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腸内細菌がいると脳も安らぐ?

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記事

除菌などとの言葉が流行ってますが、腸内細菌は静かに身体と心の調整役として頑張ってくれています。自分の腸内細菌に、ちょっとだけ「ありがとう」と言いたくなってしまう研究です。

 

近年注目を浴びている腸内細菌。私達のお腹の中には約100兆個ほどの腸内細菌がおり、総量は約1.5kgと言われています。ヒトの身体の全細胞数は約60兆個程であり、なんと、ヒトの身体の細胞より多い数の細菌が、身体の中に住んでいるのです。

日本は昔から、菌の培養技術や腸内細菌製剤、そして乳酸菌飲料など、腸内細菌についてとても先進的でした。最近では、健康な人の便を病気の人に移植 し、病気を治すという方法も提唱され始めています。このように、腸内細菌は身体に良い働きをするものもあれば、病原性大腸菌のように、身体に悪い影響を及ぼす菌もあります。

◆腸内細菌は身体の様々な機能にも関係

腸内細菌のことを「腸内フローラ」とも呼びます。「フローラ」はお花畑を表す言葉で、菌の多様性を表していると言われます。膨大な数の腸内細菌が、 お腹の調子を整える以外に、免疫調整作用やアレルギー、そして肥満との関連など、様々な身体の機能に影響することがわかってきました。

更に、腸内細菌が脳の働きにも影響していることが報告されて始めています。まるで映画の”Men in Black”のように、ヒト型ロボットの中に宇宙人が住み着いて、ヒトを操作している…。その上感情も調整しているとしたら…。

◆腸内細菌が脳機能にも影響?

SFのような話はさておき、もし腸内細菌が身体にいない「無菌」の状態だったら、精神的ストレスに弱いのでしょうか。また、生まれた時は無菌でも、若い時に腸内細菌を入れてあげると、脳の働きは変化するのでしょうか。さらには普段は静かに腸に住んでいる細菌が、脳にも指令をだしているのでしょうか。腸内細菌と脳と腸の関係を解いた、ワクワクする論文をご紹介します。

ストレス刺激によるストレス関連ホルモン反応は、微生物が調整している。

Postnatal microbial colonization programs the hypothalamic-pituitary adrenal system for stress response in mice.

J Physiol. 2004;558:263-75.

<マウス>腸内細菌環境別の3種類

1)無菌マウス

2)PFマウス(特定された微生物がいない)

3)ノトバイオートマウス(細菌叢がわかっている)

<方法・結果>

・拘束ストレスに対するストレス関連ホルモンの反応

9週齢のマウスにストレスを与えると、無菌マウスはSPFマウスよりもストレス関連ホルモンである、ACTH(副腎皮質放出ホルモン)とコルチゾール値が高値であった。

→無菌マウスはストレスに弱い

・BDNF(脳由来神経栄養因子)の脳での発現

脳の神経発達に重要なBDNFの発現が、脳皮質と海馬において、無菌マウスの方がSPFマウスより少なかった。(これらの脳は認知機能に関連する場所といわれている)

→腸内細菌の有無が脳神経細胞にも影響

・無菌マウスに、腸内細菌を入れるとストレス反応性は変わるのか

6,8,14週の無菌マウスにそれぞれSPFマウスの便を入れて、SPFマウス様の腸内 環境とした。前者2種類について9週齢時、後者を17週齢時に拘束ストレス刺激を与えた所、6週齢時に糞便移植したマウスのみ、ストレス関連ホルモン (ACTH、コルチゾール)値はSPFマウスと同等に低下した。

→腸内細菌により、脳の環境適応は変化する。しかし若くて脳の可塑性を有する時期に限定

 (可塑性:生物が環境条件に応じて変化させる能力のこと)

この研究で、腸内細菌が、ストレス反応を和らげてくれることがわかりました。マウスは生まれてから約3週間で母マウスから離乳します。今回研究で使用された生後6週齢~14週齢は、ヒトでいう10代に相当します。ヒトでは詳しいことはわかっていませんが、若いうちに様々な菌と触れ合っておくと、腸だけでなく、心にも良い影響を及ぼす可能性が考えられます。

◆私達の日常生活において、菌は心と身体の働きを助けてくれる

アレルギー疾患や免疫病の幾つかは、アフリカや農村地帯などで患者が少ないことがわかっています。小さいうちに様々な微生物に触れることで、腸内細菌などの多様性を生み出し、免疫の寛容性を広げる可能性が言われています。しかし、ある種の菌では感染症に陥ることもあるので、難しい部分もあるかもしれ ません。

私達も生まれた時は無菌に近い状況です。知らずのうちに菌に助けられて生活しています。これら菌と身体のクロストークの研究はどんどん進んでいます。今後更に、腸内細菌と身体に関する研究もご紹介していきます。

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医師プロフィール

田中 由佳里 消化器内科

2006年新潟大学卒業、新潟大学消化器内科入局。機能性消化管疾患の研究のため、東北大学大学院に進学。世界基準作成委員会(ROME委員会)メンバーである福土審教授に師事。2013年大学院卒業・医学博士取得。現在は東北大学東北メディカル・メガバンク機構地域医療支援部門助教。被災地で地域医療支援を行うと同時に、ストレスと過敏性腸症候群の関連をテーマに研究に従事。この研究を通じて、お腹と上手く付き合えるヒントを紹介する「おなかハッカー」というサイトを運営。また患者の日常生活課題について多職種連携による解決を目指している。
【おなかハッカー】

http://abdominalhacker.jp/

田中 由佳里
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