに追い詰められる
-WEB問診サービスをどのように軌道に乗せていったのでしょうか?
実はサービス開始してから1年程度は、かなり紆余曲折していました。原因は2つあったと考えています。1つは、問診サービスに予約システムを付けたこと、そしてもう1つがLINEを利用したことです。
予約システムは、当時調べたら導入クリニックが全体の2割程度。「なぜ、便利なはずなのに導入しないのか?」と思い、深く考えずに付けました。ところが、フリーアクセスのクリニックに予約システムを導入すると、予約して来院した患者さんと飛び込みの患者さんがバッティングしてクレームになり、結局予約システムを止めたというクリニックが多かったのです。導入されていない理由を探らずに安易に付けたのが、失敗の要因でした。
そして当時は、チャットボットがこれからの流れだというニュースや本が多く、魅せられてしまい、LINEチャットボットに乗っかるサービスとして何ができるか、技術ドリブンで考えていました。そして、LINEで予約と問診ができれば、これは便利に違いないと思い込んでいました。
ところが、ちょうどLINEからの情報漏えいが話題になり、セキュリティを心配する声が多くありました。2017年3月に東京都医師会でプレゼンさせていただきましたが、医師会はLINEやSkypeなど商用SNSの利用を非推奨で、LINEを使ったことでむしろマイナス評価でした。また、LINEはプライベートで使うものという認識が強いことや、開業医の年齢的に、子ども世代が使っているから仕方なく使っていることが多く、サービスのイメージがつかないことなども導入のハードルとなりました。
―そこでWEB問診に切り替えた。
いえ、私を含めて開発中心のメンバーのため、新しい技術を前にすると開発にワクワクして周りが見えなくなりがちで、売上がほぼ0のまま、2017年7月までは、LINEの予約・問診システムの開発を続けていました。「誰に何の価値を提供しているのか」を深く考えられていなかったと思います。
少しさかのぼりますが、4月には開発スピードを上げるために、これまで副業で関わってくれていた現CTOにフルコミットしてもらうことにしました。毎月、給料を支払うことになり、300万円の資本金で始めたのですが、あっという間に底をつき、2回程、翌月でキャッシュが尽きる状態に陥り夜眠れないこともありました。知人に「株主間契約は後で結ぶので、明日までに200万振り込んでくれ」と頼み込んだり、融資を取り付けたりして何とかしのいでいましたね。
8月にようやく予約サービスとつけないことを決め、さらにLINEからWEB問診へと切り替えました。WEB問診のみに絞り、全ての電子カルテに問診をワンクリックで取り込める機能を追加したのが2017年11月。今のサービスの原型になっています。そして2018年3月、ようやく光が見えてきました。
◆WEB問診と症状チェックのシームレス化
―光が見えたきっかけは?
耳鼻科の開業医から問い合わせがあってプレゼンに行ったら、その場で20万円クレジット決済してくれたことです。その先生が「これは絶対に売れる」と力強く後押ししてくれて――ようやくニーズに刺さるサービスが作れた、あとはしっかり売っていけばいい、と思えた瞬間でした。
―営業活動はどのように進めていたのですか?
最初は、飛び込み営業やポスティング、FAX、営業会社にお願いしてテレアポなどをやっていましたが、全然うまくいきませんでした。手応えがつかめたのは、サービスが固まり、サイトのSEO対策をして、サイトからお問い合わせが増えるようになってからです。
ベンチャーで営業にかけられるリソースも少ないので、いかに営業コストを抑えられるかを考え、インバウンドですでに興味ある先生にのみ、ビデオ通話で遠隔でデモをする方針に切り替えました。ビデオ通話でサービス内容が伝わるか、通信環境は大丈夫かなど不安がありましたが、これがうまくいきました。
現在、北は宮城県、南は沖縄県まで約70施設に導入してもらえるまでになりました。最近は販売代理店も増えてきて、紹介経由で成約に至ることも増えてきましたね。
―WEB問診や症状チェックのサービスを通じて、どのようなことを実現していきたいと考えているのですか?
「最適なタイミングで医療を届ける」ことができたらと思います。患者さん向けには、チャット形式の問診で、具合が悪くなったときに、どの診療科にどのタイミングで行ったらいいのかを手軽にわかる症状チェックサービスをリリースしています。今は、医療機関向けのWEB問診と症状チェックは分断された個々のサービスになっていますが、ここをシームレスに繋げられたらと思います。症状チェックでの回答内容をWEB問診としても使えて、受診したクリニックの電子カルテにもワンクリックで反映されるようにつなげていきたいですね。