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INTERVIEW

兵庫県立こども病院

小児科

笠井 正志

先陣を切り、新たな「小児科医」に挑む

患者減少、診療科閉鎖など大きな変化の禍中にある小児科の1人の医師として、小児医療の模索を続ける笠井正志先生。小児科後期研修医レベルアップのためのワークショップや新たな診療科立ち上げなど、精力的に活動しています。そんな笠井先生に現在の取り組み、そして今後の小児科のあり方について伺いました。

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小児科後期研修医のレベルアップを図る

―最初に、HAPPYについて教えていただけますか?

HAPPY(History taking And Physical examination in Pediatrics for Young physicians)とは、小児科後期研修医を中心にcommon disease診療、身体診察のレベルアップを図るためのワークショップです。2012年に数名の小児科医で立ち上げ、全国各地で開催しています。現在は小児患者のトリアージとその後の対応を学ぶ「小児T&A」と合わせて一般社団法人こどものみかたで運営しています。

―HAPPYを立ち上げた背景には、どのような思いがあったのですか?

私はこれまで、こども病院に勤務することが多く、common diseaseを診る環境ではありませんでした。むしろ重症化した患者さんが運ばれてくる最後の砦。高度な専門知識を駆使して、頑張って治療して子どもたちを助けることが使命でした。

子どもの病気の9割は、病院に行かなくても自然に治る軽症です。残りの1割のうち50%が残念ながら治療のしようがない病気、残りの50%が頑張って治療したら治る病気です。

重症の子どもたちの症例を振り返っていく中で、「もう少し く治療ができたのではないか」「予防接種をきちんと受けていれば予防できたのではないか」と思うことが多くありました。そして、common diseaseを診る小児医療の土台がしっかりしていないと、高度な専門医療をする医療機関にたくさんの子どもたちが運ばれてきて、専門医が自分たちの治療に集中できなくなると思ったのです。これは患者や家族にとっても、決していいことではありません。

そして土台部分のレベルアップができれば、この問題も少しは解消するのではないか-。その うに考えていたところ、同様の思いを抱えている医師たちと出会い、意気投合しHAPPYを立ち上げたのです。

―common diseaseの診療技術は、小児科研修ではあまり学ぶことができないということですか?

残念ながら今の医学教育の中で学ぶ機会はなかなかありません。若手は皆すごく真面目なので、教わる機会の多い臓器別の疾患の知識量は多く、検査結果の読み方が得意ですね。ところが、喉が痛いと訴えている子どもをどうやって診察するのか、喉のどこを診てどう診断するのか、ということはあまり分かっていません。

ですから、極端なことを言うと「血液検査の数値を見たら分かるから、なんでも採血する」という発想になりかねません。しかし血液検査のための注射は、子どもにとっては大きな負担です。そしてなぜ採血をするのか、何の数値が知りたいのかなど、採血で数値を見る理由をひとつひとつ理解してもらうために、教えていくことが必要だと思っています。

またHAPPYには、さまざまな病院  関係なく参加者が集まるので、他の病院での り方を知ることができます。病院ごとに全く異なる方法を取っていることが多いので、病院の医局も関係なく集まれる場があることで、新たな視点や発見を持つことができます。それがまた学びになりますよね。このように、ボトムの部分で横のつながりを持ちながらお互いに高め合える場にもなっています。

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PROFILE

笠井 正志

兵庫県立こども病院

笠井 正志

兵庫県立こども病院感染症科科長
1998年富山医科薬科大学医学部卒業。淀川キリスト教病院、千葉県こども病院麻酔・集中治療科、長野県立こども病院集中治療科 社会医療法人丸の内病院小児科にて研鑽を積む。2016年1月に兵庫県立こども病院感染症科を立ち上げ、現在に至る。また、2012年から「良い小児科医を育成し、小児診療を愉快なものにする」ことをモットーに、小児医療従事者向けに病歴聴取と身体診療についてのワークショップHAPPYを設立。現在は、一般社団法人こどものみかた副理事長としても精力的に活躍している。

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