地域づくりのキーパーソンを目指す~介護職の可能性とは?~
記事
前回の「PRESENT_03」では、地域包括ケア研究の先駆者的存在である堀田聰子さんから「地域包括ケアには答えはない。将来介護を受けるであろう地域住民も自分事として、どのようなケアの方法が必要なのか語り合い、考え続けなければならない」というメッセージをいただきました。それを受けて、「では、地域住民全員で自分たちの地域のケアを考えていくには、どうしたらいいのだろうか?」という答えを探るべく、株式会社あおいけあ代表取締役の加藤忠相さんからお話を伺いました。
◆「あおいけあ」の介護施設
加藤さんは現在、神奈川県藤沢市で小規模多機能型居宅介護施設「おたがいさん」をはじめ、デイサービス施設「いどばた」やグループホーム「結」を運営しています。講演では、「あおいけあ」の取り組み、加藤さん自身の軸、今後医療・介護が担っていくべきことについて話されました。
「あおいけあ」は、地域住民も巻き込んで高齢者のケアを考える環境を生み出している施設として、メディアでも注目されています。ここでは利用者と地域の人々との交流が自然と生まれているのです。
そのような環境が生まれた背景には、いくつかの理由があります。物理的な点では、介護施設を地域に開かれた場所にしようと、施設の周りにあった塀を取り払ったことが挙げられます。塀があったことで施設の外周を通っていた地域住民が、それによって「近道ができた」と敷地内を通るようになり、自然と地域住民が集まる場となりました。また、施設の一部屋を貸し出して地域のお母さんたちの交流の場に利用してもらい、気軽に足を運べる環境を生み出しています。さらには、施設内に利用者が切り盛りする駄菓子屋さんや、遊びにくる子どもたちに習字を教える場を作り、子どもたちとの触れ合いが促される環境をつくっています。
他にも、利用者への主体的行動を促す工夫がなされています。例えば、利用者を「地域の公園の掃除を手伝ってほしい」と施設の外へ積極的に連れていくことで、公園を利用している地域住民と接点を持つことができます。施設内では、利用者がそれまで培ってきた手続き記憶を活かし、自動車整備士の方には、あおいけあが使っている車のタイヤ交換をお願いしたり、植木職人の方には施設内の草木の剪定をお願いしたりしています。また高齢女性には、施設でのイベントの際に料理作りを任せることも積極的に行っています。このような方法で自立を促すことで、利用者に社会的役割ができ、介護度の維持・改善につながっているのです。
◆地域に開かれた介護施設をつくるカギは介護者の意識改革
このような好循環を生み出す施設が運営できているのは、加藤さんのぶれない軸があります。それは自らのスタートを確認するとともに、最終的に叶えたいトップゴールが決まっていることです。加藤さんにとってのスタートは「『介護とは何をする仕事か』という本質の追求」と「人からされたら嫌なことは人にしない」ということです。そしてトップゴールは「よりよい人間関係の構築」と「QOL(Quality of Life)とQOD(Quality of Death)の質を高めること」です。
加藤さんは、今後医療・介護・福祉を担っていく人たちは、スタートとトップゴールの明確な設定をする必要があると話されていました。トップゴールを設定したら、そこへ一緒に向かう仲間を持つことも重要です。その仲間同士、スタートとトップゴールはしっかりと共有するものの、あとは各々がホスピタリティを最大限に発揮して自分のゴールを考え進むことが求められるとのことでした。
このように加藤さんがおっしゃる背景には、介護・福祉にかかわる人の意識に対する問題意識がありました。
「介護職は、昔は療養所でお世話をする係でしたが、現在求められているのは要介護状態などの軽減・悪化の防止です。共に何かをすることで、自立の支援をすることが役割なのです。しかし、いまだにお世話係という考えが抜けていません。」
加藤さんが考える介護職のあり方とは、お年寄りをサポートしながら社会的役割を見出していくことで、お年寄りも社会貢献できる地域をデザインしていくことなのです。そのためには介護の知識だけでなく、幅広い分野の情報を持っていることが必要になります。介護に関する勉強会においても、介護の方法を深める内容も必要ですが、それ以上に違う分野のこと、例えば医療や税金のことなど、介護の周辺にあるさまざまなことを学び、それを自分の仕事にどう生かすかを考えることが重要だと話されていました。
そうして自らのトップゴールに進んでいくために他分野の知識をつけ、地域をデザインする介護職が増えれば、介護職をリーダーとして全員参加でその地域のケアのあり方を考える土台ができるのです。
◆他分野からの学びを自らの仕事に活かす
そのような話を踏まえて行われたグループワークでは、まず参加者それぞれのトップゴールを改めて考え、各々のトップゴールに向かっていくために、明日から行うことを共有しました。参加者からは「自分の業種の知識ばかりを深めるのではなく、色々なところに出ていって違った分野も学び、それをアウトプットすることで自分の分野に活かしていきたい」という声が多くあがりました。
「PRESENT」はまさに、加藤さんがおっしゃっていたような「違う分野のことを学び、それを自分の仕事に活かす」ことができる場と言えるのではないでしょうか。大きなテーマとして「介護」が掲げられていますが、毎回違った切り口で、時には全く異なった分野からのゲストが呼ばれます。そして、グループワークでは、同じ介護職ではあっても、違った施設で違った仕事をされている方同士で話したり、介護以外の業種の方と議論に花を咲かせることができます。介護職の方々が全員参加型の地域づくりをリードしていくために必要な一歩を、ここに参加されてた方はすでに踏み出せているように感じました。
(取材/北森 悦 構成/北森 悦・山岸 祐子)
医師プロフィール
田中 公孝 家庭医
2009年滋賀医科大学医学部卒業。2011年滋賀医科大学医学部附属病院にて初期臨床研修修了。2015年医療福祉生協連家庭医療学開発センター (CFMD)の家庭医療後期研修修了後、引き続き家庭医として診療に従事。医療介護業界のソーシャルデザインを目指し、「HEISEI KAIGO LEARDERS」運営メンバーに参加。イベント企画、ファシリテーターとして活躍中。