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医療×クリエイティブが当たり前の世界にしたい

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総合診療科医として現場に出ながら、病院マーケティングサミットJAPANチーフエヴァンジェリスト、日本チーフレジデント協会代表、日本病院総合診療医学会 良質な診断ワーキンググループ(WG)に所属。さらにMediative株式会社の代表取締役/CEO、歌手と多様な顔を持つ畑拓磨先生。それぞれにつながりのないようにみえる業界ですが、畑先生はあるミッションを胸に全ての活動をされています。どのような思いから取り組みを進めているのか、お話を伺いました。

◆「生きる原動力を届けたい」をコアにしたスパイラルキャリア

―現在の取り組みについて教えてください。

私は総合診療医として茨城県の白十字総合病院で勤務しながら、良質な診断WGのメンバーとして診断エラーや医療安全の啓発活動を、また日本チーフレジデント協会の代表として医学教育に取り組んでいます。

2023年9月にはMediative株式会社を設立し、医療とクリエイティブを組み合わせることで、医療業界や社会に新しい価値を生み出そうとさまざまな事業を行っています。また歌手としても活動し、2022年12月に1st single「最高の主人公」でデビューしました。2023年9月には2曲目をリリース、ライブ活動も行っています。

―1番注力していることはなんですか?

今、最も注力しているのはMediativeの活動です。設立当初は大学病院や地域中核病院などを舞台に、さまざまな事業展開をしていました。現在は、医療法人におけるクリエイティブコンサルティング業が主な事業になっています。中でも、アートやクリエイティブによる病院のリノベーション事業では、「医療とアートの学校」と事業提携し、この活動の全体のディレクション管理とプロモーションを行っています。

Mediativeには、医師や看護師をはじめとした医療従事者でありながら、プロのクリエイターやマーケターであるメンバーが多く在籍しています。同じ「医療」という共通言語を持っているからこそ、クライアント様が抱えている医療課題を解決に導くさまざまなクリエイティブを、コミュニケーションコストをかけずにご提案することが可能になるのです。これまでにブランディング動画制作や音楽制作、ホームページやVRなどのコンテンツ制作、公式キャラクター制作までさまざまなクリエイティブを提供してきました。

―どのような思いから、多岐に渡る活動をされているのですか?

私のキャリアは「生きる原動力を届けたい」というミッションをコアにしたスパイラルキャリアだと思っています。もともと医師として人々を幸せにしたいと診療に明け暮れていましたが、病気を治しても全員が幸せになれるわけではないと気づきました。医学だけでは全ての人を幸せにすることはできないのではないかと考えるようになったのです。

病院の中にいると「幸せ=健康」というイメージが強くなりがちですが、実際には全ての人が、その人にとっての幸せになるために生きているのだと思います。その幸せに共通していることとはと考えた時、「ワクワクしながら明日を楽しみにできる自分になれる」ことではないかと考えました。この考えを持つようになり、私は全ての人にワクワクできる明日を届けたいという思いでさまざまなことに取り組んでいます。

歌手としての私のファンになってくださった人は「明日、畑拓磨は何をしているんだろう」と楽しみに思ってくれるかもしれません。医師としては、私が得た医療以外の知識も活用して診療に取り組んでいます。医療以外の経験もしたからこそ、自分の診療にも厚みが出てきたと感じています。全て自分がやりたいと思っていることなので、大変だと思うことも忙しいと感じることもありません。

◆無意識のうちに抱いていたミッション

—医師を志し、専門を選んだ理由を教えてください。

幼い頃は体が弱く、肺炎などで入院することが何度かあり、そのとき医師は病気と戦うヒーローのように見えました。そんな医師になりたいと思い、筑波大学に進学。大学卒業後は、茨城県内で最も忙しい病院とされていた水戸協同病院の活気に惹かれて、大学病院の初期研修医でありながら、同院で初期研修のほとんどを受けました。そこで出会ったのが、総合診療医の長崎一哉先生です。長崎先生は臨床スキルだけでなく、働き方改革やチーフレジデントとしての病棟マネージメントなど幅広い領域で実績を上げていました。長崎先生のように臨床の枠を超えた活動をしたいという思いから、総合診療科を選びました。

―医療の現場を超えて活動するようになったのはどうしてですか?

