INTERVIEW
全ては患者さんの「幸せな日常」を叶えるため
牧丘病院は人口約1万人の診療圏で外来を行い、山梨市・甲州市・笛吹市の人口約8万人の圏域で、現在月に250~300名くらい訪問診療を行っています。
私は医師3年目の時から山梨県牧丘町立牧丘病院(現山梨市立牧丘病院)にて整形外科医として3年間勤務していたのですが、その後14年間、隣町の塩山市国保直営塩山診療所(現在は閉院)で勤務するうちに、在宅医療に深く携わるようになっていきました。再び牧丘病院へと戻ることになった時、塩山市で担当していた数十件の患者さんたちを牧丘病院から引き継いで訪問することにしたのもあり、牧丘病院の在宅医療への取り組みも次第に大きくなっていきました。30床の病床を持っていたので、地域で在宅医療が必要なケースが生じた場合は、相談を受けることが多くなっていき、今では地域で一番在宅医療に携わっている病院となっています。
牧丘病院では、現在4名の常勤医師が、外来と当直を行いながら、在宅医療で訪問する患者さんの担当を主治医制で割り振っています。4名なので当直の機会も多いのですが、牧丘病院は在宅医療で訪問している患者さんのバックベッドとしての役割が強いため、急性疾患の患者さんよりは比較的落ち着いている患者さんが多いという特性があります。そのため、呼び出しに対応できるようにしていれば当直の時でも訪問に出かけられる体制にしているので、医師が各自で訪問時間をセッティングできるのです。私も月に100名ほど訪問していますが、当直の時間を使って日曜や夜中にも訪問しているので、さらに担当の患者さんを増やすことも可能な状態です。
病床を持っていることにより、地域の在宅医療に関する相談に対応できることがあります。たとえば自宅で寝たきりの旦那様の介護をしている奥様が入院することになり、旦那様の行き場所がないという場合には、短期入所の役割のような形で一緒に入院することもあります。自宅に帰れないけれど療養施設にも入れず他に行き場所がない患者さんがいた場合に、1カ月の半分ずつを短期入所生活介護と入院で担うこともありました。
また、外来や地域二次救急当番を受け持っていることで、他の病院や診療所との関わりが多いため、何かあった時に協力し合いやすい関係性にあります。例えば在宅の患者さんで、夜間に病院での画像検査が至急必要という場合、検査技師さんをわざわざ病院に呼ぶよりも、救急車で地域二次当番の病院に検査を受けに行ってもらった方がよりスムーズに、より早く検査をしてもらえます。その際には搬送先の病院を教えてもらい、その病院に紹介状を送ることで連携をとります。その後の経過が良ければそのまま退院に至りますが、もし入院が長引きそうな場合には、早いうちに転院してこちらに戻ってきてもらうことで継続して担当の患者さんを診ることができます。
地域医療における課題は、いかにまわりとの連携をスムーズに行うことができるかに尽きると思います。うちでは病院が拠点という強みがあるため、何かあったら入院という措置がとれるので、まわりの病院、診療所、施設、訪問看護・介護事業所など、あらゆる機関との連携がとりやすいと感じています。それだけでなく、急性期病院と「Win-Win」な関係性を持ち――例えば急性期病院で普段軽微な愁訴でよく救急車で来院してしまう人などを、当院の訪問診療に紹介してもらい、救急車を呼ぶ前に当方へのコールで対応するようにするなど――得意な分野で協力しあうことが大切だと思います。
PROFILE
山梨市立牧丘病院
古屋 聡
1987年自治医大卒。山梨県立中央病院で研修後、山梨県牧丘町立牧丘病院(現山梨市立牧丘病院)にて“ひとり整形外科医”として勤務。1992年より塩山市国保直営塩山診療所(現在は閉院)にて在宅医療に取り組み、2006年に山梨市立牧丘病院に再度赴任、2008年より現職。
東日本大震災後に現地での支援活動に取り組む中で、2011年3月25日に成立した在宅患者をサポートする医療支援チーム「気仙沼巡回療養支援隊」にて活動する。その中の特別活動として「気仙沼口腔ケア・摂食嚥下・コミュニケーションサポート(通称ふるふる隊)」をコーディネートし、内外の多職種で取り組み、その後、「気仙沼・南三陸『食べる』取り組み研究会」を地域の方々とともに立ち上げて活動している。