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治療アプリ®を通じて健康水準を向上させたい

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難民を支援するNGOへの参加、そしてグローバル企業での経営企画室を経験した後、医師への道を志し、滋賀医科大学に編入した谷川朋幸先生。聖路加国際病院呼吸器内科での後期研修後、大学院在学中にオファーをもらった株式会社CureAppに入社し、最高医療責任者(CMO)として臨床試験の企画や治験臨床開発、そして薬事申請など幅広い業務に携わっています。異色のキャリアをもつ谷川朋幸先生は、どのような信念をもってキャリアを歩んできたのか。今後の展望についても伺いました。

◆サービスを提供できる疾患領域を広げていく

-現在の取り組みについて教えてください。

CureAppという医療系ITベンチャー企業に在籍し、最高医療責任者(CMO)を務めています。この会社では、従来の医薬品・ハードウェア医療機器では対応しきれなかった病気を治すために、医学的エビデンスに基づいたソフトウェア医療機器「治療アプリ®」を開発しています。

現在は、医療機関向けのニコチン依存症治療用アプリ「CureApp SC」の治験後の承認・保険適用に向けた手続きや、同じく医療機関向けの非アルコール性脂肪肝炎(NASH)治療用アプリの臨床試験や高血圧治療用アプリの治験を行っています。私が所管している業務は、臨床開発や薬事業務です。国内では初となる治療に用いられるアプリでの保険適用を目指しているので、そこに時間を割くことが増えました。

その他に、週に1回ペースで、訪問診療専門クリニックで臨床も行っています。

ー会社に勤務しながら、臨床医としても活動するのは大変ではないですか?

訪問診療では医療資源が限られているため、自分の力量を試すことができる良い機会だと思っています。また、患者さんの家族のニーズをしっかり把握し、期待値を調整していくことなど、関連する人たち全体の目線を合わせていくプロセスは、今のアプリ開発の業務にも活かせている部分もあります。

CureAppでは、禁煙治療用アプリの他に、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)や高血圧に対するアプリ開発も進めていますが、まだまだ対象とする疾患領域を広げられると思います。なかには、患者さんだけでなく、ご家族や医師に対して貢献するサービスも創出できると思うので、1つひとつできることから実現していきたいと考えています。

◆医療を変えていける可能性を感じて

-最初は医師になろうとは考えていなかったとお聞きしましたが――。

そうですね。高校の頃は、先生に薦めてもらった書籍などの影響もあり、公衆衛生に興味がありました。日本は恵まれた環境ですが、医療水準が低いアフリカのような国々では多くの人がきちんとした医療を受けられていません。非常にアンフェアだなと感じていました。そこで公衆衛生に携われる国家公務員を目指し、東京大学へ進学しました。

大学時代は、NGOに興味があったので、内定が決まっていた会社に就職するまでの半年間、アフリカ各国の保健医療や難民支援を行っているNGO「ADEO」にてインターンシップに参加し、ウガンダでボランティア活動を行いました。現地では、医療のバックグラウンドがない私は、主には物資・燃料の管理を担当しました。

大学を卒業して民間企業に就職したのは、志望していたNGOではスキルをもつ即戦力の中途入社者しか募集がないので、まずは自分の強みになるスキルを身に付けられると考えたからです。就職先のグローバル企業では経営企画室に配属され、数字でマネジメントをしていくスキルを学ぶことができました。

ー医師になろうと考えたのは、どのようなきっかけですか?

経営企画室では知的興奮は得られるものの、もともと自分がやりたかった国際保健とは直接関係がない仕事だったので、モヤモヤした日々を過ごしていたんです。自分のやりたいことを改めて考えてみた時に、やはり医療の道へ進むことだという結論に行き着きました。

ウガンダでは、医師は環境を変えることができるくらい特別な存在でしたし、祖父や祖母、叔父など周りにも医師が多く、人間には大事なものがさまざまあるけど、やはり重要なのは医療だという価値観の家庭で育ってきたことも影響したと思います。思い返せば高校時代は、周囲からの「あなたも医師になるんでしょ」という見えないプレッシャーに反発して、医師という仕事を考えないようにしていたのかもしれません。

その後、3年間で仕事を辞め、滋賀医科大学に学士編入しました。初期研修は、ちょうど地域ジェネラリストブログラムが新設された亀田総合病院を選び、1期生として入職しました。地域医療に興味があったのも一因ですが、自分の想いや考えを反映させながら、一緒にプログラムを作っていくことができる自主性のある文化に興味があり選択しました。また、先生たちも教育に熱心で、全人的な医療を体現してきた方々だったのも魅力でした。

後期研修は臓器別の専門科目を経験したほうが、日本ではいい仕事ができると思い、聖路加国際病院の呼吸器内科を選びました。医師を目指した一番の理由が国際保健だったので、初期研修修了後に留学して公衆衛生に進むことも考えたのですが、臨床があまりに楽しくてなかなか途中で辞める勇気が持てず、そのまま臨床医として勤務を続けました。

後期研修修了後に、聖路加国際大学大学院で公衆衛生研究科が新設されたのを知り、チャンスだと思い入学。並行して、アルバイトで訪問診療もスタート。自分の力量を試すためにもやってみたいと思っていたので、クリニックの院長からお声がけをいただいたときは、二つ返事でお引き受けしました。

-その後、CureAppに入社されますが、どのような理由から選ばれたのですか?

大学院在籍中にCureAppの記事を見て、ユニークな会社があると思い、求人サイトで「ブックマーク」をしていました。すると直接CureApp社長の佐竹から、「当社で臨床研究してみませんか?」というオファーをもらったのがきっかけです。CureAppに決めた理由は、掲げているビジョンやバリューに可能性を感じたことが1つ。あと、働いている人たちを見て、自分もここで仕事に没頭してみたいと思うようになったからです。

正直、最初はアプリで病気を治すことには、半信半疑なところもありました。実際、認知されていない治療法ですし、ソフトウェアを使って人の健康水準を上げられることを立証している会社は、少なくとも日本国内では存在しないですから。

しかし、臨床研究を重ねていくなかで、治療用アプリを使うと禁煙の成功率が高くなるのがデータで実証されていくのを体感した時に、確信が持てるようになりました。そして、自分もそこに参画して、「医療を変えていきたい」という想いが強くなっていきました。「本当に新しい医療を創るんだ」という同じ志をもった仲間たちと、今までにないものに挑戦できるのは、毎日ワクワクしますし、楽しいですね。

薬事業務や臨床開発などは、これまで経験がないので手探りで行っていることが多いですが、それでもサラリーマンとして働いてきた経験は、間違いなく、今の仕事に活きています。たとえば、私たちの「治療アプリ®」を活用される患者さんは、会社勤めをしているビジネスパーソンだったりするので、サービスを考える際に設定するペルソナもイメージしやすかったですね。また、医師として医療現場を経験し理解しているので、医療向けサービスを展開する際、こんなふうにサービスを届けた方が使ってもらいやすいとアドバイスできるなど、今の仕事に貢献できる点は多いと思います。

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医師プロフィール

谷川 朋幸 呼吸器内科

大阪府出身。東京大学法学部卒業後、アフリカでの難民支援NGOにインターンとして参加し、グローバル企業へ入社。2011年滋賀医科大学医学部卒。2013年亀田総合病院にて初期臨床研修修了。聖路加国際病院呼吸器内科を経て、2019年聖路加国際大学公衆衛生大学院修了。大学院在学中に株式会社CureAppに関わり、同年4月に入社、最高医療責任者(CMO)として現在に至る。

谷川 朋幸
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