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院長は仕事がない?~院長に求められているものとは~

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山形県山容病院院長である小林和人先生は時々、「院長の役割は、臨床医としての業務に院内会議や対外的な業務が加わっただけ」と捉えている院長に出会うことがありました。そんな意見を聞き、研修医時代に勤めていた病院の院長を思い出し、院長を務めてきた5年間を振り返り、「院長」に求められているものとは何か、1つの考えが形成されたと言います。小林先生の考える「院長」とは?

◆院長とは、何も仕事がないものなのか?

ある程度組織立った病院では、診療報酬に関連した業務は事務長が担当、病棟に関する業務は看護部長が担当などと仕事の分担ができ、結果的に「院長は臨床医としての業務に、院内での各委員会や外部での会議出席などが加わっただけ」と捉えている方も時々いらっしゃいます。

しかし、院長とはそのようなものでしょうか。

◆院長は、病院の「ランドマーク」

私は日々、院長としてやりがいを持って務めています。院長の最大の役割は、内部から見ても外部から見ても「ランドマーク」であることだと思っています。どのような病院で、どういうことを行っていくのかビジョンを指し示し、リーダーシップを取っていくのが院長の務めではないでしょうか。

◆モデルとなる院長

私は医師2年目の時に勤務していた福島県の針生ヶ丘病院で、当時の院長であった熊倉徹雄先生の勉強会、食事会、職場旅行など、あらゆるところに呼ばれ付いて行っており、院長の姿を間近で見てきました。

熊倉院長は職員からのあらゆる声に、必ず一度は耳を傾けていました。そして出た意見を一度持ち帰り、病院の方針に沿って物事の決断をされていました。若い職員がやりたいと言ったことはやらせてみて、一度任せたら、それに対して批判的な言動はしていませんでした。対外業務でも常に丁寧な対応をしつつも、毅然とした態度で病院の方針を曲げることはありませんでした。病院の方針が明確だったため、職員が迷ったときに方向性を確認する旗印のような存在でした。そんな熊倉院長から大きな影響を受けて、今の私の院長像が形作られています。

◆病院内部での役割

私は病院内では、1年に1回行っている職員総会で、方向性を明示しています。これまで「地域の要望に応える:市民が足を運びやすい病院をつくる」ことを行動理念として示してきました。そして地域に多数発生しているのに治療の受け皿が少なかったアルコール依存症に着目して、久里浜医療センターにスタッフを研修に出してきました。また、地域の実情と医療のミスマッチという観点から、当院のベッド数が多すぎるとも考え、適正規模への縮小を行い在院日数の短縮を進めてきました。

昨年より第2段階として、「病院が患者を選ぶのではなく、選ばれる」という理念のもと、山形県・庄内地域・酒田市3段階の診療圏の中での山容病院の位置付けを示したり、職員の異動により院内で価値観の共有をはかったり、「自分や家族が入院“したい”病院にしようと職員に呼びかけたりしてきました。

2016年は、主に職種ごとに分類されていた業務を、診療報酬に則った部門分けからセラピー、アセスメント、マネジメントの3部門に再編することを告知し、自身の専門性を再認識し、さらに専門外へと幅を広げていくよう促しています。各部門が主体的に動けるよう、私が提示した中期事業計画に則して、部門ごとに計画を立ててもらいプレゼンを行う取り組みを始めました。

もし院長からの方針が提示されなければ、部門ごとに方向性がずれてしまいます。ですから、旗印として院長の存在が必要なのです。

◆病院外での役割

では、病院の外から見た院長の役割とは、どのようなものでしょうか。

市民の方々が「山容病院」という名前だけしか知らないとき、専門科目程度は分かるかもしれませんが、具体的にどのような先生がどのような治療を行っているかという中身は分かりません。ただ建物としての病院しか知らないと、なかなか受診にまでは結びつきません。

ところが、例えばラジオ番組で定期的に発信していると、「山容病院には小林先生という先生がいるようだ」と認知してくれます。また直接対面する形で、公民館等での講演を引き受けると認知度は上がり、徐々に大きな会場での講演が増え、行政や企業からも呼ばれるようになります。すると、「山容病院のことはよく分からないけど小林先生の話を聴いたことがある」という安心感が、受診すなわち早期介入のきっかけとなり得るのです。また、地域の方々(じつは私も一員ですが)との交流を通して、地域で何が起こっていてどのようなニーズがあるのかを拾い上げることもできますし、徐々に外部サポーターという形で、山容病院の医療方針などを詳しく理解し、周囲の方に紹介してくれる方が出てきます。

地域の方々が困ったとき、私の講演を思い出し、病院のことを思い浮かべてくれる。また、地域における病院の機能や、日々自分達が行っている業務の意味に職員が疑問を持ったとき、院長の発言を思い出して再確認する。迷いそうになったとき、元の地点に戻るための目印、まさにランドマークとしての役割はとてもやりがいのあるものだと思います。ともすれば遠い関係になりがちな病院と地域とを結びつける橋渡しをこれからもしていきたいです。

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医師プロフィール

小林 和人 精神科

医療法人山容会理事長
東京大学医学部卒業。同大学付属病院にて研修後、福島県郡山市の針生ヶ丘病院に就職。平成20年に山容病院に就職。平成23年同病院院長に就任、平成26年より現職

小林 和人
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