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INTERVIEW

医療法人徳洲会 奄美ブロック 総合診療研修センター センター長・指導医

総合内科

平島 修

「手あて」の医療であふれるセカイを目指して

 2014年8月、診療所が一つしかない鹿児島県奄美大島の加計呂麻(かけろま)島で、100人を超える医師・研修医・医学生が3日間診療所とビーチで身体診察を学び、夜通しで医療について熱く語るという大イベント、ジャパンフィジカルクラブ(JPC)が開催されました。このイベントの実行委員長である平島修先生は、フィジカルクラブという身体診察を学ぶワークショップ(部活動)を2012年から始めて全国各地で展開し、医師たちの問診や身体診察の技術向上に日々尽力されています。「診察を通して日本全体の医療を温かみのあるものにしていきたい」と活動を続ける平島先生の熱い思いは人から人へ次々とつながり、医師に留まることなく広がっています。

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「医師」になるために大切なこと

研修医時代の奄美大島でのご経験が現在のご活動につながっていると思うのですが、当時どのようなことを感じましたか?

 奄美大島に行くことになったのは偶然でした。大学卒業後、徳洲会の研修内容に興味があり福岡徳洲会病院に入ったのですが、研修項目の中に「へき地で一定期間過ごす」というものがあり、その時引き当てた土地が奄美大島です。そこで後期研修医や上級医がいる福岡の病院とは全く違うことを身を持って実感しました。福岡の病院では初期研修医が自分で判断してできることはとても限られていて、自分で判断して実践しようとしても上の先生にいつでも相談できるという環境です。福岡にいる時は、そのような環境はとても安心して勉強になる環境だと思っていました。

 それが奄美の場合は、軽症だろうと重症だろうと、入ってきた患者さんを最初に診るのは自分しかいません。後日、上の先生に相談することや確認を取ることはできますが、島にいる先生たちは研修医の存在をとても尊重してくれているため、「あなたが主治医だから、あなたの範疇でやりなさい。あなたが腹くくってやってるんでしょ」と言う具合に、いい意味で突き放してきます。

 突き放されることでとてつもないプレッシャーに襲われ不安にかき立てられ、患者さんのベッドサイドに行く回数が自然と増えていき、そこで初めて「自分は主治医である」ことを実感しました。福岡にいた1年数カ月の間は、自分は主治医だと思っていたけれども実はそうではなかったということに気付かされ、命を背負うということの重さを強く感じました。

 また、奄美は高齢者が多いため患者さんが目の前で亡くなることも多く、家族の方が泣きながら「最後先生に看取られてよかった」と言ってくださったことがあったのですが、そのような経験は一度や二度ではありませんでした。それまで自分が学んできて偉そうに言っていたことを、お線香をあげる度に亡くなった患者さんの人生に当てはめて考えてみていました。そして医学ではできないことも実は意外と多いということや、その中で大切なのは患者さんとのコミュニケーションだということに心の底から気付かされました。

 奄美大島での経験は、それまで「医学を学んだ人」だった自分を、初めて「医師」にしてくれたと思います。自分はたまたま奄美であっただけで、北海道などの他の地域でももちろんいいと思いますが、このようなへき地医療は全員が当たり前に経験するべき環境ではないのかと感じました。

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なぜ奄美大島に戻ることにしたのですか?

 その後福岡に残り1年間内科を経験して力をつけ、研修4年目に半年間、2年目のリベンジマッチとして奄美にもう一度戻りました。研修医時代に合わせて8カ月間経験した中で、研修医がへき地で医療を学ぶ環境を整えるには、へき地という環境を理解してくれる教育者がもっと必要だと感じました。そこで、まず自分自身が修行をしてまた奄美に戻ってこようと決意しました。

 修行場所として診察や回診をしっかり行っている病院を探していたのですが、その時ふと医師になって初めて買った感染症レジデントマニュアルに、診察のことがとても丁寧に書いてあったことを思い出しました。その本を書いた先生というのが市立堺病院(現堺市立総合医療センター)の内科部長の藤本卓司先生(現北野病院総合内科部長)です。早速コンタクトをとって直接会いに行ったところ、びっくりするほど丁寧に診察されていて、この人の下なら学べると思いました。ここで修行させてほしいと、3年間この病院で診察の技術を盗むだけ盗んで帰ろうと思うのですがそれでも受け入れてもらえますかと面接で伝えたところ、快く迎え入れてくださって、堺病院で修行をさせてもらえることになりました。

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PROFILE

平島 修

医療法人徳洲会 奄美ブロック 総合診療研修センター センター長・指導医

平島 修

熊本大学医学部卒業。福岡徳洲会病院で4年間の初期・後期プログラムのうち、8ヶ月を奄美大島の瀬戸内病院で過ごす。問診・身体診察に重きを置いた指導医が奄美大島にいればと、大坂の市立堺病院(現堺市立総合医療センター)で2009年より4年間学ぶ。2012年に「堺フィジカルクラブ」を創設し、部長として全国各地で医師・医学生・研修医に向けた身体診察のワークショップを行っている。2013年4月より瀬戸内徳洲会病院加計呂麻診療所所長、その後現職に至り奄美大島の研修医を教育している。

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