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INTERVIEW

千葉大学医学部附属病院 病院経営管理学研究センター

精神科

吉村 健佑

医療の持続可能性を実現したい

精神科医として8年間の臨床経験を積んだ後、医系技官として厚生労働省に入省。その後は研究官を経て、現在は千葉大学医学部附属病院の特任講師/産業医として病院経営の改善や、人材育成、病院の産業保健に取り組んでいます。異色のキャリアをもつ吉村健佑先生は、どのような信念を持って歩んできたのか。今後の展望もあわせて伺いました。

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大学病院の経営改善と人材の育成に寄与

―現在、どのようなことに取り組んでいるのですか?

2018年4月より千葉大学医学部附属病院で、2つのことに取り組んでいます。1つは、大学病院の経営改善です。病院の収益の多くは診療報酬から得ているので、実際の診療内容に十分に見合った報酬が得られているのかを各部門と一緒に考え、病院の安定的な経営につなげています。

もう1つは、病院の産業医としての仕事です。現在、千葉大学医学部附属病院に在籍するおよそ2700名の職員のうち、大多数を占める医療専門職のメンタルヘルス対策や復職支援、健康管理、労働環境の巡視などを行っています。現状では病院側の支援体制も、職員一人ひとりの自覚も心許ないというのが現状です。そのため職員のみなさんが長く健康に働くことを当たり前に達成できる大学病院をつくるために、積極的に働きかけています。医師や看護師が「職場に行きたい!もっと病院を良くしたい!」と思える病院であるほうが、患者さんに対する医療サービスの質の向上につながると考えています。

また、大学病院での仕事とは別に、千葉県庁の健康福祉部医療整備課に籍を置いて、県内の医療提供体制を充実させる活動も行っています。千葉県は人口当たりの医師数が全国で下から3番目に低い県。深刻な医師不足の問題を解決するためには、魅力的な病院・職場づくりや、魅力的な医療専門職の育成が欠かせないのですが、一医療機関の取り組みだけでは限界があります。やはり行政がこうした目的をもって、じっくりと腰を据えて政策を立案しながら取り組むことが必要です。

現在、地方分権により、厚生労働省から全国の都道府県に対して次々に医療政策の権限が委譲されているものの、千葉県に限らず都道府県側には十分な経験を持つ職員は限られてしまいます。私は厚生労働省に医系技官としておよそ3年間在籍し、政策立案や制度設計などに携わる機会を得ました。その経験を少しでも活かせればと考え、これまでの医療現場と厚生労働省の経験をもとに医療政策の立案の支援とお手伝いをしています。

具体的にはキャリアコーディネータという役職を得ています。県内の医師数の充実に向けた方策・アイデアを提案しながら、「県内の医療機関経営者」、「医師の教育プログラム責任者」そして「若手医師・医学生」という、人同士をつなげる動きをしています。そのために、まずは千葉県の医師就学資金制度の受給者約300名の若手医師・医学生たちと個別に面談を進め「選考したい診療科」「目指すキャリアプラン」「将来実現したいこと」などを相談して千葉県内の医療機関でやりがいをもって働けるように、キャリアプランを一緒に考え、個別にマッチングを図っています。精神科医のとしての経験も生かしながら、個別のキャリア実現を支援する。これはとてもやりがいのある仕事です。

―それぞれの活動では、どのようなところが大変ですか?

千葉大学医学部附属病院での仕事でいえば、病院の経営を改善するために、医師一人ひとりに働きかけ、新たな経営改善策の重要性を理解して運用を徹底してもらうこと、これが一番のポイントです。現場にはさまざまな考え方や価値観があり、各職員には適性や負担感に差があります。自分もそうでしたが、その中で満足感や逆に不安を抱えながら働いている。医療専門職は、ある意味で想いや感情をベースに仕事に向かう集団とも言えます。そのため、淡々と事務的に依頼するだけでは物事は前に進みません。根気強くコニュニケーションをとり「あいつが言っているのだから協力してやるか」「困っているならちょっと手を貸してやろうか」と思ってもらえるような存在を目指しています。

それによって、実際に院内で診療を行っていたにもかかわらず十分に診療報酬が算定されていなかったケースなどで、現場の職員から積極的な協力を得て改善を実現しました。部署間の協力で、年間数千万円の収益を確保することができることが分かりました。

千葉県庁でのキャリアコーディネータの仕事では、イチから若手医師・医学生たちの関係づくりに取り組みました。これまで、就学資金受給者たちには奨学資金の貸し付け行うだけで、キャリア形成や県内での診療の支援についてはあまり積極的に行えていなかったのです。やはり医師を動かすのは、仕組みではなく「人」です。医師は一人ひとり仕事への想いや願いを持っているので、医師同士を繋ぎ、その実現に向けてフォローしていくことが大切なのです。この仕事は一人のキャリアコーディネータでは実現できないので、県内の医師から希望者を募り、様々な診療科・年代・性別からなる、若手を支援する医師集団を組織しています。これからが楽しみです。

成果も出ています。千葉県内には多くの医師不足の地域があるのですが、今年3月までは医師就学資金制度に沿って派遣された医師は0人でした。それが今年4月より若手医師・医学生に関わるようになってから、現在までで複数名の医師の配属が内定しました。やはり一人ひとりの希望と地域の病院を丁寧に繋いでいけば、地域で働くことを希望してもらえることを改めて実感しました。

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PROFILE

吉村 健佑

千葉大学医学部附属病院 病院経営管理学研究センター

吉村 健佑

千葉大学医学部附属病院 病院経営管理学研究センター 特任講師 兼 産業医
2007年千葉大学医学部を卒業、国保君津中央病院にて初期研修を修了。千葉大学医学部附属病院精神神経科、国立病院機構千葉医療センター精神科にて研鑽を積む。2015年厚生労働省へ入省。保険局保険システム高度化推進室、医政局医療技術情報推進室にて室長補佐を務める。2017年国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部主任研究官を務めたのち、厚生労働省を退官。2018年より現職。

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