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INTERVIEW

横浜市立市民病院 / 高知医療再生機構企画戦略室特命医師

外科、IBD科

石井 洋介

「うんこ」のゲームで大腸がん検診の普及!?

難病になり、生死に関わる状況を経験した後手術で助けられ、外科医になることを決めた石井洋介先生。「誰かの心に残せる仕事をしたい」と行ってきたことは、医師としての仕事だけにとどまらず、高知県の医師臨床研修環境をがらりと変え全国的に有名になった「コーチレジ」の立ち上げ、医療者をつなげるコワーキングスペース「RYOMA BASE」の設立、大腸がん検診普及のためのゲームの開発など、多岐にわたります。なぜそんなことをしようと思ったのか? これまでの経緯と今後やっていきたいことについてお話していただきました。

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苦労はハイリスク・ハイリターンの投資

医師になろうと思ったきっかけは何ですか?

中学3年生の受験のころ、何度か血便が出たことがありました。でも、なんだか怖くて……。見なかったことにして放っておいたんです。その後、高校1年生の時に40度ぐらいの熱が出て、下がらなくなりました。病院で1カ月ぐらいいろいろな検査をして、ようやくわかった病名は潰瘍性大腸炎でした。治療法がなく、難病とされている病気です。

検査や治療が長引いたため授業についていけなくなり、それが元で高校へは行かなくなりました。すさんだ日々を過ごし、大学へも行かずフリーターになったのですが、そんなある日、事故に遭って大腸に穴が空き、大出血してしまったんです。病院で、命を助けるためには大腸を全て摘出する必要があると告げられ、生死の境をさまよいながら手術を受けて人工肛門になりました。19歳の時です。一生人工肛門で生きていかなければならないショックは大きなものでした。

その後インターネットで調べてみると、横浜市立市民病院に大腸を全摘した後でも人工肛門を閉じる手術をしてくれる先生がいることがわかりました。早速その手術をしてもらうと、心も体もすっかり元気になりました。

自分が難病になり障害者になったと思った時は、もう死んでもいいかなと悲観したこともありました。でも実際に死にかけると「やっぱり死んじゃだめだ」って思ったんです。自分は19年間何をやってきたんだろう。このまま死んだら何も残らないまま終わってしまう。助かってもう一度生きられるのなら、世の中の役に立つことをしたい。どうせなら、誰かの心に残せる仕事をしてから死にたい――。そう思いました。

このような苦労がなければ、医師にはなっていなかったと思います。医師になることを選んだのは、人工肛門を閉じてもらった時に「こんな手術ができる外科医ってすごい」と思った純粋な憧れからです。当時の偏差値は30ぐらいだったと思いますが、死に物狂いで勉強して高知大学の医学部に入ることができました。

苦労というのはハイリスク・ハイリターンの投資のようなものだと思います。つらくて苦しいけれど、乗り越えたときのリターンは計り知れなく大きい。私がしたのは、しなくてもいい苦労だったのかもしれません。でも、おかげで今は毎日が充実していて、満足のいく生活を送ることができています。

★手術中

実際に医師になってみていかがでしたか?

良かったのは、自分自身が病気で苦しんだので患者さんの気持ちがわかることですね。自分の経験から「この処置は痛いですよ」とか「人工肛門も意外と慣れるんですよ」などと話すことができるので、納得して治療に向き合ってもらえます。

一方で、外科医としてできることに限界を感じることもありました。大腸がんなどの手術をしていると、見つかった時点で既に手遅れという方も多くいるのです。そうなるといくら手術の腕を磨いても、助けることができません。なんとかしてもっと早く発見できないか、その方法を毎日考え始めました。

元気なときは「健康はあって当たり前」と思いがちですが、私自身、失って初めてそのありがたさに気がつきました。意識が高い人は放っておいても健康に気をつけますが、そうでない人がもっと健康に興味を持ち、検診を受けてくれるようにするにはどうしたらいいのか。欧米では7割以上の人ががん検診を受けているのに対し、日本の大腸がん検診の受診率はこの数年で増えてきたとはいえ、まだ4割程度です。

そんな時、日本で最も拡散されやすいキーワードが「うんこ」であることを耳にしました。これが頭の中で瞬時に大腸がんと結びつき、このキーワードを使って大腸がん検診の普及ができないかとあれこれ策を練りました。そうして誕生したのが「日本うんこ学会」です。

○日本うんこ学会
http://unkogakkai.jp/

自分で健康をチェックする方法の一つに、排便を観察する観便があります。「うんこ」を使った面白いコンテンツで、健康に対する意識が低い人にも便の観察をしてもらえないか。エンジニアやデザイナーなどの開発メンバーと毎週末喫茶店で議論を重ね、大腸菌を擬人化した「うんコレ」というスマホゲームに行き着きました。

ゲームは熱中すると、つい課金してしまうところがあります。「うんコレ」はそれを利用して、課金する代わりに便の状態を報告してもらうゲームにしました。便を観察して報告すると大腸菌のキャラを引くことができるのですが、血が混じっている場合などは、検診を勧めるアラートを出せる仕組みにしてあります。2015年の夏ぐらいにiPhone版をリリースする予定です。

○うんコレ
http://unkore.jp/

★うんコレ

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PROFILE

石井 洋介

横浜市立市民病院 / 高知医療再生機構企画戦略室特命医師

石井 洋介

2010年高知大学医学部を卒業後、医療法人 近森会 近森病院での初期臨床研修中に高知県の臨床研修環境に大きな変化をもたらした「コーチレジ」を立ち上げた。医療者同士の交流スペース「RYOMA BASE」を共同で設立し運営するほか、大腸がん検診の普及を目的としたゲーム「うんコレ」の開発・監修を手がけるなど、医療環境の改善に向け多方面から幅広く活動している。現在は、横浜市立市民病院 外科・IBD科医師、高知医療再生機構 企画戦略室特命医師。

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