医師3年目の時、自分もチーフレジデントになりたいと思い始め、視座を少し高く持とうという意識の変化がありました。そして気がついたことがあります。それは、医療の問題は医療だけでは解決できないということです。

実際に、病気を治療しても患者さんが幸せそうではないと感じることがありました。なぜなら患者さんは病気にならないために生きているわけではないので、治療すれば幸せになるとは限らないからです。それは当たり前のことかもしれませんが、病院の中だけにいると意外とあまり気づけません。

システム面でいうと、例えば医師の採用がうまくいかなかったり、看護師の離職率が高いといった人材確保の問題が存在します。この問題を解決することを考えた時、さまざまな施策が挙げられるかと思いますが、医療者だけで解決しようとする傾向があります。

それが悪いわけではありませんが、そもそも医療者は、日々の忙しい臨床業務で手一杯ですし、リクルートやマネジメントを学んできたわけでもありません。病院の中で生まれる医学だけでは解決が難しい課題にどうアプローチするか、手探りで議論が進まない現状に疑問を持つようになりました。そして医療が抱える課題を解決するためにも、その先にいる患者さんや医療者を幸せにするためにも、医療の外の世界を知らなければならないと考えるようになりました。

最初はそれこそ手探りで、さまざまな企業セミナーに参加するところから始めたのですが、そこでSUNDRED株式会社が主催されていた多様な領域を渡り歩く「越境人材(インタープレナー)」を集めたウェビナーに参加しました。業界などの境を飛び越えて新しい価値を生み出す越境人材の存在とその考え方を知り、深く感銘を受けた私は、すぐに主催者に自分の思いをメッセージで送ったんです。そして、一般社団法人病院マーケティングサミットJAPANの代表である竹田陽介先生を紹介していただきました。竹田先生と活動をともにし、今では病院マーケティングサミットJAPANの越境人材(医ンタープレナー)としてだけでなく、チーフエヴァンジェリストとしても活動しています。

このような活動の中で自分のビジョンや夢を話すうちに、名誉やお金のためではなく、私の夢を一緒に叶えたいと言ってくれる仲間が集まってきてくれました。今までは個人事業主として医ンタープレナーの活動をしてきましたが、私と一緒に夢を叶えてくれる仲間のためにも法人化を考え、2023年9月Mediative株式会社を設立しました。

―その後、歌手としても活動を始めています。医師、経営者、歌手と多様なキャリアの選択に悩みはありましたか?

全く悩みがなかったわけではありません。というのも、私はこれまで興味を持ったことには積極的に取り組んできたのですが、ある医師にグサっとくる一言を言われたのです。「いろいろやってきたと思うけれど、結局何がしたいの?」この一言で私は自分の活動を通して何を達成したいのか、核となる部分について深く考えていなかったことに気がつきました。これまでただ自分のやりたいことをしてきただけなのかと、一時は落ち込みました。

しかし今までの道のりを振り返ってみると、自分が取り組んできたことは、無意識のうちに自分の中でミッションとして抱えていた何かを追求していたと気づいたのです。その「何か」について考えたとき、「生きる原動力を与える」というミッションにたどり着きました。これまでの経験や、挑戦、それら全てが私のキャリアを形成し、その厚みを増してきたのだと感じ、振り返ってみるとどれ一つとして無駄な経験はなかったと感じています。

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医師プロフィール

畑 拓磨 総合診療医

2017年、筑波大学医学群医学類卒業。筑波大学附属病院、水戸協同病院で初期研修・後期研修修了。2021年に水戸協同病院総合診療科チーフレジデントを務める。2022年、一般社団法人 病院マーケティングサミットJAPAN チーフエヴァンジェリスト就任。同年12月歌手としてデビュー。2023年9月にMediative株式会社を設立。2024年4月から白十字総合病院総合内科。

畑 拓磨
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