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INTERVIEW

ニューハート・ワタナベ国際病院 総長

心臓外科

渡邊 剛(わたなべ ごう)

成功率99.5%を支える原動力は、患者さんを思う心

患者さんの体にやさしい手術を生み出し、世界初の手術を成功させ、新たな医療環境の開拓に尽力してきた心臓外科の名医がいます。渡邊剛先生は、手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」による心臓手術を日本で初めて行ったロボット手術の第一人者。41歳の若さで金沢大学の教授に就任した後は、当時患者死亡事故が続いていた東京医科大学の教授も兼任で務め、心臓血管外科の信頼を回復させました。
数々の難しい手術を成功させてきた陰には計り知れない努力と経験がありますが、それを支えるのは「患者さんに負担のかからない手術をしたい」「自分にできる最も良い手術をしたい」という思いです。その理想を実現させるため、2014年には「ニューハート・ワタナベ国際病院」を開設しました。渡邊先生の心臓手術の成功率は、全国平均の97%を大きく上回る99.5%。それに満足することなく、さらなる高みに挑戦し続ける渡邊先生の目標は「全ての人ができるだけ早く、歩いて家に帰れる心臓手術」です。

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「本当に良い医療」を世の中に問う

ブラックジャックに憧れて医師を目指したそうですね。

ブラックジャックは子どものころに読んで非常に感動した漫画の一つです。同級生の3分の1が東大に行く中学校に通っていましたので、自分も東大に行くんだろうなと思っていました。では東大に行って何をするか? 学校でも塾でも、周りには優秀な人たちがたくさんいました。自分が彼らに勝てる仕事は何だろうと考えていたときにブラックジャックに出会ったわけです。

ブラックジャックは三流の大学を出ているけれども世界一手術がうまくて、世界中の教授たちがその腕を認めている。そういう存在になれる仕事は外科医をおいて他にはないだろうと考えました。同じ医師であっても内科医では他の人との差がつけにくいだろうと、子どもながらに思ったんですね。心臓外科を選んだのはもっと後になってからでしたが、外科の中でも腕の差がつくのはきっと脳外科か心臓外科だろうから、そのどちらかに行こうということは決めていました。

教科書に載っていない手技も知っていて、自分の頭の中で考えた手術を思い通りに施すことができ、難しい状態の患者さんが治っていく。手術の真髄を知っているけれどもアウトローな存在。ブラックジャックのそういうところに魅力を感じていましたね。私自身も実際に大学教授を辞めているから、アウトローなんですよ。そういうマインドは子どものころからずっと持っているわけです。

なぜ大学教授を辞めようと思ったのですか?

旧態依然とした体制に疑問を感じ、教授になった後のかなり早い段階でもう次を見ていました。でも私を教授に選んでくれた人たちのことを思い、10年間はしゃかりきに、できるだけの奉仕をしようと決めました。

公務員でいた時はつらかったですね。他の病院へ1週間に1回手術の応援に行くと、行き過ぎだと注意される。お金が欲しくて行っているわけではなく、手術してほしいという患者さんがそこにいるから行くのだけれども、説明してもわかってもらえない。委員会や会議がいくつもあり、本当に必要かどうか首をかしげたくなるような仕事も多く、新しいことに取り組むにもいろいろと手続きが必要で非常に時間がかかります。やりたいことはたくさんあるのに、これでは生命時間が足りない……と、もどかしく思っていました。

それでも大学病院にいた間に、いくつかの新しい医療を行うことができました。一般的には全身麻酔で行っている心臓手術を胸部のみの局所麻酔で、患者さんの意識があり話もできる状態で行う「アウェイク手術」や、世界初となった完全内視鏡下での心臓手術、そして手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」の導入などです。

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新しい手術を行おうとした時には、批判を受けたこともあったと聞きました。

「危険な手術だ」「実験医療ではないか」など、大学の中や学会会場だけではなく同じ心臓外科医から言われたこともありましたが、つらさは全く感じませんでした。どうすれば患者さんの負担を減らせるか、どうすればもっと早く治せるかを考え続けて行き着いた手術ですが、相手には相手の哲学があります。大切なのは患者さんにとってより良い手術を行うことですので、それを障壁と感じることはありませんでした。

人工心肺を使用せず心臓を動かしたまま冠動脈バイパス手術を行う「オフポンプ手術」(心拍動下冠動脈バイパス手術、Off-Pump Coronary Artery Bypass:OPCAB)を始めた時は、外科学会で批判されたこともありました。しかしこれは後に外科の教科書にも載り、現在日本で冠動脈バイパス手術を受ける患者さんの約7割がこのオフポンプ手術を受けています。天皇陛下の冠動脈バイパス手術もオフポンプで行われました。ロボット手術やアウェイク手術はまだそこまでは行っていませんが、30年もすれば同じように標準化していくのではないでしょうか。

開業した現在はいかがですか?

自分が思った通りの医療を行い、世の中に対して発信や提案ができることは開業して非常に良かった点ですね。ダ・ヴィンチのようにまだ保険で認められていない医療を標準化して広めていくこともできますし、海外では当たり前になっているにもかかわらず日本ではまだ行われていない手術を行うこともできます。開業することで自分が良いと思う医療を世の中に問うことができるわけです。

 新しい手術を一から開発することは難しいだけでなく大変なことでもありますが、私はそれを全て大学でやってくることができました。これから先は患者さんがより良い手術を受けられるように、安全に行えるようになった新しい技術を実際の臨床の場に生かしていくことが私の仕事だと思っています。

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PROFILE

渡邊 剛(わたなべ ごう)

ニューハート・ワタナベ国際病院 総長

渡邊 剛(わたなべ ごう)

1984年金沢大学医学部卒業後、金沢大学附属病院第一外科に入局。1989年ドイツのハノーファー医科大学に留学、ドイツ心臓外科の父と呼ばれるハンス・G・ボルスト教授に学び、2年半で2000件の心臓手術を経験。チーフレジデントとして活躍し、日本人としては最年少(32歳)で心臓移植手術を執刀。1992年に帰国、金沢大学附属病院第一外科を経て、同年富山医科薬科大学医学部第一外科。1993年日本で初めて人工心肺を用いないOff-pump CABG(OPCAB)を成功させ、1998年には日本初となる局所麻酔による患者意識下での心臓手術「アウェイク手術」に成功。1999年世界で初めて完全内視鏡下での冠動脈バイパス手術に成功。2000年金沢大学医学部外科学第一講座(後の心肺・総合外科、現在は先進総合外科)主任教授。2005年手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」による心臓外科手術に日本で初めて成功。同年より2011年まで東京医科大学心臓外科教授を金沢大学教授と兼任。2008年日本ロボット外科学会を創立し、理事長に就任。2011年国際医療福祉大学客員教授。2013年帝京大学心臓外科客員教授。2014年ニューハート・ワタナベ国際病院を開設し、総長に就任。

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