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WHOで途上国の医療制度改革を支援する

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医師10年目の田中豪人先生は、現在WHO本部に勤務しています。学生時代の国際交流やバックパッカーの経験から国際保健分野での活動を志し、日本を飛び出しました。アメリカで公衆衛生学修士号を取得後、WHOの門を叩いた田中先生。国際保健にかける思いと、これから海外へ挑戦する医師たちへのメッセージを伺いました。

◆「生活の一部」だけでは根本的な解決にならない

―なぜ国際保健に興味を持ったのですか?

海外で働きたいという漠然とした思いは学生時代からずっとあり、大学では国際交流のサークルに入ったり、バックパックを背負って海外を旅したりしていました。途上国の人々の暮らしや、必ずしも十分とは言えない保健医療事情を目の当たりにし、次第に国際保健の分野を意識するようになりました。

ただ、初期研修の頃はとても忙しく、将来の夢はとりあえず忘れて、ただひたすら目の前の臨床業務をこなすような状況で――。しかし医師3年目の終わり頃から、再び私は将来何がしたいのか考えるようになり、国際保健がやりたかったことを思い出し、その道に進もうと改めて決意しました。そして医師4年目からは、国際保健に強い海外の公衆衛生大学院へ進学するために準備を始めました。

国際保健でも国内の医療でもそうですが、医療を受けられることはあくまでも人の「生活の一部」でしかないので、医療だけを良くしても、人が抱える問題の根本的な解決にはならない場合があると思っています。人の健康は、社会経済的要因やその人の生活環境の影響を強く受けてしまうので、医療の枠の外側にある問題にも配慮できるような医師にならなければいけないと思いました。

◆間接的な立場から、途上国の医療制度改革を支援

―大学院へ進学するにあたって苦労したことは何ですか?

出願に際して、英語の試験結果を提出する必要があり、英語のスコアを上げるのがとても大変でした。私は帰国子女でない上に、働きながら勉強しなければならなかったので、なかなか勉強時間が確保できず苦労しましたね。

後期研修の期間は医師にとって、臨床技術を磨くのにとても貴重な時間なので、出来る限り医学の勉強に時間を費やしたいと思うものです。しかし、そればかりに時間を使ってしまうと、留学してゆくゆくは海外で働くという夢が遠のいてしまいます。そこはジレンマがありましたが、折り合いをつけて勉強していました。

―WHOで働くことになった経緯を教えてください。

私が取り組みたかったのはUHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)という分野。国際機関でこの分野に携わるならWHOが最もふさわしいと思い、外務省が主催しているJPO(ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー)派遣制度を通じてWHOへの派遣を希望し、2018年から勤務しています。UHCとは「すべての人が、十分な質の健康増進・予防・治療・リハビリ・緩和等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる」ことで、それを達成するためには国の医療制度を整備しなければなりません。こうした活動の主体は各国の保健省ですので、保健省と1番強いつながりを持っているWHOも重要な役割を担っています。

国際保健にもさまざまな関わり方があり、自ら現地に行って活動する機関もあります。しかし結局我々はよそ者なので、いつかその国を去りますし、外国からの支援者が去った後に現地の人々の健康状態が元に戻ってしまったら、支援をした意味がありません。最終的には、現地の人たちが自らの手で医療を良くしようとすることが求められます。そのため、WHOのように途上国へ間接的に関わり、その国の保健省と2人3脚で医療制度を良くしていく仕事がしたいと思ったのです。

WHOで働くために、学生時代から国際保健の業界で働いている人と積極的にネットワーキングする機会を持つようにしていました。そこでツテをつくっていたことが、WHOカンボジア国事務所でのインターンシップの機会を得るのにつながりました。JPOの選考に選ばれた理由の1つにカンボジアでのインターンシップ経験があったからだと思います。

 ―WHOでは現在、どのような活動をされているのですか?

ジュネーブにある本部での活動と、マレーシアにある国事務所での活動の2つがあります。

本部では裏方の仕事が多かったです。具体的には、国や財団などからの拠出金を集めて、各国にあるWHOの国事務所へ資金を配分し、UHC達成に向けて医療制度を改革を推進してもらう、その一連の流れをチームで管理していました。また、その資金の利用状況や成果を拠出国に報告する仕事も行っていました。

マレーシアでは、国事務所の一員としてマレーシア保健省の方々を実際に支援する仕事をしていました。医療制度をより良いものにするために、保健省の職員と共に議論しながら、必要な技術協力を行なっています。本部の仕事と国事務所の仕事の両方にやりがいを感じていますが、直接国に関わり、私の仕事が医療制度の発展につながっているのが見えやすい国事務所の仕事に特にやりがいを感じています。

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医師プロフィール

田中 豪人 家庭医

東京都出身。2010年、北里大学医学部を卒業。日本での初期研修および家庭医療後期研修を経て、2015年から米国エモリー大学ロリンス公衆衛生大学院に留学し、2017年、公衆衛生学修士課程を修了。同大在学中にWHOカンボジア国事務所にてインターンシップを行う。帰国後、国立国際医療研究センター国際医療協力局での勤務を経て、2018年からJPO派遣制度を通じWHO本部にて勤務。

田中 豪人
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