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宮城県登米市の地域医療のために、医師は何ができるのか?

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2018年12月1日、「明日の医療に 医師は何ができるのか~宮城県登米市session」というワークショップが開催されました。約20名の参加者が集まり、すでに地域医療の領域で取り組まれている2名の医師の講演を聴いたのち、課題抽出と自分たちには何ができるのかを話し合いました。宮城県登米市の医療のために、医師は何ができるのでしょうか――?

2018年12月1日、東京・御茶ノ水にあるデジタルハリウッド大学にて、「明日の医療に 医師は何ができるのか~宮城県登米市session~ 」というワークショップが開催されました。主催者はアンタ―株式会社と医療法人社団やまと。

アンタ―株式会社は「つながる力で医療をささえる」をビジョンに掲げ、さまざまな先生の勉強会資料を共有するAntaaSlideや、さまざまな診療科の医師同士が実名制で相談などコミュニケーションが取れるAntaaQAというサービスを提供しています。

一方、医療法人社団やまとは、宮城県登米市や同県大崎市、その他都市部も含めて計4つの在宅療養支援診療所を開設し、都市部の医師が移住することなく、“通勤”しながら地方の医療を支える新たな働き方を提唱する「やまとプロジェクト」を進めています。

アンタ―株式会社代表の中山俊先生は現在、月に2回、やまと診療所登米で非常勤医師として勤務、在宅医療に従事しています。まさに東京から登米に通勤する新しい働き方を実践されています。中山先生はセミナーの冒頭、このように話していました。

「AntaaQAなどアンタ―のサービスでは、さまざまな医師の知恵を活用しています。宮城県登米市での診療を始めてみて、深刻な医師不足という問題を抱えている登米市の医療を考えるには、さまざまな人がアイデアを出し合うことが大切なのではないかと思うようになりました。そこで今回、このようなイベントを企画しました」

今回のイベントは、医療法人社団やまと やまと在宅診療所大崎院長の大藏暢先生、東京大学大学院医学系研究科医学教育国際研究センター講師の孫大輔先生の講演ののち、4チームに分かれてグループワークを行いました。実際に一歩を踏み出し足跡を残してきた先生の講演を聴き、「では、自分だったら何ができるだろう」と考えました。

◆大藏 暢先生(医療法人社団やまと やまと在宅診療所大崎 院長)

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大藏先生は2016年11月、宮城県大崎市に開設したやまと在宅診療所大崎の院長を務めています。大藏先生も平日は宮城県、週末は自宅のある東京に帰ってくるという生活スタイルです。

もともとアメリカ・ミシガン大学で老年医学を学ばれ、高齢者ケアにおけるチームアプローチの重要性を身をもって経験されました。2009年に帰国、2016年からやまと診療所大崎の立ち上げから参画し、院長を務められています。開院当時は、大藏先生を含めて4人のスタッフでスタートし、2年経った現在では、大藏先生を除くと非常勤医師5名、看護師4名、診療アシスタントという事務系スタッフが4~5名体制になっています。これまでの取り組みを紹介してもらいました。

・顔の見える関係づくり

アメリカで学んだチームアプローチを日本でも実践するべく、「“異次元”の多職種連携」を目標に在宅ケアに取り組んでいます。このために力を入れているのが、事例カンファレンス。2週に1回のペースで、これまで約40回開いたそうです。地域の医療介護従事者に声をかけ、さまざまな職種の方が集まり行われています。事例を通して多様な人の意見が一致し、同じ方向を見られるのは、事例の力によると感じているそうです。また、個別の事例を検討していますが、それが地域全体の課題である場合もあり、地域全体の課題解決にもつながる可能性を感じていると言います。

・継続的なコミュニケーション・情報共有

多職種チームの継続的なコミュニケーションと情報共有のために、大崎医師会が導入したSNSシステム(Medical Care Station)を積極的に利用しています。患者さんごとに、関わっている医療介護従事者同士がグループを作り、その中でメッセージをやりとりできます。やまと在宅診療所大崎は、患者数が180名を超えているので、毎日大量のメッセージが投稿されています。それらの整理が課題ではありますが、継続的に患者情報を共有できるのは、大きなメリットになってるとのことです。

