なぜ、寝ないと太るのか?
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なぜ寝ないと太るのか? これについてはさまざまなデータが出てきています。
寝不足になると、食欲を抑えるレプチンという体内物質が減って、食欲を高めるグレリンという体内物質が増えることがわかっています。そこでますます食欲が高まり太るという図式を描くことができます。これが原因なのか結果なのかはわかりませんが、このような身体の中の物質が寝不足で変化することは確かです。
1週間の寝不足で700を超える遺伝子が影響を受けることもわかっています。これはヒトが持っている遺伝子全体の約3%に当たります。また寝不足は脳にも影響します。
寝不足では理性をつかさどる前頭前野の働きが低下して、情動に関わる扁桃体の働きが強まり、その結果、食欲が理性に負けて食べてしまうこととなり、これが寝ないと太ることに関係しています。さらに寝不足では健康食品よりも高カロリー食を選びがちであることもわかっており、ここにも理性と情動が関係しているとの指摘があります。
寝不足の場合は長い時間起きているので、どうしても夜に食べる機会が増えますが、本来寝ているべき時間に食べることで太りやすくなることも指摘されています。この背景には、夜になると、消化酵素の活性が高くなること、脂肪酸の合成に関わる遺伝子の活性が高くなること、脂肪の分解を阻止して合成を促進するインスリンの分泌が上昇すること、インスリンの働きを抑える成長ホルモンの分泌が夜食によって抑えられること(=インスリンの働きが高まる)等々が関係しているとの指摘があります。
日本の研究者が興味深い研究成果を発表しています。40 歳代と 50 歳代の肥満のない男性 2632人を対象とした4年の間隔をおいた質問紙による追跡調査の分析結果によると、4年後に肥満となる危険は、睡眠時間が6時間未満の方では睡眠時間が7時間台の方に比べ 2.55 倍であり、まさに「寝ないと太る」でした。
興味深いのは、この太る危険は食事に関する注意(脂っこい食事を好む、朝食抜き、間食、外食)を行っているか否かという点を考慮に入れても、睡眠時間が6時間未満の方が4年後に肥満となる危険は睡眠時間が7時間台の方に比べ 2.46 倍であったというのです。つまり、脂っこい食事を好む、朝食抜き、間食すること、外食することは、睡眠時間が短いことほどには肥満に影響しなかった、と結論しているのです。肥満予防における眠りの重要度は相当に高いことがわかります。
医師プロフィール
神山 潤(こうやま じゅん) 小児科
公益社団法人地域医療振興協会東京ベイ浦安市川医療センター CEO(管理者)
昭和56年東京医科歯科大学医学部卒、平成12年同大学大学院助教授(小児科)、平成16年東京北社会保険病院副院長、平成20年同院長、平成21年4月現職。公益社団法人地域医療振興協会理事、日本子ども健康科学会理事、日本小児神経学会評議員、日本睡眠学会理事。主な著書「睡眠の生理と臨床」(診断と治療社)、「子どもの睡眠」(芽ばえ社)、「夜ふかしの脳科学」(中公ラクレ新書)、「ねむりのはなし」(共訳、福音館)、「ねむり学入門」(新曜社)、睡眠関連病態(監修、中山書店)、小児科Wisdom Books子どもの睡眠外来(中山書店)「四快(よんかい)のすすめ」(編、新曜社)、「赤ちゃんにもママにも優しい安眠ガイド」(監修、かんき出版)、「イラストでわかる! 赤ちゃんにもママにも優しい安眠ガイド 」(監修、かんき出版)、「しらべよう!実行しよう!よいすいみん1-3」(監修、岩崎書店、こどもくらぶ編集)等。