医師5年目の伊藤涼先生は、航空機内医療にまつわるさまざまな課題に着目。これらの課題を解決するため、業界の垣根を超えて活動を始めました。また、興味を持ったブロックチェーン開発会社の医療アドバイザーを務めたり、コーヒー好きが高じてコーヒーの健康への効果を研究したり、多様な分野と医療を掛け合わせた取り組みをしています。今回は、航空機内医療の課題を中心に、多様な活動内容を伺いました。
◆航空機内「お医者様はいませんか?」の課題
―現在、注力している活動はどのようなことですか?
航空機内での医療の課題解決に取り組んでいます。これは必ず形にしたいライフワークです。
航空機内で患者さんが発生したときの「お客様の中にお医者様はいませんか?」というアナウンス。これにまつわることにはさまざまな問題点があります。例えば、特殊環境で治療をしなければならない、患者さんの病歴等背景が分からない、専門外である、万が一ミスをした場合に責任はどのようになるのか、「善きサマリア人の法」とは、航空会社は賠償金の負担をしてくれるのか、など――。
航空機内医療に関して1つ1つ課題を抽出したり、専門家を交えて議論を進めたりしています。
―航空機内医療に関する取り組みは、いつから始めていたのですか?
医学生の頃から研究を進めてきていました。本格的に外に向けて積極的に発信し、実際の行動に移せるようになったのは、半年程前からです。きっかけは2018年秋にアンタ―(株)の協力で航空機内医療についてのセミナーを開いたこと。想像以上に航空会社関連の方が参加してくれ、それがきっかけで急速に動き始めました。現在、複数の医師や法律家の方、パイロットの方とディスカッションを重ねています。
航空機のパイロットや客室乗務員の方は、定期的に搭乗者の急変を想定した訓練を積んでいます。しかし、訓練の際に医療者はいないと伺っています。より現実味を帯びた訓練にするために医療者が入るべきです。また、訓練に医療者が入ることで、問題の本質を追求し、1つ1つの課題を解決できます。そのために現在は、セミナーをきっかけに知り合ったパイロットの方やその他スタッフの方と一緒に、課題を洗い出し、解決に必要な現場職員や弁護士などのプレイヤーを探しています。
目標は2020年の東京オリンピックまでに何らかの形でプロジェクトを立ち上げたいと考えています。先日、病気でも旅行にいけるサポート体制を作ろうとしている同世代の医師と知り合いました。彼と協力しながら、例えば病気が原因で旅行を諦めていた高齢者と医師がペアになって国内線でフライトテストなどを始めていけたらと考えています。
「人生最期の「旅行」を叶える医師になりたい」―伊藤玲哉
―そこに取り組む理由は?
これまで助けに行きたいと思っても、「法律的に責任を問われるかもしれない……」「専門外だから……」「航空機内という特殊な環境で正確に治療ができるだろうか……」とためらっていた医師が、躊躇なく助けに行けるようになります。
また、もちろん急変した患者さんが助かる可能性も上がりますが、病気が心配で飛行機に乗れなかった方が乗れるようにもなります。航空会社としても安心できますし、みんなにとって幸せなことなので、やらない理由がありません。おそらく、これまで誰も追求してこなかったために何も進んでいなかったので、取り組む価値を大いに感じています。
航空機内医療参考資料はこちら
◆興味関心と医療を掛け合わせて
―他にも、「ブロックチェーン×医療」についても活動をしていると伺っています。
現在は、「ブロックチェーン×医療」に関する2つの企業で、医療アドバイザーとして協力しています。
「ブロックチェーン×医療」に興味を持ったきっかけは、3~4年前に友人から「ビットコインを買ったほうがいいぜ」と言われたことが発端でした。最初は新手の詐欺かと思ったのですが(笑)、調べていくと技術的に面白そうだと思い買ってみました。するとさらに興味が湧いてきて勉強していくと、ブロックチェーンという技術はこれからの時代の技術だということに共感を覚えたんです。当時「ブロックチェーン×不動産管理」「ブロックチェーン×文書管理」などが言われ始めていた時期で、自分のフィールド、医療と掛け合わせることができないのだろうかと考えるようになったのです。
―具体的には、医療アドバイザーとしてどのような活動をしているのですか?
企業ごとに全く違います。1社はMEDIBLOCというブロックチェーンを活用してパーソナルヘルスレコード(PHR)を管理するサービスを開発している会社です。私は医療現場で求められていることを伝えさせてもらったり、エンジニアと医療者のディスカッションの場を設けたりしています。
もう1社は、リアルワールドゲームス株式会社といって、Pokemon Goのように現実世界を歩きながらGPS機能を使ってプレイする位置情報ゲームを開発している会社です。私がこのゲームに着目したのは、健康増進に役立つ「歩く」という行為が、最終的に現実世界のお金という一種のインセンティブの獲得につながるという点からです。歩いた先で新しいキャラクターやアイテムが獲得できる以外に、ゲーム内コインがもらえます。そのコインでアイテムを得られるだけではなく、ブロックチェーン(スマートコントラクト)を活用し、他のコインへ交換でき、将来的にそのコインが日本円に交換され、リアルワールドで使えるようになるかもしれないのです。
私はもう一歩踏み込んで、歩くとどれだけの効果があるのか、ただ歩き回るだけではなく効果的な歩き方をすると、どれくらい健康に寄与するのかを、ゲーム開発のプロジェクトメンバーに話し、そのような医学的視点からアドバイスをさせてもらっています。
―その他にも、取り組んでいることはあるのですか?
実は自分が、つい飲み過ぎてしまうくらいコーヒーが大好きで、最近はコーヒーが健康に良いのか悪いのかを掘り下げて研究を進めています。カフェインやポリフェノールなどさまざまな成分がコーヒーには入っていますが、まだ分かっていない部分もあります。
ちょうど高校時代の大親友が、「STANDART」というとてもおしゃれなコーヒーマガジンを編集しているので、コーヒーと健康に関して発信させてもらえたら良いなと思っています。
「STANDART」https://www.standartmag.jp/
臨床に携わるだけでなく、自分が興味関心を持った分野と医療をかけ合わせて活動していくことは、もちろん自分が楽しいのもありますが、それだけでなく、いろいろな人に新しい視点を提供できるので、そこそこ価値のあることだと思っています。一緒に活動してみたいと思ってくれる仲間を集めながら、今後も続けていきたいですね。
(インタビュー・文/北森 悦)