・健康まちづくり

老年科医として、高齢者に優しいまちづくりにも関われないかと考えていた大藏先生。大崎市に隣接し、診療圏内にもなっている涌谷町で、その取り組みを始めました。人口減少により消滅可能性都市と言われている涌谷町の、医療介護連携推進協議会の委員になった大藏先生は、涌谷町を“日本一そこで老い、生き終えたいまち”にしようと、「医療×行政の健康まちづくり」を町の職員などに働きかけました。最初こそ、その意義が伝わっていなかったようですが、徐々に町の人も動き始めました。市民公開講座や専門職を集めての勉強会、町のPRのための涌谷町トートバッグ作成など、動きが少しずつ出てきているそうです。

また、やまと診療所大崎が自宅でお看取りをした患者さんのお孫さんが、その患者さん(お孫さんにとってはお祖父様)の介護を通して、介護士を取得し、介護施設で働かれるようにもなったそうです。日々の診療活動が未来の医療介護人材を発掘したのです。

◆孫 大輔先生(東京大学大学院医学系研究科医学教育国際研究センター 講師)

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孫先生は腎臓内科医として8年間キャリアを積み、医師9年目から家庭医・総合診療医として勤務、さらに医師13年目からは医学教育にも携わっています。そして週末は地域活動を通して、地域の方々への健康教育をされています。

もともと2010年から「みんくるカフェ」という対話型の健康教育を進めていましたが、参加される方の多くは、すでに健康への意識が高い方。健康意識が高くない方も巻き込む方法を模索していく中で、ソーシャル・キャピタルを絡めた健康活動のほうが、長期的視点に立つと効果があると言われていることを知った孫先生。そこから「谷根千まち場の健康プロジェクト」という活動を始めました。

・「谷根千まちばの健康プロジェクト(まちけん)」

谷根千というエリアは、東京都台東区や文京区にまたがる谷中・根津・千駄木地区で、昔ながらの下町文化が残る地域です。そのソーシャル・キャピタルを活用し、地域介入や地域住民などの非研究者の参加も重視した、Community-based Participatory Research(CBPR)という手法で研究を進めています。

まちけん:https://www.ynsmachiken.net/

・モバイル屋台 de 健康カフェ

このプロジェクトの1つとして最初に始めたのが、モバイル屋台de 健康カフェです。孫先生のターニングポイントにもなったそうです。地域のお祭りに、屋台型のカフェを用意して参加。ハンドドリップコーヒーをふるまいながら、「かかりつけ医いますか?」「健診受けていますか?」などと、カジュアルな健康相談トークを2週間続けました。

その結果、病院の外に健康相談の場を持ち出せただけでなく、多様なネットワーク構築にもつながりました。屋台を引いていることで目立ち、病院では出会わないような人から声をかけられたり、商店を営んでいる方から医療を掛け合わせたイベントができないかとの話を持ちかけられたりしました。そこから、地域の人たちが自分の興味に合わせて楽しめる部活動のような活動が発展。現在は、10種類程度の活動が行われるようになっています。

・映画制作

活動の1つに、映画鑑賞の会がありました。ある時、そこで映画制作の話が持ち上がったそうです。シナリオをみなで考え、構想1年、クラウドファンディングで資金を集め、谷根千でこれまでにつながりができたお店などをロケ地に映画作りが実現しました。現在は撮影が終了して、編集中だそうです。

孫先生は、映画制作の過程がCBPR研究の成果の1つになるのではないかと考えています。撮影チームは約10名でしたが、ほとんどが映画撮影の初心者。しかし、どんどん巻き込まれていき映画の撮影ができました。つまり映画制作は、さまざまな人を巻き込でいく良いツールになったと考えているとのことです。

孫先生は、地域の健康を考えるときには自分自身が地域に入っていくことを、まず考えます。そしてソーシャル・キャピタルになっている部分を探し、健康につながるような活動を、地域に巻き込まれながら進めていくとのことでした。

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医師プロフィール

中山俊 整形外科

アンター株式会社 代表取締役/翠明会山王病院 整形外科医師
鹿児島県出身。鹿児島大学医学部を卒業後、東京医療センターで初期研修。2016年にアンター株式会社を創業し、医療現場の医師が相互に助け合う、実名制の医師同士の相談サービス「Antaa QA」を運営している。2018年9月からは、宮城県登米市にある やまと在宅診療所登米に、2週に1回のペースで通勤、在宅診療を行っている。

中山俊
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