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千葉県鎌ケ谷市で在宅医療の土台をつくる

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東京医療センター血液内科専門医を取得後、医師8年目で「くぬぎ山ファミリークリニック」の院長として、在宅医療に取り組み始めた細田亮先生。もともとは1年限定で院長職を引き受けましたが、気付けば5年も続けることに。その背景にはある課題感がありました。

◆スピリチュアルペインの軽減を模索

―現在どのような取り組みをされていますか?

2015年から千葉県鎌ケ谷市にある「くぬぎ山ファミリークリニック」の院長として、訪問診療に取り組んでいます。在宅や施設での終末期医療が中心で、特にスピリチュアルペインを軽減する取り組みを模索しています。現在は臨床宗教師に非常勤で来てもらい、患者さんのもとを訪れてもらっています。血液内科研修時代に診ていた患者さんのことを振り返ってみても、スピリチュアルペインは、医療だけでは解決できないと思っていました。それを埋めてくれる存在の1つが、臨床宗教師なのではないかと思い声をかけさせてもらいました。

臨床宗教師の方に参加してもらうようになってまず思ったのは、認知症も内科系の慢性疾患もないけれど、足腰が悪くて老人ホームに入居している高齢の方にとって、大きな意義があるのではないかということ。目に見える成果が出ているわけではありませんが、深い苦悩を抱えているものの、そのことを話せる相手がいない高齢の方の中にニーズがあると感じています。

老人ホームに入居されている方で認知症の方は多く、このように足腰だけ悪い高齢の方は話し相手がおらず、とても苦悩されていることがあります。基本的に元気ですから、私たちの診察もすぐに終わってしまい、あまり話し相手になることができません。介護士の方々も忙しく時間がないので、ゆっくり話を聞いてあげることができません。このような方の話し相手となり、苦悩、スピリチュアルペインを和らげることができるのではないかと思っています。

◆千葉県鎌ケ谷市「これは放っておけない」

―もともとは、血液内科専門医を取得されています。

そうですね。血液内科に興味を持ったのは、学生時代の病院実習の時でした。血液内科を回った際「確立された骨髄移植という治療法でも、治療が成功するかどうかは神のみぞ知る領域なんだよ」と言われて、治療の奥深さといいますか、命の神秘を目の当たりにしました。もともと医師を志したのが、マンガ「火の鳥」を読んで、命とは何かを考えるようになり、命に関わる仕事がしたいと思ったのがきっかけでした。そのため、血液内科は自分に合っているのではないかと思ったのです。

また、血液内科では患者さんの入院期間が長期に渡ることが多いので、1人ひとりと病気のことだけでなく1人の人としてじっくり接することができる点も、自分の肌に合っていると思い、血液内科の道に進むことを決めました。

―2015年、くぬぎ山ファミリークリニックの院長に就任されています。どのような経緯で院長に就任したのですか?

東京医療センターで初期研修を修了後、そのまま血液内科の後期研修プログラムを選択して専門医を取得しました。次のキャリアを考えた時に、そのままスタッフとして残りたいとも一度は考えたのですが、外の世界を見てみたいとも思い、後者を選択することにしたのです。

そして次の勤務先を探している時に、知人の看護師さんから「在宅診療所の院長をやってみないか?」と声をかけてもらったのです。当時はまだ、今ほど在宅診療が浸透していない時期。私は人がやっていないことをやることが好きな性格なので、面白そうだと好奇心がくすぐられ、引き受けることにしたんです。

その看護師さんとは人生観や死生観が合うと思っていたので、この人となら一緒に働けると思ったことも後押しになりましたね。そして、人の出会いや縁を大事にするタイプなので「このような話が今のタイミングで来たということは、そういうタイミングなのかな」と思い、飛び込んでみることに決めました。

―医師8年目での院長就任は早い方だと思います。若さゆえの不安や葛藤はなかったのですか?

実は、最初は1年限定で引き受けたんです。不安がなかったと言うとウソになりますが、「1年だけなら何とかなるだろう」との思いがあったので、あまり敷居は高く感じていませんでした。正直、自分のその次のキャリアの準備期間、くらいに捉えていましたね。

―1年限定だったのに5年も続けることになったのはなぜでしょうか?

やりがいと課題感からです。

病院に勤務していた頃、どうしても患者さんの本音が見えていない感覚がありました。しかし在宅診療は、まさに患者さんのホームで医療を提供します。自分の提示する治療に合わせてもらうのではなく、患者さんが望んでいることを、医師としてのプロフェッショナリズムを用いて実現していく。このことに大きなやりがいを感じていました。

一方の課題は、人口10万人都市にもかかわらず医療資源が少ないこと。例えば、市内にがん治療や心筋梗塞の治療ができる病院がなく、治療のためには市外に行かなければなりません。そして治療がない方の在宅医療にもニーズはあったのですが、くぬぎ山ファミリークリニックができるまでは、在宅医療に専門で取り組んでいる医療機関が1つしかありませんでした。

まわりには船橋市や市川市、柏市、松戸市など大きなベッドタウンがあります。これらの地域では医療体制が比較的整い、在宅医療もある程度浸透していて、人生会議などの啓発も進んでいましたが、鎌ケ谷市だけは取り残されたようになっていました。「これは放っておけない」と思ったのです。

また先程も話したように、私は人と違ったことがやりたいタイプ。すでに在宅医療が浸透している地域でしたら、引き受けなかったと思います。しかし在宅医療も浸透していなかったので、創意工夫で自由にさまざまな取り組みができる点も魅力に感じて、気付けば5年も経ってしまいました。

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医師プロフィール

細田 亮 血液内科・総合内科

東京都出身。2008年千葉大学医学部を卒業。国立病院機構東京医療センターにて初期研修、血液内科研修および総合内科研修を修了。2015年より千葉県鎌ケ谷市「くぬぎ山ファミリークリニック」院長を務め、現在に至る。

細田 亮
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