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都市部に23時まで開院しているクリニックをつくった理由

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東京ベイ市川浦安医療センター救急集中治療科の立ち上げメンバーだった嘉村洋志先生と瀬田宏哉先生は、2018年4月、東京・中目黒に23時まで開院しているロコクニック中目黒を開業しました。「次世代の赤ひげ先生を目指す」と話すお二人は、なぜ、クリニックの開業に踏み切ったのでしょうか?

◆平日23時まで開いているクリニックにした理由

―現在はどのような活動をしているのでしょうか?

嘉村:
東急東横線中目黒駅から徒歩4分のところに、平日23時まで開いているクリニックを開院しています。ちょうど2018年4月開院だったので、半年ちょっと経ちましたね。「次世代の赤ひげ先生」をモットーに、自分たちの救急医というバックグラウンドも活かしながら、プライマリ・ケアそしてアージェント・ケアを提供しています。

「次世代の」と言っているのは、いわゆる「赤ひげ先生」にイメージされる診療のみならず、ITも活用しながら、幅広い世代の地域の人たちと共に、予防医療も含めて健康課題に取り組んでいきたい、という思いからです。

当院は平日は23時まで、土日も9時から14時まで開院しています。また、内科、外科、小児科、心療内科、訪問診療を標榜しているので、慢性疾患のある患者さん、カウンセリングのような対応が求められる患者さん、お子さんも来ます。夜間は救急外来に来るような、軽症な怪我や急な発熱、腹痛などの患者さんが受診しています。

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―その背景にはどのような課題感があったのでしょうか?

嘉村:
私は、それまでER型救急の現場で働いてきました。その中で、救急部は1つの病院に所属しているのですが、もっと広域的な視点を持つべきではないか、と感じていました。やはり組織の中の1つの部門だと、ベッドの空き状況や、その時診られる医師がいるかなど、病院のキャパシティによって、救急搬送の受け入れが制限される部分がありました。

そして特に都市部では、複数の救急病院があるにもかかわらず、遠方から搬送されてくる患者さんもいました。患者さんが不利益をこうむっているのはもちろん、救急医療従事者も「あっちの病院のほうが近いはずなのに、あの病院は全然救急車取らない」と、お互いに近隣病院に対する不満を持っていたと思います。そうではなく、お互いに協力できるような、新しい救急医療のシステムが必要なのではないかと考えるようになりました。

瀬田:
嘉村が言うように、組織の中だと、やりたいこととできることにかい離があって、それにジレンマを感じていました。どんな医師でも診られそうな軽症にもかかわらず、1時間も救急車で運ばれてくる患者さんがいたことは1度や2度ではありません。

あとは、もともと私たちは2人とも、もっと患者さんとの距離感が近いところで医療をしたいという思いがありました。そのため、勤務医時代から地域のお祭りにブースを出展したりイベント救護を担当したり、企業に行って医療にまつわる講演をしたりして、積極的に病院外に出てきました。何かあってから病院にかかるのではなく、もっと早い段階から健康に関心を持ってもらえるようなアプローチをしたいと思っていました。

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―開業を決めた時から、今のスタイルにすることを考えていたのですか?

嘉村:
東京ベイ浦安市川医療センターの救急集中治療科に赴任してから、3~4年後に開業することは決めましたが、当初は、今のスタイルにしようとは全く思っていませんでした。最初は、アメリカにあるフリースタンディングERという、独立したER専門のクリニックのようなスタイルを考えていました。そのため、もう少し広いクリニックを構えて、救急車の受け入れも自分たちで行って、緊急入院が必要な患者さん以外は、自分たちの病院で完結できるようなシステムにしようと考えていました。

瀬田:
今当院がある場所を見つけたあとに、スタイルについては柔軟に考えていきましたね。最初は、朝まで開けていることも考えましたが、持続可能性や実際の疾患発生状況などを慎重に検討した結果、平日は23時までというスタイルになりました。

嘉村:
というのも、救急医療の現場は準夜帯と呼ばれる17時から23時が最も混んでいました。街のクリニックが閉まってしまい、仕事などのために日中受診できなかった方々が受診するからです。救急車の受け入れはできなくても、中軽症の患者さんを当院で診ることで、病院の救急医療従事者の疲弊も軽減できますし、うまく棲み分けできて、新しい救急医療モデルをつくれるかもしれないと思いました。

瀬田:
構想よりもクリニックは小さくなりましたが、その分、可能性は広がったと思っています。院内は、他の外来クリニックと比較しても小さいと思いますが、だからこそ例えば、診察室に必要最低限のものしか置いていません。小さなお子さんが触ったら危ないものがないので、親御さんは気を遣わずにすみます。また、診察室を計6つ作って、そこを医師が行ったり来たりして診療するスタイルにしました。そのため、患者さんは診察室内で受診を待てるので、感染症の方の隔離効果もありますし、プライバシーも保たれます。そして、診察室内のベンチはそのまま診察台にもなるので、患者さんが楽な体勢で待つことができます。ある程度の広さを確保できていたら、ここまで工夫を凝らさなかったかもしれません。

また、救急色が強くなっていないので、ちょっとした風邪の患者さんや慢性疾患の患者さんも来てくれていますし、小児科、心療内科もできています。救急を前面に出していたら、カバーする疾患が狭まっていたと思います。ですから今は、このスタイルで良かったと思っています。

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医師プロフィール

嘉村 洋志 救急医

ロコクリニック中目黒 共同代表医師
2005年3月長崎大学医学部卒業、長崎大学熱研内科医局員。都内の救命センターを中心に救急医療に従事。東京ベイ市川浦安医療センター救急集中治療科に勤務ののち、2018年4月より現職。

嘉村 洋志

瀬田 宏哉 救急医

ロコクリニック中目黒 共同代表医師
2008年東海大学医学部卒業。都内の医療機関で小児科や心療内科、家庭医療、在宅診療など幅広く研鑽を積む。東京医療センター脳神経外科、東京ベイ市川浦安医療センター救急集中治療科を経て、2018年4月より現職。

瀬田 宏哉
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