女性ならではの悩みを解決する医療
今までのご経歴をお聞かせください。
私は幼少期にアトピー性皮膚炎に苦しんでいました。アトピーの症状は見た目に現れますから、女性として気になるところです。自分のアトピーを解決したいという思いから、皮膚科医を目指しました。
大学病院で皮膚科を学んでいて感じたのは、もっと女性への配慮をするべきではないかということです。当時は皮膚科医も男性がほとんどでしたから、アトピー性皮膚炎やニキビなどで女性として気になるところも「病気じゃないから気にしなくていい」と言われたり、ある女性に現れた症状をほかの医師の前で紹介したりということがされていました。
私が研修を受けていたころ、美容皮膚科は一般の皮膚科に比べ、どこか軽んじられているところがあったように思います。私がかつてアトピーに悩んだように、男性医師からは「病気じゃない」と思われることでも、女性からすれば非常に気になり、悩んでしまうことが多い症状もあります。それを改善することが求められていると感じたのです。
昔も今も、肌に関する情報はいろいろな人が発信していますが、発信元が専門家でないものもたくさんあります。そのような情報は本当に安全とは言い切れないことも多いので、専門家の自分にやるべきことがあるとも感じていました。
その頃はレーザー治療なども始まったばかりでしたから、いろんなことを、時には独学で学んだりしながら身につけていきました。いろいろな病院でキャリアを積んだのち、ある病院に院長としてお呼びいただき、10年ほど勤め、そこでも多くの患者さんに学ばせていただいたあとでクリニックを開業し、現在に至ります。
医学が進歩し、美容皮膚科でも新しい治療法がどんどん出てきますが、新しいものがどれでもいいわけではありません。「自分自身と自分の家族に自信をもってできる治療を提供する」ことをモットーとしています。
「アンチエイジング」より「ウェルエイジング」
美容皮膚科は、美容整形とは違うものなのでしょうか?
「美容皮膚科」と「美容整形」が同じもののように思われることもよくありますが、この二つはどちらがよい、悪いではなく、まったく異なるものです。美容整形が「作り変える」ものであるとすれば、美容皮膚科は「元に戻す」、または「本来の形」を大きく変えずにより美しく整えるものです。美容整形はメスを使って行う治療であるのに対し、美容皮膚科では、メスを使わずに治療を行います。メスを使わなくても、レーザーや超音波を当てたり、その他のさまざまな美容皮膚科の治療を行ったりすることで、見た目をマイナス5〜10歳にすることは十分可能です。
私が治療を行うにあたり、大切にしているのはカウンセリングです。治療の前に30分ほどかけて、皮膚や肌に関してどんな悩みがあり、どう改善したいのかをじっくり聞きます。時には患者さんの「こうしたい」に対して、プロとして「こうしたほうがいい」と言うこともあります。それは「その人らしさを引き出す治療をしてあげたい」からです。患者さんの「こうしたい」に応える治療法は一つとは限りません。方法がたくさんあるならいくつも提示して、その人に適した治療法、その人にベストの治療法を作っていくのです。
最近「アンチエイジング」という言葉がよく使われるようになりましたが、私が目指しているのは「ウェルエイジング」といって、年齢と戦うのではなく、ゆるやかに、きれいに年齢を重ねていくことです。大切なのは「その人らしくあること」。不自然に若く見せるよりも、その年齢ならではの一番美しい状態を引き出すお手伝いができればと思っています。
美容皮膚科で行う治療は、見た目が大きく変わるものではありません。ですがずっと気になっていたシミがなくなって気持ちが明るくなった、それまで鏡を見られなかったのが見られるようになったという患者さんの声をいただきます。そういった声を聞かせていただけるのが、美容皮膚科をしていてよかったと思うときですね。
肌の「自浄作用」を大切に
日頃のお肌のケアは、どんなことに気をつければよいのでしょうか?
ベースにあるのが「睡眠」「食事」「ストレス対策」です。きちんと睡眠をとり、野菜など栄養バランスのよいものを取り入れた食事をする、ストレスをためない、これがまず行うべきことです。
次に行うのがスキンケアです。具体的には洗顔、保湿、紫外線ケアです。人の皮膚には元々自浄作用がありますから、それを活かすスキンケアをします。ゴシゴシ洗ったり、強すぎるクレンジング剤を使用したりすると、乾燥から肌を守っている皮脂なども取ってしまいますから、洗いすぎないようにという指導もしています。ぬるま湯で泡立てた石鹸や洗顔料で、あまりこすらないように洗い、そのあとによくすすぎます。もし肌が乾燥しているなら、クレンジングそのものもしなくていいくらいです。保湿には保湿成分を含むものを塗るほか、ワセリンのような保湿成分を逃さないためのものを用います。
紫外線はシミなどを作るものと考えられていますが、しわやたるみの原因になるものもあります。まず紫外線に当たりすぎないようにするほか、日焼け止めをしっかり塗り、屋外にいる時間が長いときは何度も塗り直すことが重要です。肌が弱くて日焼け止めが合わないという場合は、ノンケミカルなものを使用します。どれも高級なものを使う必要はありません。自分に合ったものを選ぶことが大切です。
最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。
美容皮膚科は美容整形とは違うと言いましたが、メスを使わなくても治せる方法はたくさんあります。医療の進歩により、安全で効果の高い治療法はどんどん生まれてきており、痛くないもの、受診にそこまでストレスがないものも増えてきているのです。
スキンケアの延長で美容皮膚科を訪れる方も多くなってきており、美容皮膚科が身近なものになってきていることを感じています。私たちは、患者さんのお悩みに応え、患者さんがご自分の外見に自信をもち、明るく前向きになっていただきたいと思っています。そのためにもっと美容皮膚科を役立ててほしいですね。自分に合った先生を見つけて、長く付き合っていただきたい。そういうことをお伝えしていきたいです。
インタビュー・文 / 吉田 伸