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INTERVIEW

医療法人社団 至髙会 たかせクリニック 理事長

内科・精神科・心療内科

髙瀬 義昌

全方位からのアプローチで高齢者を支える

 「在宅医療に腰を据えてきちんとコミュニケーションを取りながら、がんではない領域で、本来の看取りの医療をしたい」。そう考えた髙瀬義昌先生は「がんよりもじっくり向き合える」と、認知症の方を多く診ています。
 在宅医療に潜むちょっとした問題を見つけ、それに対応していくことは、そこに関わる医療者が総力をあげて取り組むべきことの一つです。髙瀬先生は多くの人と協力し合いながら、高齢者とそのご家族を支えるアプローチに、さまざま方面から取り組んでいます。

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高齢者と家族を支えるしくみづくり

髙瀬先生が理事長を務めるNPO法人オレンジアクトでは、認知症の疑いをチェックできる無料アプリを配信されています。

 「認知症に備えるアプリ」は、大田区の3つの医師会で検診の際に行っていた家族アンケートと長谷川式簡易知能評価スケールから開発しました。家族アンケートでは、認知症が疑われる行動について15項目を設けていましたが、東京大学特任助教の五十嵐中先生にお願いして、4項目だけで認知症の疑いを判定できるように絞り込みました。アンケートというのは、項目が少なく特異度が高いものほど良いといえますが、この4項目で感度は93.9%、特異度は82.1%です。オレンジアクト事務局長の倉橋絢也は訪問看護事業を主とするITベンチャーの出身で、彼にこの話をすると、「すぐアプリにできちゃいますね」と言いました。それで、この判定のしくみを誰でも簡単に使えるアプリにしてもらったのです。

 このアプリの目的は、認知症の早期受診だけではありません。行政支援も兼ねています。行政の福祉担当者は大体3年ぐらいで交代になりますが、新しい担当者もこのアプリを使えば、認知症に関する知識が自然と身につくしくみになっています。また、孫にあたるような若い世代の人たちが任意・成年後見人制度の勉強をすることもできますし、アプリを通して弁護士や司法書士とつながることもできます。地域を活性化し、世代を超えて医療やヘルスケアの問題を共有するきっかけづくりになればと考えています。

髙瀬先生は、高齢者の脱水の予防にも取り組んでいらっしゃいますね。

 2004年に在宅医療を中心としたクリニックを開業すると、認知症の方の多さが気になりました。認知症の方は、脱水症状を起こしていても判断力の低下で自覚できないことがあり、水分補給のために点滴をしても、自己抜去して血だらけになってしまう方もいます。脱水はせん妄の原因の一つでもあります。また、水やお茶を飲んでいても電解質のバランスを保てなければ脱水症状は改善せず、高齢者は室内にいても熱中症のような症状を起こすことがあるのです。

 こういった問題をなんとかできないかと考えてピンときたのが、経口補水液でした。小児科に携わっていた時に、経口補水液をよく利用していたことがヒントになりました。大田区で経口補水液をまとめて購入し、高齢者のお宅に配布したところ、実際に入院数の減少がみられています。経口補水液を販売する会社の役員の方と「かくれ脱水」という言葉も考え、広めました。このようなことは、ほんのちょっとした観察から発見し、すぐに取り組めることです。

在宅医療に取り組むなかで、ほかにも気になったことはありますか?

 大きな病院から退院してきた患者さんをみていると、飲みきれないほどたくさんの薬を処方されていることがあります。認知症の方に1日7回も薬が出ていたケースもありました。これはさすがにクレイジーですよね。国民皆保険で薬が手に入りやすいことも影響しているのでしょう。

 Choosing Wisely Japan代表でもある徳田安春先生のお話を聞いていると、日本では、過剰な医療を適正化する「チュージング・ワイズリー」の考え方が少しゆがんでいるような気がします。これをあるべき姿にもっていくのに最もよいのが、在宅医療だと思うのです。

 私は、薬をできるだけ少なくしていくことにも取り組んでいます。例えば、糖尿病の方でデータがほぼ正常なのにたくさんの薬が出ている場合は、薬の数を減らすようにしますし、患者さんによってはインスリン注射を飲み薬に変えたり、病院と協力しながら食事や体重をコントロールしたりと、総合的なアプローチで薬を減らしていきます。

 認知症の症状が進んで、トイレの場所までわからなくなってしまった方でも、BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)という認知症の周辺症状をある程度コントロールした上で最小限の適切な薬を使うようにすれば、ひとりで出かけられるぐらいに回復する場合もあります。ですから私のクリニックの患者さんのなかには、「在宅医療卒業生」もいるのです。

 診断名を推論して診断的治療を行い、薬とケアを最適化した上で、病院においてしかるべき検査をする、というのが在宅医療の本来の流れです。薬とケアの最適化については、薬剤師や看護師にとって一番面白い仕事だと思うので、薬剤師の会や看護協会など、さまざまな方にこの話をして回っています。この流れのサイクルを回していくのは医師だけでは難しく、薬剤師や看護師、その他の介護のプロの方など、チーム全体でモニタリングしていく必要があります。そのなかで、医療のプロとしての自己実現を目指していくのです。

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PROFILE

髙瀬 義昌

医療法人社団 至髙会 たかせクリニック 理事長

髙瀬 義昌

信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了。麻酔科、小児科研修を経て、以来、包括的医療・日本風の家庭医学・家族療法を模索する中、民間病院小児科部長、民間病院院長などを経験。2004年東京都大田区に在宅を中心とした「たかせクリニック」を開業する。在宅医療における認知症のスペシャリストとして厚生労働省推奨事業や東京都・大田区の地域包括ケア、介護関連事業の委員も数多く務め、在宅医療の発展に日々邁進している。
一般社団法人 蒲田医師会 理事、公益社団法人 日米医学医療交流財団専務理事、一般社団法人 ITヘルスケア学会 副会長、公益財団法人 杉浦記念財団 理事、東京都医師会 地域福祉委員会 委員、東京都 認知症対策推進会議 認知症医療部会委員、NPO法人オレンジアクト 理事長

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