体の中の被ばく量検査
福島で医療を行うことになった経緯を教えてください。
震災があった後、被災地支援のため、2011年4月に福島県の太平洋側沿岸地域、浜通りに入りました。2011年5月から外来診療を始め、相馬市の相馬中央病院、南相馬市立総合病院で非常勤内科医を務めています。都内のクリニックにも在籍していますので、東京と福島を行ったりきたりの生活を続けている状態ですね。
南相馬市立総合病院に2011年7月に、「ホールボディカウンター」という、放射性セシウムがどの程度体内に蓄積されてしまっているかを調べる検査機器が導入されました。そこから現在まで継続して内部被ばく検査を行っています。
内部被ばくは、一般的にいう「被ばく」とはどう違うのでしょうか?
報道番組などの影響で、「被ばく」という言葉は多くの人が知るものになっています。被ばくには「外部被ばく」と「内部被ばく」の2種類があります。外部被ばくは体の外に存在する放射性物質が放出する放射線を浴びることをいいます。多くの方の被ばくイメージはこちらが主なものではないでしょうか。もうひとつが内部被ばくで、これは体内に取り込まれた放射性物質により体の中から被ばくしていく状態のことをいいます。
内部被ばくに関する正確な情報が浸透していない現状
被ばく検査の結果には、どのような数値が出ていますか?
現状の検査器で体内からセシウムを検出する方はほとんどいません。南相馬市の99%の小中学生が検査を受けていますが、その全員から数値の検出がないことを確認しました。2011年の秋口から継続的に検査が行われていますが、体の中に取り入れた放射性物質による数値は下がっています。体内に取り入れられた放射性物質は、ある一定の期間をもって体の外に排出される性質を持っています。この結果から、現在福島に住んでいる方々にとって、現状の生活上で体に放射性物質を取り込むリスクはほとんど無いといえると思います。
このようなことはあまりメディアなどで放送されないので、福島県外の方たちは知ることが少ない情報なのかもしれませんね。
確かに震災後から、伝わってくる情報は減ってきているように感じます。現地では、みなさん情報共有はされているのでしょうか?
残念ながら、現地でも十分な情報共有には至っていないのが現状だと思います。震災から4年が経過していることもあり、さまざまな意味で現在の状況に慣れてしまい、徐々に熱が冷めてきている印象もあります。震災以降、報道や街のうわさなど、さまざまな方向から情報が入ってきましたので「どうせ自分は被ばくしているから」と投げやりになってしまっている方もいらっしゃいました。そのような方たちには検査後に時間を取り、お話をするなかで情報を共有できるように心がけています。
報道のなかで福島の原発事故は、チェルノブイリでの事故と比較されることが多くあります。患者さんからも「チェルノブイリでは事故から○年後に、急にがんの患者が増えたそうだから、自分もその頃が危険なのではないか?」などと話されることがあります。基本的にチェルノブイリ周辺では、森で野生のキノコを採ったり、果物を摘んだりと日本とは異なる食生活をしている方が多くいます。一方日本では大規模な除染が行われ、流通する食品にも細かく数値が設定された検査が行われました。それが内部被ばくへの大きな影響を抑えたと考えられます。また、多くのお母さんたちが内部被ばくに関しての情報を早くに持ち、リスクを下げたことが効果的だったと思われます。
皆に放射線の正しい知識を知ってほしい
今後の活動を教えてください。
継続して行っている、学校教育のお手伝いにも力を入れていきたいと考えています。子どもたちと話をすると親御さんの影響もあるのか、「もう自分は被ばくしているから、何をしても一緒だ」ということを口にする子がいます。検査結果をもとに今の状態で健康リスクはまず考えられず、今後も前向きに過ごしてほしいということを伝えています。また、「大人になっていくなかで、もしかしたら何らかの差別や嫌な思いをすることもあるかもしれない。でも、放射線について現状をしっかり理解して、それを必要なときに説明できるようになってほしい」ということです。
震災後の日本において検出された内部被ばくの程度は、50年前に世界中で核実験が行われていた頃の日本のものよりも低い数値であることがほとんどでした。温泉や花こう岩などの自然環境により、比較にならないほど線量が高い地域は世界中にたくさんあります。
子どものみならず私たち大人に関しても、放射線とはどういうものであるのか、どの程度の線量が世界的に平均な量で、どういう特質を持つものであるのかを知ることができる機会が増えるといいですね。もともと環境のなかに自然に存在するもの、飛行機に乗ったりレントゲン検査を受けたりすることで接してきたものであることを知ることで、日常生活を前向きに歩める人が増えるかもしれません。どんな場合であろうと私たちがしっかりと向き合い、お話をしながら進んでいく必要があるのだと思っています。
インタビュー・文 / 小松田 久美