医師14年目の岡田悟先生は現在、東京北医療センター総合診療科で指導医として、組織づくりなどを通じて後輩の育成に尽力しています。自身の成長を第一に考えていたこれまでと違い、後輩がいきいきと業務に打ち込み、成長できるように、独学で身に付けた組織改革やブランディングを活かし、支援しています。その中で大切にしていること、自身の仕事観、そして今後の展望などについて伺いました。
◆トップダウンからボトムアップの組織に変革
-現在の活動について教えてください。
2012年より東京北医療センター総合診療科の指導医として、初期・後期研修医の育成などに取り組んでいます。2019年からは組織改革・ブランディングも担当するようになりました。当科が掲げている『仲間と創る、生き活きとした総診』という理念は、専攻医も巻き込み、総合診療科の医師全員で話し合って決めました。
また院外の活動では、一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会のEBMプロジェクトチームのコアメンバーとしてEBMの普及にも携わっています。
-組織改革やブランディングを行うのは大変だと思いますが、不安はなかったのでしょうか。
あまりなかったですね。プレゼンテーションが好きで、聞いている方々に多くの学びを得てもらえるように他分野の話題を盛り込むなどの工夫をしてきました。その過程で、組織改革やブランディングのビジネス本も漁るように読んで、知識として吸収していたんです。まさかこの知識を使う日がくるとは思わなかったですけど。
そもそも、組織改革やブランディングが必要になったのは、EBMの先駆者であり、当院の総合診療科をけん引してきた南郷先生が退職されたのが契機でした。南郷先生が主導していた勉強会や研修生の募集などを、これからは自分たちがやらなければいけませんでした。そのために自分たちが何を目指し、何に注力していくのか。そして働き方をどうするのかといったことを、ゼロベースで考えることから始めました。
専攻医を「院内改革チーム」と「対外発信チーム」に分け、必要となる知識は周囲の協力者を巻き込んで教えていきました。ある程度の方向性は私が示しましたが、実際にホームページを作ったり、勉強会を実施したりしたのは、専攻医のみんなです。
-「ロールキャベツ系ワクワク総診」というユニークなホームページも、専攻医のみなさんで考え、作られたのでしょうか?
そうです。実は、総合診療科の「ホームページを作りたい」と院長に直談判したところ、マーケティングやブランディングのプロフェッショナルな方々を紹介してもらったんです。その人たちから広告手法を直接学べる機会を設けたりしました。
また、このブランディングは副次的効果として、専攻医のモチベーションアップにもなっています。先にも触れましたが、今期から、さまざまな取り組みが専攻医によるボトムアップ型に変わったことで、これまで受け身だった専攻医たちが、同科の強みや良さを真剣に考えるようになり、組織運営にコミットするようになってきたからです。
それによって2020年度は、前年度に比べて3倍となる6名の専攻医の採用が決まり、市中病院の中でも1位タイの実績を収めることができ、新たな取り組みが好循環で回り始めています。
◆ワークライフバランスを重視した総合診療医
ー当初は、皮膚科医を目指していたそうですね。
そうです。宮崎大学卒業後、初期研修は東京医科歯科大学で受け、当時は皮膚科医を目指していました。もともとは仕事一筋で取り組もうと思っていましたが、初期研修でさまざまな診療科を経験するうちに、子どもや家族との時間を大切にしながら、患者さんにもしっかり向き合っている皮膚科の先生のワークスタイルに惹かれていきました。
後期研修も皮膚科医としてそのまま続けるつもりでいましたが、憧れの先輩医師が、皮膚科の教授から治療方針をめぐってエビデンスという視点で論破された出来事を通じて、EBMの重要性を実感。それを機にEBMと全身管理について基礎から学ぼうと思い、後期研修は東京北医療センターの総合診療専門研修プログラムに入りました。
このプログラムでは病棟管理以外に、1年のうち3カ月間は、へき地の診療所や地方の病院での研修もありました。当初は地域医療の重要性を認識していなかったですし、むしろ苦手意識を持っていたのです。ところが、取り組んでみると、自分のアイデアが実現できたり、直接感謝の言葉をいただけたりするので、自信が湧いてきて、地域医療に面白味を感じられるようになってきたのです。
そして、総合診療科の知識を身に付け、ある程度できるようになってくると、皮膚科に戻っても、学んだことを活かすのは難しそうだと思うようになりました。一方で、皮膚科も診察できる総合診療医の方が活躍の道がありそうだというのが見えてきたので、東京北医療センターに残ることに決めました。
ーキャリアを考える上で悩んだことはありますか?
やはり総合診療医になると決めた時点で、ワークライフバランスのことでは悩みましたね。仕事も家庭も大事にしながら働くイメージを持っていましたから、それが実現できなくなるかもしれないと――。でもたとえ総合診療科に進んだとしても、理想の働き方を自分で実現するしかないと思い、総合診療科に残ろうと決めた時には、妻に「皮膚科で感じたような家族との時間は大切にしたいし、そうなれるように頑張りたいと思う」と言う話はしましたね。
結局、皮膚科で理想的だと感じた働き方を総合診療科でもめざしていますし、後輩たちにもそれが実現できるようにサポートしています。
◆専攻医が楽しんで学べる環境づくりを実現
-今後の展望を教えてください。
東京北医療センター総合診療科に在籍する専攻医を輝かせることが今のライフワークになっています。今までは、あくまで医師としての自己成長がやりがいになっていましたが、専攻医と一緒に組織を創り上げていくようになって、後輩の成長がこんなに嬉しいとは夢にも思いませんでした。
次は学びを楽しめる環境をどう広げていくかが目標です。企業や公的機関と提携して地域に還元したり、教育機関とコラボして臨床研究をしたりして、専攻医の活躍の場をもっと広げていきたいと思っています。
目の前の研修医たちが成長できずに苦しんでいたり、やりがいを見出せなかったりする状況には、手を差し伸べて、羽ばたける環境を作っていきたいと考えています。それが患者さんのためにもなるはずですから。
-総合診療を考えている後輩たちにメッセージをお願いします。
年齢を重ねても、まだまだ分からないことや知らないことはたくさんあります。分からないがあることは、決して恥ずかしいことではありません。むしろ、新しい学びを得られることに喜びを感じることが大切です。それを実践しながら、周りに伝えていくことで、みんなが毎日ワクワクしながら取り組めるようになっていきます。ぜひ新しいことに積極的にチャレンジして、自身の成長を楽しんでみてください。
(インタビュー/coFFee doctors編集部・文/西谷忠和)※掲載日:2020年8月25日