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産業医として、職域保健と地域医療の架け橋を目指す

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医師9年目の五十嵐侑先生は、企業の産業医として、出身地である宮城県に戻ってきました。産業医としてできることを模索し、宮城県、さらには東北地方で挑戦しようとしていることは――?

◆圧倒的に産業保健従事者が少ない東北地方

―産業医という道を選択した理由を教えていただけますか?

産業医になることを明確に決めたのは、大学を卒業してからでした。臨床研修は、忙しい病院を選択して、救急医療の最前線でやっていましたが、学生時代に予防医学について触れる機会が比較的多かったため、救急現場で「この患者さんに対して、重篤な疾病になる前に、もっとできたことがあるのではないか」という発想にいたることが頻繁にありました。

産業医は、企業の中で従業員に対して、治療が必要になる前の介入ができます。臨床現場での課題を、産業医となって解決したいと考えるようになり、産業医の道を選択しました。

そして3年間の臨床研修の後に、産業医科大学での産業医研修を修了し、地元宮城県で産業医として活動を始めました。

―なぜ地元の宮城県に戻ろうと思ったのですか?

東京に比べて地方では、産業保健に関わっている人の数が圧倒的に少ないです。そのため、比較的産業保健に従事している人が多い東京よりも、宮城県で産業保健に取り組んだほうが、より自分の存在意義があるのではないかと思いました。

◆健康な人に、いかにして健康に興味を持ってもらうか

―具体的にはどのような取り組みをされているのですか?

現在、リコーグループの東北地区全域を担当しているので、東北地方にある営業所や生産拠点の工場に出向いて現場を見たり産業医面談などを行ったりしています。今日は宮城県の営業所、明日は岩手県の工場、といったように毎日のように出向く先が変わるので、リコーグループの中のさまざまな会社の嘱託産業医をしているような感覚ですね。

他には、毎月1回、安全衛生委員会に出席して産業医講話を行っています。10分程度の時間をいただき、資料を見せながら毎回違ったテーマの話題提供をしています。最近では、朝会でも時間をもらって従業員約200名の前でも健康に関連する話をさせてもらいました。

―現在、産業医として活動している中で、どのようなことが課題でしょうか?

どの企業の産業医も同様の課題感を持っていると思いますが、やはり、今健康な従業員に、いかに自分の健康について考えてもらうかですね。

安全衛生委員会で話題提供をしても、今健康な人にはあまり響きません。また、講話の内容を議事録に残して発信しても、全ての従業員が目を通してくれるわけではありません。社員食堂やオフィスフロアのデジタルサイネージで講話の資料を映してもらい、従業員の目に触れる仕掛けをしていますが、どこまで効果が出ているのかはまだ分かりません。

健診で引っかかった人は産業医面談に呼び、1対1で話をできます。しかしながら、健診で引っかからない人たちのヘルスリテラシーの底上げは簡単にはいきません。今お話した講話や、朝会での発信などを地道に続けるしかないと思っています。健康な人にも自分の健康に興味を持ってもらうために試行錯誤することは、私にとっては非常にやりがいを感じられる面白い取り組みですね。

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医師プロフィール

五十嵐 侑 産業保健

株式会社リコー 産業医
宮城県出身。産業医科大学を卒業後、札幌東徳洲会病院、北海道大学病院、沖縄南部徳洲会病院にて臨床研修、産業医科大学産業医実務研修センターにて産業医研修を受けたのちに、製造業の産業医を経て、2017年より現職。東北大学大学院で社会人大学院生として研究活動も行う。

五十嵐 侑
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