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INTERVIEW

AGRIE GROUP

心臓血管外科

伊藤 俊一郎

医療を自由に選択できる世の中に

心臓血管外科医として10年近くのキャリアを積んできた伊藤俊一郎先生。しかし、一人の医師の力では払拭できない現在の医療問題を解決するために、起業家に転身。2015年、クリニック「MED AGRI  CLINICつくばみらい」を併設した住宅型有料老人ホーム「AGRI CARE GARDEN」の立ち上げを皮切りに、AGRIEグループとして在宅医療や医療相談アプリなど、着実に事業を拡げてきました。そこにかける伊藤先生の想いや、その先にある医療のカタチについて伺いました。

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誰もが医療を自由に選択できるように

―AGRIEグループでは、どんな活動を行っているのでしょうか?

AGRIEグループでは、おもに3つの事業を展開しています。1つ目は、医療過疎地域に「MED AGRI  CLINICつくばみらい」MED AGRI CLINIC かすみがうら」「MED AGREE CLINIC なりた」「MED AGRI CLINIC いばらき」「MED AGREE CLINIC いといがわ」の5つのクリニックを立ち上げ、「断らない在宅医療」をモットーに訪問診療を行っています。現在、在宅診療部の従業員数だけでも130名。常勤医師10名、非常勤医師20〜30名、看護師40名で、約1200名の患者さんを診ています。

2つ目は人工呼吸器が必要な患者さんや難病、末期がんを抱えた患者さんを最後まで寄り添い支える医療特化型有料老人ホーム「AGRI CARE GARDEN」(MED AGRI CLINIC つくばみらいに併設)の運営。3つ目は、2018年1月にスタートした「医療相談アプリLEBER」の開発・運営です。チャットBotで自動問診を行い、それを元に医師が症状に合ったアドバイスを行うと共に、症状に合った医療機関や市販薬を紹介するサービスで、茨城県内複数自治体や新潟市などで実証実験を行っています。

これらの事業以外にも地元のブランド肉や野菜を使用した食事をAGRIEグループ内の老人ホームの入居者やクリニックの入院中の患者さんに提供し、地域の活性化にも力を入れています。

あとは、医師の働き方改革の試みも始めています。常勤医師は基本的に週4日勤務で、夜勤は非常勤の医師が担当しているので、残業も月10時間程度。医師の業務負荷を軽減するため、多くのクリニックで医師が行っているカルテ入力は全て、診療アシスタントが担当しています。まず診察中に診療アシスタントがボイス入力して、診療後に文字に起こし、医師は出来上がったカルテを移動中に確認するだけにしています。医師の労働時間の多くが、意外とカルテ入力に割かれている現状がありました。今後は、移動時間もさらに有効活用してもらえるような仕組みを作っていきたいと考えています。

さらに当グループの在宅診療部では、通常医療経験のない人が行うことが多い診療アシスタントに看護師経験者を配置することで、質の高いサービスを提供するようにしています。例えば、高齢者の患者さんが発熱を起こした際には、診療アシスタントが看護師なので、高齢患者さんに多い尿路感染症の検査を迅速かつ的確に行うことができ、検査をしなかったことで発生する手間やコストを削減することができます。

―AGRIEグループでの取り組みを通じて、どのような世界をつくっていきたいですか。

医療を本当に必要としている人に、適切な医療がきちんと届く世の中を作っていきたいと考えています。

日本には国民皆保険制度があるので、当たり前のように安い料金でクリニックを受診することができますが、2025年・2040年問題にあるように、近い将来今の形の医療・介護は成り立たなくなってきます。

そうならないようにするためには、軽症疾患はセルフメディケーションで対応し、無駄な医療は減らしていかなければならないため「医療相談アプリ」は必要不可欠なサービスだと思います。また、在宅医療も、膨らみ続ける医療費を抑え、日本医療の適正化を図っていくためには、今後求められるサービスです。

その一方で高齢化に伴う医療費増大が著しいために、高齢者は人工呼吸器をつけるべきではない、胃ろうは造設するべきではない。そんな風潮も少なからず見受けられます。しかし、医療技術が格段に進歩してきた現在、それが、本当に豊かな世界なのかと疑問に感じてしまいます。

事実、私の祖母も脳出血で倒れ、1カ月食事が取れない寝たきりの状態となり、胃ろうをつけたものの、受け入れてもらえる施設がなく、リハビリも受けられない状況を経験したことがありました。そこで、祖母を当グループの施設に転居させて、毎日栄養投与や言語聴覚士のリハビリを施した結果、2週間で自分でご飯を食べられるようになり、今では見舞いにくる家族と話しができるくらい元気になりました。私たちの老人ホームには、見学にくる他の慢性期病院の看護師さんも驚かれるくらい、人工呼吸器を装着してもイキイキと元気に生きている患者さんがたくさんいらっしゃいます。

医療は本来、患者さんやその家族が倫理的に許される範囲で自由に取捨選択できるべきです。医療費抑制ありきの選択ではなく、患者さん本人が選択し、適切な医療を受けられる世の中でないと不幸だと思います。

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PROFILE

伊藤 俊一郎

AGRIE GROUP

伊藤 俊一郎

AGRIE GROUP CEO
新潟県出身。2004年筑波大学医学部を卒業後、同大学附属病院にて初期研修修了。同大学心臓血管外科に入局し、茨城県内の関連病院等で研鑽を積む。2015年5月茨城県つくばみらい市に「MED AGRI CLINICつくばみらい」、同年9月スペシャルケアホーム「AGRI CARE GARDEN」をオープン。2017年4月 茨城県かすみがうら市に「 MED AGRI CLINICかすみがうら」、2018年4月千葉県成田市にMED AGREE CLINIC なりた」同年11月茨城県東茨城郡茨城町に「MED AGRI CLINIC いばらき」、2019年5月新潟県糸魚川市に「MED AGREE CLINIC いといがわ」をオープン。現在、かすみがうら市に住居型有料老人ホーム、有床診療所を建設中で、今年中に新たに3施設のクリニックをオープン予定。並行して「医療相談アプリLEBER」の開発にも携わっている。

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